文子は関東から関西へ越してきて13年になる。
先に越してきた夫に続き、当時9ヶ月の息子とふたりで
新幹線に乗り、マンモス団地群の一室に入った途端、
強烈なホームシックに陥った文子だったが、
今では不思議なほど馴染んでいる。歳月のおかげだろうか。
夫が出た後に、フリースクールに通う中学校一年生の息子、一樹と
ゆっくりリビングでフルーツヨーグルトを食べる。
これは最近、加藤家で流行っている、というか文子が毎朝
3人分用意しているもので、その名の通りプレーンヨーグルトにフルーツを乗せたもの。
実は、その前日に、一樹の頭頂から、一本の白髪が伸びてるのに気づいたのがきっかけだ。
「13歳で、白髪・・・?」
それから一週間近く経っても、
まだ生えてるのか確認してしまう。
栄養が足りてないのかと思い、
あまり食事には執着しない息子だが、
とにかく朝晩はしっかりと食事を出そう、と
改心した翌日から始まったメニューである。
ヨーグルトと、ハムエッグとトースト、または残りご飯で作ったたまご入りチャーハン
そして、砂糖入りのミルクティー。
文子は自分ではストレートティーを入れることが多かったが、
息子の好きな甘いミルクティーを入れると、
ついつい自分のもそうしてしまう。
初日のフルーツヨーグルトは、
カットした缶詰の黄桃とゴールデンキウイを多めに載せた。
大喜びの一樹に嬉しくなる。
やりがいのある仕事だ、と文子は思った。
それから、明日のフルーツヨーグルト初め、朝ごはんの材料を買うのが、
日々のルーティーンになり、楽しみにもなっていった。
朝ごはんさえちゃんとこなせたら、
夕ご飯までには時間もあるから、
後から考えればいい。
今晩は初日のリクエストで作ったハンバーグのネタがまだ冷凍庫にあるから、
今日はそれを解凍して焼くことにしよう。
何年経っても、
完璧な主婦にはなれないけれど、
息子に白髪も生やしてしまうけれど。
こんなふうに、ちゃんと暮らしを
営めていると感じる時、
ああ なんだか一般人らしいと
これでいいんだろうなと
平和ってこういうことだろうなと
思えたりする。