大分県は東九州新幹線(フル規格)の誘致に熱心なようです。それも大分から博多へのアクセス改善のためだそうです。

大分県はフル規格ルートで日豊本線沿いのルートと久大本線沿いのルートの2通りの建設費を試算しており、どちらの場合も8000億円超になるとのことでした。(下の読売新聞の記事より 2024/01/10にアクセス)

 

 

しかし、フル規格を全線にわたって整備してしまうと、必ずと言って良いほど並行在来線問題が出てきてしまいます。

例えば日豊本線沿いのみに全線でフル規格を整備すると、在来線の日豊本線が経営分離される可能性があります。おまけに今の特急ソニックの日豊本線内の停車駅である亀川、杵築、宇佐、柳ヶ浦、宇島、下曽根の内のどれかは新幹線の停車駅にならない可能性があり、鹿児島本線内の停車駅である戸畑、黒崎、折尾、赤間、福間、香椎などもフル規格新幹線になってしまうと停車されなくなってしまうことになります。それに対して久大本線は全く手付かずになってしまいます。

一方、久大本線沿いのみに全線でフル規格を整備すると、当然在来線の久大本線は経営分離される可能性があり(下手したら廃線の可能性もあり)ますが、これに加えて日豊本線も経営分離されてしまい特急ソニックが減便されてしまう可能性もあります。これは西九州新幹線の武雄温泉~諫早と長崎本線の肥前鹿島~諫早の関係を踏まえると想像がつきます。

これでは大分県のためにならないですし、福岡県のためにもならないでしょう。

 

以上を踏まえると在来線の新幹線対応化をもって大分新幹線を整備すべきということになります。

 

私の持論は、「日豊本線か久大本線の片方の路線沿いだけに8000億円かけてフル規格を作るくらいなら、両方の路線で合わせて1兆円くらいかけて『在来線の新幹線対応化』をした方が賢いやり方だろう」ということです。

 

日豊本線ルートと久大本線ルートの役割を以下のように明確に分けた上で、2つの在来線を整備すべきでしょう。

1. 日豊本線ルートは博多・新大阪へのアクセス改善

2. 久大本線ルートは博多でなく久留米・熊本・佐賀・長崎へのアクセス改善

間違えても1と2のどちらかのみで終わってしまうのは良くないです。必ず両方の路線に手を施して大分新幹線の全線開通とすべきでしょう!

 

 

それでは具体的な在来線の改善案について説明することにします。時折OpenStreetMapに描画して説明しています。

 

[A. 日豊本線整備]

これは日豊本線の行橋~大分の複線三線軌条化及び部分的なフル規格化です。

 

本来、博多・小倉までのアクセスを改善するだけなら三線軌条化までは不要であり、日豊本線の部分的な狭軌スーパー特急化で十分です。新大阪までのアクセスについても、小倉までのアクセスが改善されれば十分事足ります。

それなら、なぜ複線三線軌条化まで考えるのか?それは後述する久大本線の標準軌化・複線化・電化・高速化と抱き合わせて整備することで、山陽・九州新幹線の小倉~筑後船小屋の標準軌迂回路を実現するためです(かなり遠回りにはなるが)。

そこで今回は行橋~大分は複線三線軌条にして、博多方面は狭軌スーパー特急で、新大阪方面は標準軌ミニ新幹線にすることを考えます。なお、山陽新幹線から行橋駅までのルートについては、直方付近で新大阪からきた列車のみが分岐できるようにし、博多方面からは分岐させないようにします(下の図の赤線ようにかなり大回りにはなるが)。このアプローチ線上に直方駅付近に新駅を設けても良いと思います。


© OpenStreetMap contributors

 

つまり山陽新幹線への合流地点はデルタ線にはならないということですが、これは博多方面の列車までも新幹線にしてしまうと鹿児島本線内の停車駅である戸畑、黒崎、折尾、赤間、福間、香椎などから大分へのアクセスができなくなってしまうからです。従って博多方面は狭軌スーパー特急で十分なのです(狭軌スーパー特急は博多から行橋までは従来の特急ソニックと全く同じルートを通るため)。

 

複線三線軌条にする理由は、日豊本線の列車本数が多いからです。特に博多~大分のスーパー特急を片方向2本/hずつ、新大阪~大分のミニ新幹線を片方向2本/hずつ設けて尚且つ普通列車や貨物列車も多く走らせるのであれば、複線三線軌条は必須と考えられます。

 

複線三線軌条にするといっても、具体的にどのようにするのか?

山形や秋田で行われているミニ新幹線方式では、改軌または三線軌条化で在来線を長期にわたって運休せねばなりませんでした。しかし、日豊本線(小倉~大分)の全区間でこれをやるのは現実的ではないでしょう。

そこで、土地買収が容易な箇所では、現在の在来線の横に新たに複線三線軌条の線路を設け、その線路ができ次第、駅ごとその新しい線路に引っ越しすれば良い。特に地べたにスラブ軌道を敷くということをすれば良いでしょう (ヨーロッパの高速新線も地べたを走っていますし、これが理由だからか日本の新幹線に比べて建設費も安い)。三線軌条は線路のメンテナンスの費用が余分にかかりますが、その分は省力化軌道であるスラブ軌道にしてメンテナンスの費用を減らすと良いでしょう。つまりユーロ規格で作って三線軌条という手法です。在来線をスラブ軌道化することは軌道の若返り工事として健全だと思います。

 

どうしても軌道中心を意識せねばならない既存の高架区間(中津駅周辺、別府駅周辺)や在来線寸法のトンネルを利用せねばならない別府~大分、途中駅が相対式2面2線のホームしかない亀川~別府などは夜間工事を利用して四線軌条にした方が良いかもしれないですね。

 

ついでに踏切を全て無くし、下の写真のように道路を線路の上から跨がせるようにすれば(これもヨーロッパ手法)在来線の180km/h中速鉄道化もできそうです。ヨーロッパのやり方ってコスパ良いですね!

 

イタリアの高速鉄道から筆者撮影

 

以上の方法を駆使して複線三(四)線軌条にすべき既存の在来線区間は行橋~柳ヶ浦と亀川~大分(もしくは亀川~東別府と西大分~大分)でしょう。

 

 

となると残りの柳ヶ浦~亀川はどうするか?ここで高速新線の出番です。

こういうルートはいかがでしょうか?

・柳ヶ浦から亀川までを緩やかな曲線を描くように新規でフル規格複線三線軌条で建設し、スーパー特急とミニ新幹線を共に200km/h ~ 250km/hで走らせる

・豊後高田と中山香に新駅を設ける(中山香は新杵築に改称?)

もしかしたら、先ほどの別府大分間の内、東別府から西大分についてもこういう形態の高速新線に付け替えるのもありだと思います。

このルートの欠点は、宇佐を通らないことです。杵築の方は代わりに隣の中山香(新杵築)に停車しますが。

これをやる場合には、片方向2本/hのスーパー特急の内の1本/hは、従来の日豊本線を通り宇佐と杵築に停車するようにした方が良いかもしれません(杵築に停車するため、新杵築は通過)。それ以外の速達便やミニ新幹線は高速新線を走る感じになるでしょう。

 

© OpenStreetMap contributors

 

 

[B. 久大本線整備]

久大本線については完全に標準軌化してしまって構わないでしょう。私の知る限りこの区間に貨物列車は走りませんから。よっぽど線形の悪い区間のみフル規格にしてしまえば問題ないでしょう。

わざわざ久大本線ルートの全線フル規格を考えず、部分的なフル規格化と標準軌化を併用するのはなぜでしょうか?もし久大本線ルートを全線フル規格にしようとすると、由布院から別府までをぶちぬくという考えになる人が多いのではないかと思います。しかし、由布岳や鶴見岳をぶちぬくのは絶対に避けるべきです!由布岳や鶴見岳は大分県にとって重要な観光資源であることに間違いありませんが、ここに高架橋をつくろうものなら景観が台無しですし、そもそも火山をぶちぬくのは非現実的すぎます。なので、由布院付近で大きくカーブしている線形はそのままにすべきでしょう。

従って、久大本線は以下のように処置すべきと考えます。

・由布院西側~豊後中村、北山田~日田、光岡~筑後大石を複線フル規格に付け替え

・それ以外の区間は標準軌化、複線化、電化 (古国府~庄内は直線化も必要)

 ここもヨーロッパ方式で地べたに標準軌線路を敷く(建設費を抑えるため)

・久留米大学駅を高架化

・久留米大学駅または南久留米駅から九州新幹線 筑後船小屋駅に向けて標準軌アプローチ線を建設

(下の図で赤線が新規建設区間で、青線は在来線改良区間です)

こうすれば、大分から熊本・鹿児島中央までミニ新幹線を走らせられます。

 

© OpenStreetMap contributors

 

先述したように久大本線のミニ新幹線化については博多へのアクセス改善のためではありません。博多へのアクセス改善なら既に日豊本線(行橋~大分)の三線軌条化(+スーパー特急化)で済んでいるからです。久大本線のミニ新幹線化は大分から久留米、熊本(、佐賀、長崎)などへアクセスしやすくするためです。

 

以上が大分新幹線の整備妄想でした。一体これで合計いくら建設費がかかるかはあまり想像がつきません。1兆円で済むかは分かりませんが。

 

 

これらのAとBの組み合わせで、在来線を活用しながら適度に高速化も図れる方法が似合っていると思います。新大阪~由布院にミニ新幹線を走らせることもでき、大分県としても観光客を呼び込みやすくなるでしょう。

 

 

 

 

「大分に新幹線欲しい」という方も「東九州新幹線は不要」という方も、この在来線整備に興味を持っていただければ幸いです。