【第54回】
「金剛の教え」
あるところに、一人の男性がいました。
幼くして両親を亡くし、剣術家で柔術家であった祖父を頼って中国へ渡り、
成長してからは様々な仕事をこなしました。
一方で、ある拳法の達人の弟子となって教えを受け、広い中国を旅しながら
数々の達人から技を学びました。
そしてついに、ある有名なお寺で継承の儀式を受けるまでになりました。
また、日本が敗れた戦後の混乱の中、治める側の考え方で社会が大きく変
わる様を目の当たりにし、思いました。
「人、人、全ては人の質にある。もし生きて日本に帰れたなら、勇気と自信
に満ち溢れた、強くて正しい若者の育成に力を尽くそう。」
そしていざ帰国してみると、人の心は乱れて社会は秩序がなく、目を覆い
たくなるような有様でした。
早速青少年の育成を始めましたが、思うように進みません。
ただ仏教の教えを教えるだけでは面白みに欠け、皆長続きしなかったのです。
そんな折、かつて継承の儀を受けた寺の創始者を夢に見て、ある方法を思い
つきます。
「インドから中国へ渡って禅宗を伝えた菩提達磨(ぼだいだるま)にならい、
自分も拳の道と人の道を一緒に説こう。」
そして、自らの経験をもとに、新しい拳法を創始したのでした。
日本と中国で拳法を学び、日本で少林寺拳法を作り上げた、宗道臣(そう
どうしん)。
宗道臣は拳法を教える合間に、繰り返し説きました。
愛のない力は暴力であり、力のない愛は無力にすぎない。
あの世に極楽浄土を望むのではなく、心と体を鍛え、この世に理想郷を築こう。
この教えは金剛禅(こんごうぜん)と呼ばれ、多くの人の賛同を得て普及
していきました。
中国の少林拳と日本の少林寺拳法は、源流は同じでも、別のものであると
言えます。
不屈の精神力と金剛の肉体を備え、自らの意思と他者への思いやりを持って、
この世に理想郷を築く。
そんな若者の育成に力を注いだ宗道臣の姿勢からは、何かを学ぶべきですね。
▼もうちょっと知りたい!という方はどうぞ。↓
※宗道臣は、中国で数々の拳法の達人に弟子入りします。
もともと祖父に武道の教えを受けていましたが、中国各地の達人の教えを
吸収し、さらに力をつけました。
義和団事件(1900年)の影響で、当時の中国では武術訓練が規制されて
武術家は後継者問題に悩んでおり、自ら教わりに来る宗道臣には熱心に教
えてくれたようです。
全ての修行を終え、菩提達磨が少林拳を創始したという嵩山少林寺で、継承
の儀を受けました。
※太平洋戦争の敗戦時、大連にいた宗道臣は、約1年後日本に帰国し、香川
県で少林寺拳法を創始します。
始めは仏教の教えを説いていましたが人が集まらないため、達磨にならって
拳法で人を集めました。あくまで社会のリーダーを育てることが目的で、
拳法はそのための手段でした。
※少林拳と少林寺拳法は別のものですが、お互いに認め合う関係であり、
様々な交流が行われているそうです。
※拳の三訓として、下記の教えがあります。
守(しゅ) 師の教えに従い、まねる。師のレベルに達する。
破(は) 師の教えを応用・変形する。
離(り) 師を超える。創造する。しかし本質は守る。
※また、勘を養うためとして、このような教えもあります。
・常に問題意識を持つ。
・他の事と関連させて考える。
・情報を蓄える。
・好奇心を持つ。
これらの教えからも、ただ肉体を鍛えるだけではない、人づくりの業で
あることが伺えます。
※少林拳と少林寺拳法は別のものですが、お互いに認め合う関係であり、
様々な交流が行われているそうです。
▼オマケの話
少林寺拳法では、武術だけに留まらず、日常の基本的なことまで含めた
様々な教えがあります。
例をあげると、
・心と体は一つであり、両方を修行しなければならない。
・自ら攻撃はせず、防御から反撃へ。
・実戦に即すため、一人では修行しない。
といった、武道に即したものから、
・動きやすく、清潔な服装をする。
・掃除をする。
・履物を脱いだらそろえる。
といった内容も含まれます。どれも本当に重要なことですね。
※少林寺拳法は現代日本の仏教について、偶像崇拝や儀式、まじない
などによって人の不幸を悪霊や先祖の祟りなどのせいにする姿勢を批判
しているそうです。
▼編集後記
私は子供の頃に10年ほど剣道を習っていて、礼儀などは結構厳しく
教わったため、心と体を鍛える、という少林寺拳法の教えにはかなり
共感できます。
一方、厄年などと言って不安をあおって金銭を求める姿勢は好きでは
ありません。
とはいえ、いざ体が利かなくなれば何かにすがったり祈ったりもしたく
なるでしょうし、お寺が存続しなければ、先祖の供養もままならなく
なってしまいます。
この場で語るには、少々難しい問題ですね。
軽い話に変えましょう。以前、好きなCMがありました。
「あったまばっかりでも、かーらだばっかりでもダメよね。プチダノン!」
というものですが、これこそ文武両道の精神であり、金剛の教えの流れを
汲むものであると言えるでしょう。
そう思うのは私だけでしょうか。学生時代は結構本気で、これを座右の銘
にしようと思っていたのですが..。
プチダノンの、小さいけれど濃厚な味も好きでした。
▼これであなたも物知り博士?
「次の有名人のうち、少林寺拳法の経験者は?」
1.安室奈美恵
2.戸田恵梨香
3.水野美紀
答え: 全員
戸田恵梨香さんと水野美紀さんは初段を取得しているそうです。
▼ものがたりに学ぶ、今週の教訓
「頭ばかりでも、体ばかりでもダメ。」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
★次回 旅のものがたり
「舞を継ぐ者」(仮)
先日、下見に行って来た場所の話です。
それでは、次回の「旅のものがたり」をお楽しみに!