【第52回】




たてものがたり編


          「大丈夫な塔」



むかしあるところに、高い塔が建てられることになりました。


塔は大切な神様を祀るためのものだったため、決して倒れない、丈夫なもの
でなくてはなりませんでした。


そこで皇帝は命じました。


「どれだけ時間がかかっても良いから、何があっても大丈夫な塔を建てよ。」


職人達は知恵を出し合い、試行錯誤を繰り返しました。


案を出しては変え、つくっては直し、途方もない時間をかけて塔づくりは
行われました。



いつしか皇帝は何代も変わり、塔づくりも親から子へ、孫の代へと引き継がれ、
100年以上も経った頃、何層かの構造を持つ丈夫な塔ができあがりました。


塔は木を組み合わせて作られ、釘は一本も使われませんでしたが、これには
ちゃんと理由がありました。


塔のてっぺんにだけ、長い鉄の飾りが付けられましたが、これにもちゃんと
理由がありました。



ある時塔は、大きな地震に襲われました。


地震はその後何日間も続き、周りの建物はみんな倒れてしまいました。

でも、塔は大丈夫でした。


もともと頑丈なつくりの上、釘を使わず、木が組み合わされて出来ている
ので柔軟性があり、多少のずれや歪みは自然になおる働きがあったのです。


ある時は、塔に雷が落ちました。


でも、塔は大丈夫でした。


てっぺんの鉄の部分はただの飾りではなく、うまく地面に電気を逃がすはた
らきがあったのです。


その後、戦火にさらされてたくさんの銃弾を浴びたりもしましたが、傷は
ついても塔自体はびくともせず、やっぱり大丈夫でした。



中国山西省、応県にある、応県木塔(おうけんもくとう)。



一見すると塔は5層に見えますが、実際は間に挟まれた層があるため、9層
構造となっています。


この様に、無数に積み重ねられた見えない工夫が、後世まで残る、何があって
も大丈夫な塔を生んだのでした。


実際に登ることもできるようですので、訪れた際は、足を運んでみてはいかが
でしょうか。



▼もうちょっと知りたい!という方はどうぞ。↓


応県木塔は、正式名称を仏宮寺釈迦塔といい、高さは70m、底層の直径は
30mほどあります。


各層は、外側24本、内側8本の柱で支えられ、材料として朝鮮松が使われ
ています。


鉄の釘は使わず、木材を互いにかみ合わせる「ほぞ」を利用し、様々な手法
で巧みに木を組み合わせているそうです。


マグニチュード6.5クラスの地震にも耐え、近年では戦闘の際に200回
以上も砲弾を浴びましたが、傷ついたのは表面だけで、構造自体は損傷を
受けていないそうです。


塔には多くの弾痕があり、食い込んだ砲弾も見られるといいます。


塔の先端には鉄刹(てっせつ)と呼ばれる、鉄でできた高さ14mの装飾が
あり、避雷針の役割を担っています。



▼オマケの話


1056年に建立され、すでに950年ほどの歴史を持ちますが、完成までに
140年もかかったので、出来てからは800年ほどということになります。


最下層の屋根は24本の柱に支えられ、計算上、それぞれの柱に120トンの
負荷がかかっているそうです。しかし柱は石の土台に埋め込まれておらず、
窪みすらなく、ただ土台の上に立っているだけだといいます。


さらに不思議なことに、ある人が柱の下に糸を通すと通ってしまったといい、
柱が順番に休憩を取っているという話まで生まれています。



▼編集後記


京都の清水寺で、外国人ツアー客を見かけた時のことです。


ガイドさんから、「清水の舞台では、釘は一本も使われていません。」


という説明があった直後、柱に釘があることにお客さんが気づきました。


「釘あるよ。」と言われたガイドさんは、舞台を支える部分にはないのだと
説明していましたが、案内の仕方は重要だと思いました。


些細な言い回しで、納得度が違ってくるためです。


お客様は、現地に足を運んだからには本当のことを知りたい、見たいと考え
ているはずです。そこに、ガイドブックや観光案内所に書いてあるままを
案内しても、あまり驚きや喜びは得られないと思います。


この「旅のものがたり」はもともとお客様用の資料として始めたものなので、
そのあたりには一応気を使っており、本で調べたことや聞いたことは、「~
だそうです。」といった言い回しにしています。


実際に見てきたものでも、「あの時はこうでした。」と伝えます。


また、知らないことは知らないと伝えることが重要だと考えています。


確認のしようのないこともありますし、たとえ見てきたことでも変わって
しまうこともあるので、実際の様子は、ぜひご自身でご覧いただきたいと
思います。


どんなことも楽しんでしまう方が、きっと旅は面白くなるでしょうしね。

ないと言われている釘が実はある、ということも、案内の仕方ひとつで
楽しい旅行のエッセンスになると思います。


あまり熱心に語ると自分達の首が絞まるので、このあたりにしておきます。



▼これであなたも物知り博士?

「日本の建築基準法では、ある高さ以上の建物には避雷針または何らかの
避雷設備を設置することが義務付けられています。何m以上でしょうか。」

1.10m
2.20m
3.30m








答え: 
20m以上の建物に義務付けられているのだそうです。


案外低い気もしますが、先日神輿に雷が落ちたことを思うと、それくらい
の高さから備えは必要なのでしょうね。



▼ものがたりに学ぶ、今週の教訓


「弛まぬ工夫の継承は、他を寄せ付けぬ高みに達す。」



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


▼今回の旅の写真は、下記のリンクから見られます。


旅のものがたり



★次回 旅のものがたり

おきものがたり編

「だるまさんが座った」(仮)


それでは、次回の「旅のものがたり」をお楽しみに!