古代中国では身を修めることが重んじられ、子どもへの教育は、人格を磨き、訓練することが重要視されていました。それに関連する逸話や物語はたくさん伝えられており、現代人にとって学ぶ価値の高い内容のものも残っています。その中の一部を、ここに紹介します。
 

  老禅師、無言の教育

 

昔、一人の老禅師がいました。ある日の夜、師が禅庭の中で散歩していたところ、寺院の塀ぎわにひとつの椅子が置かれているのを見つけます。寺院の戒律に背き、誰かが塀を乗り越えて出かけたということが、一目瞭然でした。老禅師は騒ぎ立てることなく静かに椅子を移動してその場所にしゃがみます。

 

小一時間もすると、塀の外でなにやら物音が聞こえてきました。暗がりの中、一人の小坊主が、寺院の塀を乗り越えて、老禅師の背中を踏んで飛び降ります。その瞬間、自分が踏んだのは椅子ではなく、師であることに気がついた小坊主は、驚きのあまりその場に立ちすくんでしまいました。師にとがめられ、処罰を受けることが一瞬頭をよぎったのです。

 

ところが、思いがけず師は彼を厳しく責めもせず、とても落ち着いていました。「深夜は冷えるので、早めにもう一着羽おったほうがいい」とその声は、とても優しいものでした。

 

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