桜の花がすっかり散り去った季節。


皆さんの帰りを今か今かと待ち構えていた中、清州城に知らせが舞い込んだ。


「此度の戦、織田軍の圧勝!直に帰還されるとのこと!」


わぁっと歓喜の声が上がる。


私はおずおずと使者の方に近づき問うた。


「あの…皆さまご無事なのでしょうか?秀吉様や半兵衛様、利家様はご無事でいらっしゃいましたか?」


「あぁ…秀吉様は刺客に斬りつけられたとか聞いたな。だが…」


私はその言葉を聞いて頭が真っ白になり、ふっと意識を手放した。






城が近くなるにつれ、俺、豊臣秀吉の心中は穏やかではなくなっていく。


(どう切り出せば…)


馬上で揺れる俺の頭の中は琴音ちゃんになんと声をかけようか…、それでいっぱいになっていた。


(まずは謝罪を…いや…べっ甲飴のおかげで命拾いした事を告げるべきか)


「おい」


(斬られたなんて言ったら心配するよな…)


「おい…」


(ここは何も言わず「ただいま」とだけ言うべきか)


「おい!秀吉!」


「えっ?」


声のする方に顔を向けると、怪訝そうな顔をした利家がいた。


「なに?わんこくん」


「わんこくんじゃねーよ!ったく湿気た面で無視しやがって。まさか…斬られたところが痛むのか?」


「ごめん!ごめん!ちょっと考え事してただけ。胸は大丈夫だよ。軽く傷がついただけだったし」


何時も通り笑って見せたが、利家の怪訝顔は治まらない。


「…なぁ」


「ん?」


「琴音となんかあったのか?」


「なんで?」


「出立の時、お互い避けてたみたいだったからよ」


「………」


「泣かせんなよ」


「…わんこくん、琴音ちゃんが好きなの?」


「まぁな」


「へぇ…」


「ばっ馬鹿野郎!妹みたいにって意味だからな!」


利家の慌てぶりについ笑みが洩れる。


「ちょっとした行き違いで…彼女の事傷つけたんだ。だからちゃんと謝りたくって」


心中をポツリと漏らすと、利家が至って真面目な顔で言葉を返してくる。


「んなもん『ごめん』で良いじゃねーか」


「ふふっ…わんこくんは全然女心がわかってないなぁ」


「秀吉も相当女心がわかっていないではないか」


利家の単刀直入な回答に笑っていると後ろから半兵衛の痛烈な反撃に遇い、俺は苦笑いを返すしかなかった。


やがて着いた城門は、留守を預かっていた人々の出迎えでひしめき合っていた。


俺は馬上から琴音ちゃんの姿を探すが、彼女の姿は一向に見つからない。


馬を降りた俺は顔見知りの女中に声をかけた。


「琴音ちゃんは?姿が見えないけど」


「秀吉様!ご無事だったのですね!」


「うん、俺はこの通りピンピンしてるよ」


「秀吉様が襲撃にあって斬りつけられたと聞いて…それを聞いた琴音さんは気を失ってしまったのです」


「今どこ?」


「自室で休ませてます」


俺は直ぐにその場から駆け出した。






気がつけば私は自室の褥の中にいた。


褥の中で身じろぎをすると、襖の向こうに人の気配を感じた。


「誰?」


「………」


襖の向こうからは躊躇いがちな声が聞こえた。


「秀吉…様?」


「うん…」


慌て起き上がろうとすると「そのままで!」という秀吉様の声がした。


「琴音ちゃんが倒れたって聞いて…いても立っても居られなくなって…部屋まで押しかけてごめん」


「ご無事…なのですね」


「うん…」


「良かった…」


涙が溢れる。


「俺…今血だらけでボロボロで…琴音ちゃんが見たら卒倒しちゃうような身なりなんだ」


「お怪我を?!」


「いや…俺自身の怪我は軽いから大丈夫なんだ…その…」


襖の向こう向こうの秀吉様は躊躇いがちに言葉を続ける。


「ただ…『ただいま』って…伝えたくて」


私は褥から立ち上がり、襖へそっと寄り添った。


「秀吉様…」


「うん…」


「お帰りなさいませ」


秀吉様の大きな手が襖に触れる。


私はその影にそっと手を合わせた。











ꔛ‬𖤐


アメブロでは久しぶりのSSφ=φ_(:P 」∠)_


noteにはちょこちょこアップしていたのですが


そろそろ恭一郎さんSSの続きを書きたくて(๑´ω`๑)


それに繋がる秀吉さまと琴音のSSを先に更新しました


さてさて恭一郎さんストコネ(ノ)`ω´(ヾ)コネするわよー