私は広い背中を追いかけていた。


息を切らしながら走っていると、その人は立ち止まり私の方へと振り向いた。


ふっと笑みを浮かべ手を伸ばしてくる。


私はさらに急ぎ足でその人の元へと向かった。


手に持つ巾着に付いている小梅の鈴が、走るたびにチリンと音を奏でる。


「ほら…行くぞ。今日ははぐれんなよ」


「はい!」


手を伸ばすと、大きな手が私の手を包み込むように握った。






「おい?」


「はい?」


「はい?じゃねぇだろ。目開けたまま寝てんじゃねえ!」


気がつけば所長が不機嫌な表情で私の顔を覗き込んでいた。


「あっ…いえ…あの…妄想が見えていたと言いますか…」


(顔が…ちっ…近い)


変な汗が背中を流れる。


所長はイケメンだ。


誰が見てもそう言うだろう。


俳優みたいな端正な顔立ちで、背丈も高い。


こんな男前に真摯に見つめられたら、男だって惚れてしまうと思う。


しかし本人にその自覚はない。


自覚があれば眉間に皺など寄せずに、どんな時でも澄ました顔でいるはずだ。


「やっぱり寝ぼけてんじゃねぇか!」


鬼の形相で怒鳴る所長にビクビクしながら、私は言葉を続けた。


「夢?だったのかなぁ?なんだか懐かしい気分に浸ってしまって…」


あたふたと言い訳をする私の頭に、コツンとげんこつが落ちてきた。


「お前は阿呆か?」


「たぶん阿呆です」


所長は深いため息をつき、腕時計の文字盤をチェックし始めた。


「そろそろ出るぞ。商談に間に合わなくなっちまう」


「はい」


私は慌てて手元の書類をかき集め、ファイルに挟んでブリーフケースの中に詰め込んだ。


「しかしお前の鞄は何時見ても色気のねぇ鞄だな」


所長は出来るサラリーマンが持っているような、黒のブリーフケースをマジマジと眺めている。


「私は見た目より機能重視派なんです」


「ふん」


私は上着を羽織り、慣れないパンプスに履き替えた。


「襟が曲がってるぞ」


「あっ…はい」


鏡の前で身だしなみを整え、鞄を手にしてドアへと向かったその時


チリン


(鈴の音?)


よく見るとブリーフケースには、梅の花を象った小さな鈴が付いていた。


「これ…」


「迷子防止策だ。お前しょっちゅうはぐれるからな。鈴付けときゃすぐに見つかるだろう」


「あっ…有難うございます」


何故か胸がキュッと甘く締めつけられた。


(なんだろ…この感情は…)


「行くぞ」


「はい」


ドアを閉め鍵をかけ、先を歩く所長の背中を小走りで追いかけた。


チリン


チリン


走るたびに鈴は忙しなく音を奏でる。


ふと所長が立ち止まった。


「ほら…」


振り向いて手を伸ばしてくる。


反射的に伸ばされた手に、ポスンと軽く丸めた手を乗せた。


「お手?」


「てめぇは犬か!」


再度軽いげんこつが頭に落ちてくる。


「えっ?違うんですか?」


わけがわからずあたふたする私に、所長は再度手を伸ばした。


「手…掴まれ」


「…」


「早くしろ!」


「はっはい!」


大きな手が私の手を包み込むように握った。


(あっ…この感じ…さっきの夢と…)


懐かしいという感情が湧き上がった。


(違う…夢じゃない。私は…この手の感触を知ってる)


「行くぞ」


「はい!」


大きな手がより一層強く私の手を握った。











ꕀ꙳


三年前にこのSSを載せた時は書かなかったのですが


これ、土方さんをイメージして書いたのです


お気づきの方いらっしゃると思う(´>∀<`)ゝ))エヘヘ


随分前に書いてたSSの、今で言うならスピンオフ?分岐の一つみたいな?


中島美嘉さんの『永遠の詩』は、最初から私の中では土方さんのイメージがあって


この曲で土方さんの動画を作ってYouTubeに載せれたらどんなに良いだろうと思ってました


5月5日にそれが叶ったので(めっちゃ短い一分未満の動画だけど)


そうだSSを再録しよう*( ˶'ᵕ'˶)と思いました


永遠の詩 中島美嘉 


SS書き始めて14年(*´-`*)

「自分の妄想を文章にして良いんだ」ってとこから始まって

「自分のイメージを動画にして良いんだ」まで広がりました