晴れ渡る三月の終わり。
清州城の城門は出陣を待つ武士達でひしめいていた。
私は人混みを掻き分け、半兵衛様を探していた。
「琴音」
落ち着いた声が私を呼ぶ。
「半兵衛様…これをお持ちください」
私は小瓶に詰めたべっこうあめを差し出した。
「あぁ、助かる」
薄く笑みを浮かべる半兵衛様を見てホッと息をつく。
「…もう一つあるだろう。秀吉に渡そう」
そう言って手を差し出され、私は戸惑ってしまう。
「ご迷惑ではないでしょうか?」
「迷惑なものか。それに私が戦場で一人甘味を口にしていたら、秀吉が拗ねるだろう」
「ふふっ…そうですね」
私はもう一つ持っていた小瓶を半兵衛様に手渡した。
「無事に帰る。あなたは此処で待っていれば良い」
「はい…ご武運を」
背を向ける半兵衛様を見送っていると、後ろで何やら騒ぎが起きていた。
「だーかーらー親父殿は城を守ってりゃいーって!」
「しかしだな…このくらいの傷で出陣しないなど名が折れる…」
利家様と勝家様が何やら言い合いをしていた。
勝家様は先の戦で深手を負い、今回の戦では居残りを命じられていたのだ。
「勝家様…」
私は勝家様のそばに向かい、声をかけた。
「勝家様の隊が今回城に残ると聞き、大変安心しております。戦が始まると、やはり女だけでは不安なもの。どうぞ今回は傷を治すことに専念なさってください。私もお手伝いいたしますから」
「むぅ…琴音にそう言われると、我儘が通し辛いな」
「親父殿、大丈夫だって!サクっと行ってサクッと帰ってくるからよ」
利家様が勝家様の大きな背中を叩く。
「うむ…そうだな。今回は利家や秀吉に任せるとしよう」
本当の親子のような掛け合いに笑みが浮かぶ。
「ふふっ」
「…」
利家様が私に近づき、そっと耳打ちをした。
「秀吉と喧嘩したのか?」
「えっ?あっ…いえ…」
歯切れの悪い言葉を返すと、利家様は大きな手で私の頭を撫でた。
「理由はわかんねぇけど、帰ったら仲直りしろよ」
「はい…」
「暗い顔すんなって!楽勝で帰ってくるからよ!」
大きな手が私の背中を叩く。
「わっ…」
軽くよろけたところで、利家様の逞しい腕が私を抱きとめた。
「わりぃ!」
「いえ…大丈夫です」
そう言いながら上げた視線の先に、見慣れぬ人が佇んでいた。
「…」
紫紺の着物に身を包んだ殿方は、信長様の様子を気にしているように見える。
「ん?アイツが気になんのか?」
「いえ…そういう訳では…出陣されないところを見ると、勝家様の隊の方でしょうか?」
「あぁ、アイツは藤林朔太郎だな」
「そうなんですね」
彼に何か違和感を感じたものの、気のせいだと思い気にするのを止めた。
やがて出陣の合図が鳴り、馬の嘶きや蹄の音が城門に鳴り響く。
「…」
私は馬上の秀吉様へと目を向けた。
(秀吉様…ご武運を。無事に帰って来れますように)
祈るように手を組む。
「…」
一瞬目があったような気がして、私は慌てて目をそらした。
「琴音、城に入るぞ」
「はっはい!」
勝家様に促され、私は城門を後にした。
「秀吉、お前へと預かってきた」
半兵衛が俺に小瓶を手渡した。
「…」
それを朝日に翳すと、中の黄金色の飴がキラキラと優しい光を放った。
「良いのかな…」
「良いも悪いも、それは秀吉に渡したかった物だから預かってきた」
「さっき琴音ちゃんと目があったけど、思いっきり目を逸らされた…」
「…」
「わんこくんとは親しげに話ししてたのに…」
「はぁ…最悪」
弱音を吐く俺には、何時もの半兵衛の口癖が酷く胸に刺ささった。
「最悪と言うより、俺…最低なんだけど」
「ならば無事に帰還して、さっさと琴音に謝罪するのだな」
「うん…」
俺は手にした小瓶を懐に押し込んだ。
「半兵衛」
「なんだ?」
「絶対に勝って帰るよ」
「当たり前だ」
俺は雑念を捨て、馬を走らせた。
𖧷。.⁺︶︶︶
恭一郎さんSSの続きの前に書きたかったやつ完成୧📱͙'-' )カキカキ
リクいただいて登場した半兵衛さまが、結構いい感じに動いてくれた
もう一話挟んた辺りで、秀吉さまと琴音はある事件に巻き込まれることとなります
秀吉さまと琴音は仲直り出来るのか?
秀吉さまの陽菜(恭一郎さんSSの方)への横恋慕は如何なる?
|・ω・`)))ハラハラ
してる人いる?(笑)