※本作に出てくる【陽菜】は二人います
信長さまと恋仲の陽菜
恭一郎さんのところに居候している、抜け忍の陽菜
本作はカテゴリー【恋乱SS -月の章- 恭一郎/陽菜】と繋がっています
次の出陣の際に半兵衛が我が豊臣軍の一員として出撃することが決まった。
俺は半兵衛を頼もしく感じると同時に、強い不安も抱えていた。
(もし激しい発作が起きたら…)
半兵衛は胸を患っている。
本人は「問題ない」と一笑しているが、無理をさせられない状況である事は事実だ。
薬師の陽菜ちゃんに相談してみたが、発作を和らげる事は出来ても根本的な治療は難しいと言われた。
「薬だけの力で『治す』事は出来ないんです。どんなに強い薬でも自身に免疫力と体力がないと…」
ため息が漏れる。
(何もしてやれないな…俺は)
ふと顔を上げると、半兵衛と琴音ちゃんが一緒にいる姿が見えた。
半兵衛が登城する機会が増えると同時に、半兵衛は琴音ちゃんと一緒にいる事も増えた。
女嫌いの気がある半兵衛だが、琴音ちゃんといる時は笑顔を浮かべる事がある様に見える。
対する琴音ちゃんも少し緊張した面持ちであるものの、少し力を抜いた顔で笑っている。
(琴音ちゃんが半兵衛に寄り添ってくれたら…安心かなぁ。琴音ちゃんも半兵衛の事悪く思ってないだろうし)
むしろ彼女の気持ちは今、俺より半兵衛へと傾いているかもしれない。
(だったら…)
自分の心の隅に違和感を感じたものの、俺はそんな事を考えていた。
夕餉の後台所に顔を出すと、後片付けを終えた琴音ちゃんと陽菜ちゃんが、小さな瓶に黄金色の何かを詰めていた。
「あっ、もしかしてべっこうあめかな?」
「秀吉様、お疲れさまです。はい…出陣前に半兵衛様にお渡ししようと思って」
琴音ちゃんは赤い顔をして俯きながら、丁寧に黄金色の飴を瓶へと詰めていく。
「あのさ…」
「あの…」
俺と琴音ちゃんの言葉が重なる。
琴音ちゃんは恐縮した様子で俯きながら「秀吉様どうぞ」と呟いた。
俺は最近気になっていた事を問うた。
「琴音ちゃんって…半兵衛の事が好きなの?」
琴音ちゃんの顔が歪んだ気がした。
と同時に、俺は頬に強い衝撃を感じた。
「秀吉様…酷いです」
陽菜ちゃんに殴られた
その事実に気がつくまで、長い時間を要した気がする。
「琴音さんの気持ちに微塵も気づかない上にそんな事を…」
「陽菜さん!」
陽菜ちゃんが言い終わるのを待たずに、琴音ちゃんが叫んだ。
「大丈夫です…私なら大丈夫…」
自分に言い聞かせるように呟いていた琴音ちゃんは台所を飛び出し
「琴音さん!」
それを追うように陽菜ちゃんも走り去って行く。
静まり返った台所に取り残された俺は、ようやく琴音ちゃんを傷つけてしまった事に気づいたのだった。
「だから私を男女の諍いに巻き込むなと言っただろう」
半兵衛は腫れ上がった俺の頬を一瞥し、また書物へと視線を落とす。
「我ながら失言だったって…反省してる」
「だったら謝罪に行くんだな」
「どの面下げて?」
「…はぁ…最悪」
半兵衛は持っていた本をパタンと閉じ、渋々と俺に向き合った。
「だって…半兵衛が珍しく女の子と笑って喋ってるから」
「彼女は媚びた態度を取らない。だから不快には思わない。それだけだ」
「うん…知ってる…」
琴音ちゃんは過ぎるくらい謙虚で良い子だ。
他人の気持ちに寄り添うことが出来る優しさがある。
だからと言って半兵衛の傍にいてくれたらと思ったのは、俺の身勝手だった。
「はぁ…俺って最低だな」
「気がついたなら今すぐ悔い改めろ」
半兵衛の説教を聞きながら、俺は深くため息をつき、文机に俯した。