私、明智光秀が御屋形様より坂本の地を賜り、坂本城の築城を始めてどのくらいが経ったであろうか。


清洲と坂本を行き来する慌ただしい毎日も、もうすぐ終わりとなるだろう。


(清洲に来ることが無くなるわけではないが、この地を離れるとなると感慨深いものがある…)


私は御屋形様の部屋に書類を手にして向かった。


部屋の前に着き、声をかけようとした瞬間、中から陽菜の声が聞こえてきた。


「もうすぐ坂本城の建築も終わるんですね」


「なんだ?その不満そうな顔は。貴様…光秀について坂本の地に行きたかったのか」


「もぅ!そうじゃありません!」


陽菜の不満そうな声と、御屋形様のからかいのを声を聞き、つい笑みが溢れる。


(ふふっ…相変わらず仲がよろしいようだ)


「貴様…あのるぅと言う女中と離れ離れになるのが嫌なのだろう」


るぅの名が上がりドキリとする。


るぅは私の大切な人だ。


そして彼女は坂本城の女中頭として、私と供に坂本入りをする予定になっている。


「…そうです」


陽菜の拗ねた声が胸に刺さる。


「ふん…会いたければ馬を走らせ、会いに行けば良いだろう」


「そんな簡単に会いに行けるような距離じゃありません。一人じゃ馬にも乗れないし…」


私は考えた事がなかった。


るぅは坂本城入りを快諾してくれた。


私と一緒に居たいと、そう言ってくれた。


だがそれは、彼女と親しい人との別れに繋がると言う事に、私は浮かれ過ぎて気づけずにいたのだ。


(なんという事だ…)


彼女の事を一番に思っているようで、実は苦渋の選択をさせていたのではないか?


わなわなと震える手を押さえながら、私は踵を返し自室へと戻っていった。






「いったい如何したら…」


数刻の間自室で頭を抱えていると、聞き慣れた足音が聞こてきた。


(るぅが…いったいどんな顔をすれば良いのか)


「光秀様、いらっしゃいますか?」


「えぇ…」


彼女に会う覚悟も出来ないままに返事を返してしまい、また後悔に襲われる。


襖を開けて入ってくるるぅの手には、茶が2つあった。


「陽菜ちゃんがお菓子を持ってきてくれるんです。一緒に食べませんか?」


「陽菜が…」


「光秀様?如何かされましたか?顔色が悪いですよ」


「いえ…大丈夫です」


「光秀様、るぅちゃん、お待たせしました!今日は栗がたくさん手に入ったので、おやつは栗まんじゅうです…よ」


心の準備も出来ないまま渦中の陽菜が現れ、私は不覚にも顔を引きつらせてしまう。


「あっ…ごめんなさい。何かお取り込み中だったのですね」


陽菜は悲しげな顔をして栗まんじゅうの乗った盆だけを置き、早足で立ち去っていく。


「陽菜!」


「えっ?えっ?陽菜ちゃん?光秀様?」


混乱しているるぅを置いて、私は陽菜を追いかけた。


曲がり角を曲がった先で追いつき、私は陽菜の腕を掴み引き寄せた。


「陽菜!誤解です。私は貴女に…」


「あっ…」


私から逃れようとした陽菜が体の均衡を崩し、床に倒れそうになる。


私は慌てて陽菜の体を抱きとめた。


「陽菜、大丈夫でしたか?」


「すっ…すいません。有難うございます」


「陽菜…私は貴女に謝らなくては…」


と言いかけたところで私達を追いかけて来たるぅと、間が悪く庭にいた御屋形様がこちらに近づいくるのが見えた。


「光秀様…まさか…私より陽菜ちゃんの方が好きなんですか?!」


「るぅ!誤解です!私は…」


「光秀、貴様…白昼堂々と人の女に手を出すとは。よっぽど死に急ぎたいようだな」


「信長様!誤解!誤解です!」


私と陽菜が慌てる中、御屋形様の右手は柄へと伸ばされ、鯉口を切る音が響く。


だが次の瞬間


「貴方方はいったい何を騒いでいるのですか!いい大人が昼間から痴話喧嘩とは何事です!恥を知りなさい!」


騒ぎを聞きつけた丹羽殿が突然現れ、四人揃って廊下に正座さられた上に、こっぴどく叱られたのでした。






あれから数日が経ち、私とるぅは坂本へと旅立つ日を迎えた。


「るぅちゃん…グスッ…いっぱい手紙書くから」


「うん…陽菜ちゃん…私もいっぱいお返事書く…グスン」


別れを惜しむ二人を見て、御屋形様は呆れた顔でため息をついた。


「今生の別れでは無い。そんなに離れるのが嫌なら、光秀には嫌と言うほど清洲に登城させてやろう」


「御屋形様、それでは坂本の地を治める事が出来ません」


「ふん…このような冗談も通じぬとは、貴様は本当につまらぬ男だな」


(この様な嫌味を聞く機会も少なくなるな…)


そう思うと寂しさが募る。


「御屋形様に良き報告が出来るよう、邁進してまいります」


「…精々励め」


そう短く言葉を発すると、御屋形様はふぃと背を向け城の中へと消えていった。


私はその姿に深く一礼した。


その姿が見えなくなるまで、ずっと。


「光秀様…」


泣き腫らした顔のるぅが側に来た。


「お別れは済みましたか?」


「はい…」


「良い報告がたくさん出来るよう、私に貴女の力を貸してください」


「はい!」


愛おしい気持ちがこみ上げ、るぅをそっと抱きしめた。


「では、行きましょう。坂本へ」


私達は新たな道へと一歩踏み進める。


幸せと言う名の道へ向かって。










ꔛ‬𖤐


光秀さまの甘々な動画作るのと一緒に書き始めたけど


アレェᐠ(  ᐕ )ᐟ甘さ不足?になっちゃった


甘々に終わらせようかと思ったけど


信長さまと光秀さまらしさがあるし


まぁいっかぁє(・ѳ・。)э››~


で、夏祭りの時もご出演いただいた、仲良しさんのるぅたん(人´∀`*)Thanks♪