私は恭一郎さんと一緒にお祭りの喧騒の中を歩いていた。


正しくは恭一郎さんの肩には、迷子の子供が乗っているのだけど。


気持ちが少し落ちついたところで、先程の騒ぎの事を思い出す。  


(私、無鉄砲過ぎたなぁ…)


不思議と怖くは無かった。


ただ守りたい、そんな思いだけが私を突き動かしていた。


でも…男の腕を掴んだ時の恭一郎さんは、余裕なんて一つもないくらい焦った様子だった。


(恭一郎さんが来てくれなかったら、どうなっていたのかな…)


自分が正しいと思った事は、必ずしも正しいとは限らない。


現に恭一郎さんには迷惑をかけてしまったのだから。


「足でも痛いの?」


「えっ?」


顔を上げれば、恭一郎さんが怪訝な顔で私を見つめていた。


「君が沈んだ顔をしてると、不安がこの子に感染するでしょ。君の良いところなんて馬鹿みたいに明るいとこくらいなんだから、笑ったら」


「わっ…私そんな能天気じゃありません!」


「如何だか」


そう言って小馬鹿にして笑う恭一郎さんは何時も通りだった。


「おぃ!ちゃんとお父ちゃん探してるのか?高いところから見物してるだけなら、引きづり下ろすよ」


「やだ!」


「やだ!じゃないよ」


(恭一郎さんと子供って意外な取り合わせだけど…)


なんだかんた言って、恭一郎さんは子供の相手を上手くしているのが面白い。


「ふふっ…」


「何?」


「恭一郎さんが『お父さん』みたいだなって」


「ふーん…じゃあ君が『お母さん』してくれる?」


「えっ!?」


顔が一瞬で赤くなる。


「冗談だから真に受けないでよ」


「もぅ!」


揶揄われたと気づき、気恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。


肩の上の子供は私達のやりとりが面白いのか、声を出して笑っている。


「ほら!笑ってないで本物のお父ちゃん探せよ」


「うん…あっ…おとぉちゃんだ!」


「見つかった?本物か?もっとお父ちゃん呼べ!大きな声出して!」


「おとぅちゃーん!」


恭一郎さんの言葉を聞いて、子供はさらに大きな声を出した。


やがて人の波を掻き分け、父親らしい人が現れた。


「有難うございます。本当になんとお礼を申し上げたらよいのか」


「俺の事はお気になさらず、礼なら彼女に。この子を必死に守っていましたよ」


「そうですか!有難う!有難う!」


「そんな…私は何も」


何度も頭を下げ、再会を果たした親子はやがて人混みの中に消えていった。


気がつけば恭一郎さんと二人きりになっていた。


「さてと…」


背伸びを一つした恭一郎さんに、私は頭を下げた。


「ごめんなさい。そして有難うございました」


「これ以上謝る必要はないんじゃない。まぁ、確かに君には迷惑かけられたけど…」


(だよね…)


頭を上げられずにいると、頭の上を大きな手が優しくポンポンと叩く。


「君は君の『正義』を貫いたんでしょ。正直羨ましいよ…真っ直ぐ過ぎて」


恭一郎さんは消え入りそうな声で呟くと、夜空を見上げた。


「そろそろ始まるかも…行くよ」


「はっはい!」


私は慌てて、恭一郎の紺瑠璃の浴衣の袖を掴んで歩き出した。






着いた先にはたくさんの人が集まっていた。


「やっぱり考えることは一緒だな」


「あの…何か今から始まるのですか?」


「始まってからのお楽しみ。田舎者の君は見たことないだろうし」


ちょっとムッとした顔を向けると、恭一郎さんはクスリと笑った。


「まぁ、俺も初めて見るんだけど。この祭りの一番の見どころだからね。ちゃんと見てて」


そう言って雲一つない夜空を指差す。


しばらくするとドンっと音が鳴り、空が一瞬明るくなる。


「恭一郎さん!夜空に花が!」


「まだまだ続くよ」


轟音はさらに続き、その度に赤や黄色、青といった花が夜空に咲いた。


「花火って言うらしい。からくりはわからないけど、火薬を使っているんだ」


「火薬って…鉄砲の球になる?」


「そう。人の命を奪う道具が、こうやって人々を魅了するものになるなんて…なんだか皮肉だね」


夜空を眺める恭一郎さんの横顔をそっと見上げる。


「それは石川五右衛門と同じではないでしょうか?」


「どういう事?」


「不正に財を成す悪徳者にとって石川五右衛門は暗い影ですが、貧しい人達にとっては光です」


「…」


「私にとっては恭一郎さんが光です。忍にも新しい道を見つけられるという事を標してくれました」


「そんなんじゃないよ」


恭一郎さんは複雑な顔をして呟く。


「俺が光だなんて…ありえない、買い被り過ぎだ」


強く否定したかったが、私はそれ以上言葉を続けるのを止めた。


何故なら…恭一郎さんは苦しんでいるような、泣きそうな顔をしていたから。


(私、恭一郎さんの事何にも知らない…)


こんなに近くにいるのに、心はなんだか遠くにある気がして…胸がキュッと痛んだ。






𖧷。.⁺︶︶︶


夏祭りシリーズはこれで終わり


自分の気持ちをはっきり自覚した恭一郎さん


恭一郎さんへの想いが深くなっていく(月ヒロの)陽菜


季節は秋へと変わり、二人を取り巻く環境も変わって行きます


(_・ω・)_ババアン




先日華の章の夏祭りSSのボツった下書きを数時間アップしてしまいまして(*/∀\*)イヤン、もしかしなくても目にした人いた(汗)


実は月の章にもボツった下書きがあって、それでは秀吉さまが陽菜を夏祭りに誘うのに成功してました


なんでそれがボツったかと言うと


なんか違うなーって考えながら書き直してたら佐助さん出てきて、秀吉様とバッティングした挙句騒ぎになったら恭一郎さんがキレた(lll-ω-)チーン


秀吉さま_(;ω;`」_)_スミマセヌ…


でもでも(;゚Д゚≡゚д゚;)


秀吉さま救済ネタもらったから!


待っててコネ(ノ)`ω´(ヾ)コネ秀吉さま!