「どういうつもり?陽菜ちゃんを祭りに連れて行くから、陽菜ちゃんの浴衣を見立て欲しいって」
恭一郎に呼び出された私、三葉楓は手にしていた浴衣を広げながら恭一郎に言葉を投げつけた。
「どうもしてないよ。ただあの子を巡って男二人が俺の店の前で喧嘩し始めたから、追い出したい一心で言葉が出ただけ」
恭一郎は浴衣に目線を走らせ「良いんじゃない」と呟いた。
「まぁ!陽菜ちゃんを取合い!」
驚きと興奮で声を荒らげる私とは相反し、恭一郎は至って白けた顔をしている。
「まったくありえない」
「失礼ね!あんなにいい子はそこんじょそこらには居ないわよ!」
「とにかく、連れて行くと言っても俺は仕事だし、あの子にもそれなりに働いてもらうから。まぁ…あの子のことなら、祭りの雰囲気だけで楽しめそうだけどね」
私と恭一郎の付き合いは長くはない。
私は恭一郎の素性の全てを知っているわけではないし、私も素性を明かしているわけではない。
「身の安全だけ保証してくれれば十分よ」
しかし見知らぬ男に預けるよりは、恭一郎の方が安全だと思っている。
「はいはい」
適当な返事を返す恭一郎の前に回り、私は食いかかるように問いかけた。
「で、誰と誰が取合いしたの?」
恭一郎は思い出すのもうんざりするといった顔で、ため息をつく。
「秀吉様と助さん」
「えっ?!秀吉って豊臣の?甲賀の猿飛佐助と豊臣秀吉が陽菜ちゃんを取合いしたの?」
「そう、まったく…二人の気がしれないよ」
豊臣秀吉と言えば今一番力のある男、織田信長の腹心の一人だと聞いている。
三葉の里の行く末の為に織田信長公の動向を探っているとはいえ、陽菜ちゃんの行動力の凄さに驚きが隠せない。
猿飛佐助は甲賀の忍で、武田信玄公についている。
佐助とは情報交換をしているけど、個人的な事は何も知らない。
陽菜ちゃんからは『幼い頃の命の恩人』だと聞いた事がある。
「陽菜ちゃん…やるわね」
「まったく、愛想だけは良いんだから」
呆れ声の恭一郎の顔を盗み見る。
不機嫌そうな顔をしているものの、少し楽しげにも見えた。
「まぁ、貴方に託したんだもの、貴方を信用するしかないわね」
私は手早く浴衣を風呂敷で包み、恭一郎へと渡した。
「あーぁ、陽菜ちゃんの浴衣姿見たかったわ」
「だったら当日は楓にお願いしたいんだけど?」
「残念なことにその日は朝から忙しいのよ。予定が合わなくてホント悔しいわ」
ため息をつく私に、恭一郎が問いかけた。
「君達は凄く仲が良いのに、何時も別行動してるよね」
「始終側で見守れるならそうしたいよ…」
不意に漏れた低音な声と本音に慌てて口を塞ぐ。
しかし恭一郎からの反応がない。
どうやら恭一郎には聞こえなかったようだ。
私は気を落ち着け、再び言葉を発した。
「別行動した方が、何かと効率が良いのよ」
「まぁ一理ある」
恭一郎の納得した様子に安堵する。
「まぁそう言うことだから、くれぐれも陽菜ちゃんの事お願いね」
「はいはい」
店の外に出ると眩い西日に照らされた。
「まだ明るいけど、段々と陽が落ちるのは早くなってるから。女のひとり歩きなんだから気をつけて帰ってよ。俺が君の最終目撃者だなんてごめんだからね」
「あら、御心配有難う。でもそんなにか弱いつもりでもないから、大丈夫よ」
西日を浴びながら、私は里へと向かった。
「か弱い…ねぇ」
西日に照らされながら歩く楓の姿を見送った後、たおやかな姿とは裏腹に発せられた低い声を思い出していた。
「誰だって秘密はある。あの子を預かった経緯も胡散臭いと思ってる。けど…詮索するのは野暮ってやつだな」
誰かの秘密を暴けば、何時か自分の秘密も暴かれるだろう。
だから気づかないふりをした。
「もし俺の過去を知ったら…お人好しの君は何て言うんだろうね」
暖簾を潜ろうとした時、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
振り向けば陽菜が手を振りながら店へと走ってくる。
「ふっ…まるで犬っころだな」
俺は店の暖簾を外し、陽菜の方へと歩き出した。
「遅いよ。帰ってこないかと思った。さぁ店じまいするよ。すぐに夕餉の時間になりそうだし。もちろん昨日よりマシな料理を出してくれるよね?期待はまったくしてないけど」
✼•┈┈┈┈•✼
久しぶりに楓ちゃんの出番
前回の取合いSSを書いている途中で、ふと思いつき書き始めました
楓ちゃんの男声エピソードはわりと好き(*´艸`*)
光ED後を書いた幸福論 -Heart Break- の中でも書いたけど、声を担当している福山潤さんの『楓』『楓悟』を演じ分けているのに凄く関心
だけど『楓』の時も結構男声だと思う(笑)
恋乱の月の章は、今は恭一郎さんストを読み返しています
あっ…そうそう
恭一郎さんってこんな感じだった
って思いながら