前回のお話はこちら→ 蕎麦の乱 -初めてのそば切り-  






信長様が皆さんに振る舞った激甘そば切りを、唯一完食した光秀様はお腹を壊して寝込んでしまった。

(もったいないから、残ったあの汁はみたらし団子に活用しよう…)

私は水の入った桶と薬師から預かった薬を持って、光秀様のお部屋へと向かう。

光秀様の部屋の前にに立ち止まると、静かなはずの部屋から何やら物音がして…

(まさか?!)

「光秀様!お休みになってください!」

そう叫びながら襖を開けると、案の定光秀様は起きて書類に目を通している。

「あぁ…見つかってしまいましたか…あと少しだけ」

「もぅ駄目です!ちゃんと褥で休んで下さい!」





おとなしく褥へ移動した光秀様は黙って薬を飲み、身体を横たえたところでため息を漏らした。

「貴女にはお恥ずかしい姿ばかり見せている様な気がします」

「…どうして」

私の問いかけに答えようと体を起こす光秀様を制しながら、私は言葉を続けた。

「どうして『あのおそば』を全部食べちゃったんですか?」

問えば皆が言うように『忠義』の為と答えると思った。

でも光秀様は少し照れ臭そうに笑いながらこう言った。

「御屋形の御心が嬉しかったのです」

「心…」

「御屋形様は悪意や悪戯では無く、純粋に『皆に食べさせたい』と思ったから今回の行動に出たのでしょう。私の取った行動を皆は『忠義』と呼ぶでしょうが、私は単純に御屋形様の『誠意』が嬉しかったのです」

私はクスリと笑いながら水に浸した手ぬぐいを絞り、光秀様の額に乗せた。

「光秀様らしいお言葉です。やっぱり…ほんと敵わないなぁ」

「陽菜?」

光秀様は視線だけをこちらに向けたけど、私は恥ずかしさから背を向けて呟いた。

「やきもちです…」

「えっ?」

顔が熱くなるのを感じ、私は冷えた手を両頬に当てた。

「光秀様にやきもちを妬いたんです。どうしても信長様には光秀様より踏み込めないと思って…」

「ふっ…」

振り向けば光秀様は小刻みに肩を揺らし笑っている。

「もぅ!笑わないでください」  

「いえ…笑っているのではなく…なんとも可愛らしいことを仰ると思まして」

「恥ずかしぃー!」

と叫んだところで、襖がスパンと思いっきり開いた。

「貴様ら病人の部屋で何恥ずべきことをしている!」

そこには不機嫌な顔の信長様が仁王立ちしていて

「えっと…光秀様の看病ですが…」

「…」

信長様は拍子抜けしたような表情で立ちすくんでいました。



✼•┈┈┈┈•✼



「御屋形様は貴女をお探しだったようです。私は大丈夫ですからお行きなさい」

陽菜に退出を促すと、信長様は黙って背を向けて行ってしまった。

「夕餉が食べれそうなら雑炊をお持ちしますね」 

陽菜は慌ててその背を追いかけていく。

「やれやれ…慌ただしい人達ですね」

御屋形様はおそらく私の様子を見に来たものの、部屋から漏れる会話の端々を耳にして不機嫌になったのであろう。

「きっと肝心なところは耳にしていないのでしょうね」

陽菜が絞り出すように呟いた『やきもち』の言葉にまた笑みが溢れる。

「お互い私に『やきもち』を妬くとは…案外似た者同士なのかもしれませんね」

私は額の手ぬぐいの位置を直しながら、静かに目を閉じるのでした。










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前回書いたお蕎麦の乱が不完全燃焼気味だったので、後日談を書いてみました

信長さまと光秀さまネタはもう一ついただいていて…それは今絶賛コネコネ中(ノ)・ω・(ヾ)♪