※徳川家康の家臣、本多忠勝のお話です






私は成り行きで徳川軍に身を置くことになった。


家康様もそうだけど、家臣達の私に対する反応は微妙だ。


家康様は私の事を役立たずと言い…ただしこれは慣れてくると、単に口が悪いだけの様な気がする。


榊原様は初っ端から嫌悪感丸出しの表情で私を見ていて、非常に居心地が悪い。


しかしそんな人ばかりだけではない。


年が近そうな虎松君とは意気投合し、徳川の重鎮である優しい酒井様は亡くなった父を思い出させる。


もう一人、ものすごく個性的な人が居る。


なんと言うか…一言で言えば『変人』である。






庭で枯れ葉掃除をしていると、何かやわらかいものを踏んだ。


ふりかえった瞬間に、それが人だと気づく。


「ごめんなさい!」 


「…」


そこには枯れ葉の上で横になっていた忠勝様が居た。


「お怪我はありませんか!」


「いい…」


「はっ?」



「今の踏み方は最高だったぞ!もっと踏んでくれ!思いっきり踏みにじってくれ!」


「!?」


予想外の反応に私は驚き、手にしていた箒をその場に落として一目散に逃げた。






夕刻、夕餉の支度を始めようとしていた私は、いつも身につけていた襷が無いことに気付いた。


「あれ?帯に挟んだはずなのに落としちゃった?あーあ…お気に入りだったのに」


庭掃除をしていた時に慌てて逃げた、あの時に落としたのだろうか。  


仕方がなく予備の襷を手にするが、なんとなく気合が入らない。


諦めのため息をついていると、部屋の外から誰かに呼ばれた。


襖を開けるとそこに居たのは忠勝様だった。


朝の事を思い出し激しく動揺する私とは反して、忠勝様はニコニコと笑みを浮かべている。


「陽菜、庭で襷を落としただろう」


忠勝様の手には泥の付いた襷があった。


「あっ…私の…有り難うございます」


忠勝様は泥の付いた襷を申し訳なさそうに手渡してくれた。


「おなごのものをどう扱ったら良いかがわからなくて、汚れたままですまん。そしてこれは何時も飯の準備をしてくれている礼だ」


忠勝様は持っていた紙の包みも私に押し付け、「今日の晩飯も楽しみにしているぞ」と言って立ち去ってしまった。


包みを開けると、中には淡い桜の絵柄が入った襷が入っていた。


「綺麗…良いのかな、貰っちゃって」


私は桜の襷を手早くかけた。


ちょっとした事ではあるが気分が上がる。


「よし!夕餉の用意頑張ろう!」






徳川軍の個性的な面々にすっかり慣れた頃、家康様は清州城に呼ばれた。


「あの炊事兵を連れて来い。本来の姿でだ」とのお達しで、私も同行することになった。


「織田と徳川合同で剣術試合を行います」


織田信長の右腕と言われる明智光秀様がそう言葉を発すると、周りは色めき立ち始めた。

 

剣術の実力を誇示できる良い機会だからだろう。 


「何か褒美が無いとつまらぬな。…優勝者にはあの者をやろう。好きにするがいい」


そう信長様が指差したのは…


「えっ?わっ私ですか?」


「織田軍の一部は貴様を救うために奪還したいらしい。徳川は奪われたくなければ勝て」


そう言えばお城に上がった際に幼馴染の犬千代に会って「ぜってー勝つからな。待ってろ」と言っていたのを思い出した。


(なっなんか話がおかしな方向に行ってない?)


「こんな役立たずの為に戦うなんて馬鹿馬鹿しいけど、これは徳川の沽券に関わる試合だ。絶対に勝て。負けたら…殺すから」


ピリピリした家康様の言葉を受け、皆の顔が引き締まった。


これは余興ではない。


各々の自尊心に関わる戦いなのだと知る。


「陽菜」


忠勝様が私に近づいてきて、そっと耳打ちする。



「お前は正直どっちに勝って欲しいんだ?」


以前お出しした菓子を信長様が気に入られたと聞いたので、もし織田軍の誰かが勝ち引き取られたとしても、また料理方として働く事が出来るかもしれない。


もしくは幼馴染の犬千代の口利きで、京の実家に帰れるかもしれない。


徳川に残れば今まで通り家康様の嫌味を聞きつつ、料理方として過ごしていくのだろう。


どちらに利するところがあるかと考えれば、それは一目瞭然だった。


「私は…」


複雑な表情で忠勝様を見上げると、悟ったのか私の頭を頭をポンポンと軽く叩き「悪いようにはしないから安心しろ」と呟き行ってしまった。






試合が始まってからは私はどちらを応援してよいかわからず、ただ黙って皆の対戦を眺めていた。


気がつけば優勝決定戦まで進んでいた。


「最後は忠勝様と利家様の対戦だね。利家様は幼馴染なんだってね。陽菜はどっちを応援するの?」


試合を終えた虎松君が、私の隣に腰を下ろした。


「…」


「利家様凄いね。さっき対戦した時、本当に殺されるかと思った」


犬千代が私の為に一所懸命なのはわかってる。


だけどどちらを応援して良いかわからず、どうしても声が出ない。


「あっ…」


虎松君の声に驚き、私は視線を試合に向けた。


忠勝様が犬千代に圧されかけていた。


「鍔迫り合い…利家様の気迫が凄い。忠勝様が圧されてるなんて…初めて見たよ」


犬千代の真剣さがわかる。


と同時に忠勝様が負けまいとしていることも。


一瞬、犬千代が強く踏み込んだ。


私の口からは悲鳴の様な音が漏れる。


見ていられない。


次の瞬間私は叫んでいた。


「忠勝様、頑張って!」






「家康様、俺優勝しました!」


忠勝様は褒めて褒めてとばかりに家康様に絡んでいる。


「お前…随分と手こずってたじゃないか。ありえない。あんな犬っころくらい瞬殺しろよ」


「あぁ…厳しいお言葉…堪らない」


…褒めてほしかったのではなく、罵倒されたかったらしい。


「気持ち悪い…早く何処か行け。それから…そいつは優勝したお前が好きにして良いから」


家康様はツンとしながら私を指差し、さっさと立ち去ってしまった。


その場にはどうしたら良いかわからずオロオロしている私と、恍惚とした忠勝様だけが残された。


「あっ…優勝おめでとうございます」


「陽菜、応援有り難う。あれが無かったら負けていたかもしれないな」


忠勝様が優勝したことで、私が織田軍に移る事はなくなった。


と同時に京に帰れる可能性も薄まっただろう。


「陽菜はこれからどうしたい?」


「えっ?」


ふいに問いかけられ、驚いて忠勝様を見上げた。


「京に帰りたいなら、俺から家康様に進言するつもりだ」


「もしかして…その為に優勝を狙っていたんですか?」


「もちろん単に頂点に立ちたいと言う気持ちで臨んだ。だが、榊原がなぁ…お前への当たりが強いのが気になってな。我慢しているなら京に帰った方が良いだろう」


「私は…」






私はあれからも料理方として徳川軍にいた。


ただ忠勝様の進言で、何度か京の実家に帰ることが出来た。


(忠勝様って凄く気遣いの出来る人なんだよね)


だけど…


「虎松!今の一撃は最高に良かった!痺れた!頼むもう一度!」


「僕…あの人最高に苦手です…」


忠勝様と打ち合いをしていた虎松君が苦虫を噛み潰したような顔で、私の側に避難してきた。


「あはは…忠勝様って本当に変人よね」


虎松君は私が差し出した甘酒を飲みながら呟いた。


「陽菜はあの人の何処が良いの?」


「へっ?なっ何が?」


突然の問いかけに顔が熱くなる。


「違うの?」


「あっ…うーん…自分でも良くわからなくて」


「ふーん…陽菜もわりと変人だね」


虎松君は呆れ顔で忠勝様の元へと走っていった。


もしかしたらこの微妙な気持ちは、これから形を成していくのかもしれない。


でもそんな未来のことは、きっと誰にもわからない。


「忠勝様、火傷しそうなくらい熱い甘酒を用意してますからね。頑張って下さい」



「あぁ!」


だから今は自分の中で大切にしていこう。











|qд°`)))


名前が覚えられず、ずっと「どM」と呼んでいた忠勝さま。


まだ乙女ゲーム日記には書いてないけど、三成さまの巡り愛ED見た後に再度三成さまの続編(契り愛ED)を読むつもりがルート選択に失敗し、本編(続編の前)の殿選択の場面(三成さまか家康さまの二択)を選んでしまって、どうにもこうにも戻れない状態にズガビ━━Σ(ll゚艸゚ll)━━━ン!!


「憎たらしいけど、とりあえず家康さまルートを一周しよう」と読み始めたら結果「忠勝さま良い奴や( ゚д゚)ハッ!!」となりました。


それよりも榊原が…榊原が超絶憎たらしかった(°罒° )ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"…。


そして榊原を窘める忠勝さまがカッコよくてΣ(・ω・ノ)ノ。


で「なんか書けるかも」と思い、実験的に書いてみました。


家康さまルートにあった襷と剣術戦のエピを拝借。


画像入れたのは、その方が変人度が伝わると思ったから。


最近月の章のSSばっかり書いてたから、気分転換になって楽しかったです(´∀`*)。