悩みのタネになっているのは二人の兄。
二人揃って優秀、容姿端麗、スポーツも得意。
自慢の兄達ではあるが、至って地味で運動運痴な私には…眩しすぎる。
「雛、今日こそ仕事が終わったら道場に寄れよ。総司と一緒に美味いもん食わせてやるから」
「美味しいもの!行く行く!おにぃ!何か差し入れ持っていこうか?」
漂う色気で女達を惑わす長兄の左之助。
「クスッ…色気ないなぁ、雛は。朝から晩まで食べ物の事で頭がいっぱいで…アハハっこれじゃあ男が寄り付かないはずだよ」
「総司はさ、私が男子とちょっと仲良くなったら、何時も嫌がらせして追っ払うじゃないのよ!」
ちょっと意地悪なところが女心をくすぐるらしい次男の総司。
「あーそれなぁ…お前に男を見る目がないってせいもあるぞ」
「そうそう、左之兄さんの言うとおり…ってかさぁ雛は男を見る目が無さ過ぎなんだよねー」
「うぅっ…」
何も言い返せないまま、私は会社へと向かった。
仕事が終わり、私は兄達のいる剣道道場へと向かった。
(もう稽古は終わりかな〜エヘ♪何食べよう)
道場には色々面倒だからほとんど寄ったことは無いが、おにぃが稽古帰りにご馳走してくれるというのだから足取りは軽い。
道場に着いた私は中を覗き込んだ。
「おにぃ、総司、いますか?」
そこには見たことの無い男の人が立っていた。
「左之助と総司の妹さんか?二人なら今シャワールームにいる。少し待っててくれ」
(誰?全然見たことない人だ…)
濡れた髪をかき上げながら、その人は椅子に座るようにと言った。
「あっ…はい。有難うございます」
兄達の明るい髪色とは違う、闇のような黒髪。
無愛想な雰囲気で、取っ付きにくそうだ。
(でもキレイな顔立ちの人だなぁ…)
ジロジロ見過ぎたのか、その人はなんだ?と言わんばかりに私をジロリと睨んだ。
「はわわっ!ごめんなさい」
「…似てねぇ」
「へっ?」
「左之助にも総司にも似てねぇな」
(嗚呼…やっぱり)
何時も言われる事だ。
私は容顔美麗の二人とはまったく似ていない。
「なんだ…アレに似ている」
「へっ?」
「ハムスターだな…ちっさいから」
「なっ!」
恥と怒りで顔も身体も熱くなるのがわかる。
(初対面の人にハムスターってどうよ⁉)
「雛、来たか!ん?土方さんに挨拶したのか?」
「おにぃ!この人」
「悪い、挨拶が抜けていたな」
この人失礼なんですけどと文句を言おうとした瞬間、目の前の人は私に頭を深く下げた。
「土方歳三だ。この道場で世話になっている」
私も慌てて深々と頭を下げた。
「原田雛です。兄達がお世話になっています」
下げた頭を上げようとすると、何かがズッシリとのしかかってきた。
「雛、お世話してるのはこっちだからね」
「ちょ!総司重っ!」
私の頭の上に顎を乗せたまま、総司はまったく退く気はないらしい。
「ふっ…仲が良いな。猫の総司に振り回されるハムスターってとこだな」
(ちょっとちょっと!仲良しだって言いながら、私がハムスターみたいだって強調してるじゃない!)
「土方さん上手いこと言うな」
「プッ、雛がハムスターだって。チビな雛にピッタリだね」
「ちょっと!ちょっと!」
おにぃと総司はすっかり感心しちゃってる。
「話しで聞いたイメージと違うな。総司と掴み合いの喧嘩するって聞いたから…どんな大女かと思ってたが…」
「ぎゃーす!なんでそんな恥な話を他人にするのさ!?」
思わず総司に掴みかかる。
「なんでって…面白いからに決まってる。雛を見てたらネタに困らないよ」
土方さんという人は肩を震わせながら笑いを堪えている。
(穴があったら速攻入りたい…)
「くっくっ…面白ぇ。今まで見たことのないタイプだ」
そう言って私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「時間があればまた道場に来い」
「へっ?」
見上げる顔には淡く笑みが溢れていた。
「面白ぇから興味がある」
それは桜の花のように淡く…私は目が離せなくなった。