アヴェ、マリア、恵みに満ちた方、
主はあなたとともにおられます。
あなたは女のうちで祝福され、
ご胎内の御子イエスも祝福されています。
神の母聖マリア、
わたしたち罪びとのために、
今も、死を迎える時も、お祈りください。
アーメン。
※カトリック調布協会ホームページより
「烝…ごめんね、こんな夜遅くに」
「俺から電話をして迎えに来た。だから謝らなくていい。それにあまねに何かあったら、おばさんに面目が立たない」
もしあの威嚇射撃が人に向けられていたら。
もしあの銃口があまねに向けられていたら。
それを考えると、背筋がゾッとする。
「さっきさぁ、烝に良く似た人見かけたの。ホント良く似てたんだよ。同じ服装だったら間違っちゃうかも」
「そうか…」
あまねは間違っていない。
それは俺だ。
「真っ黒なパーカー着ててさー、フード被ってて、全身真っ黒っぽくて『忍者』とか思ったよ」
服は迎えに行く前に車の中で着替えた。
「忍者…時代遅れだな」
目立たないようにと努めたが、それがかえって仇になったようだ。
あまねの家の前に車を停めた。
まだ明かりがついている。
おばさんがあまねの帰りを待っているのだろう。
「烝、有難う」
「礼は良い」
「うん…でも」
あまねが何か言いかけた時玄関が開き、あまねの母親が顔を出した。
「烝くん、またあまねを送ってくれたの。ごめんなさいね。こんな遅くまで」
「もーお母さん、私が何時もいっつも烝にアッシーさせてるみたいじゃないのよ」
「ホントの事じゃないの」
俺はあまねを羨ましく思った。
聖母マリア像は俺のどんな罪深い告白も受け入れてくれるが、俺の心配をすることはない。
「夜分遅くに申し訳ございませんでした」
「烝くんは悪くないわよ」
もしあの時あまねを傷つけてしまったら…守りきれなかった俺を強く責めただろうか。
聖母マリアのような慈悲深い顔を歪めて。
そう思うとおばさんの顔がまともに見れなかった。
「烝、今度ちゃんとお礼するからね。今日は本当に有難う。おやすみ♪」
「あぁ、おやすみ。おばさんもおやすみなさい。夜分遅くに失礼いたしました」
玄関が閉まり鍵をかけた事を確認した俺は、桜花へと車を向けた。
桜花に着くなり、総長に仮眠をとるように促された。
「いえ…自分の失態の報告が先だと」
「土方くんには先に仮眠を取ってもらっています。目が覚めてからの方が良いでしょう。ホシは永倉くんと藤堂くんで捕獲済み。君の予測通り複数の薬を使用していたようです。詳しい話はお互い目が覚めてから」
総長は微笑みながら仮眠室を指差す。
「御意」
俺はベッドに潜り込み目を閉じた。
いろんな事が頭を巡る。
あまねを飲みに行かせるべきではなかったと、自分を責める気持ち。
アリバイを作るために咄嗟にとった行動は正しかったのかという疑問。
そして止められぬ薬の流通。
(聖母マリア…貴女ならなんと答える)
俺は静かに眠りに落ちた。