「山崎くん、今日もあまね来てたじゃん。何時ものお迎えはいいのか?」

「藤堂さん、今日は残業があると断りました。それに俺がいなくてもあまねは家には帰れます」

「山崎くんでも断ることもあるんだね」

あまねは我儘な面が多々あるが、駄目なものは駄目だと言えば納得するくらいの常識は持っている。

「優先順位からすると、今抱えている案件が最優先です。そして早く決着をつけなくては…」

「だよな!」

ダンッと強い音がStuff Roomに響いた。

目の前には殺気立った副長がいる。

「平助、山崎、今夜一気に畳むぞ。多少の怪我は致し方ねぇ。手加減無しでいけ」

「土方さんマジかぁ」

「相手は薬物中毒者だ。ハイになった状態に出くわしたら何をするかわからねぇ。そんな奴に手加減してたらてめぇが死ぬかもしれねぇ。いいか?怪我はさせても生かして確保だ」

「御意」

俺は黒のパーカーを羽織り、車のキーを手にした。

「藤堂さん、俺の車で移動します。ナビよろしくお願いします」

「いっくぜー山崎くん」

俺と藤堂さんは扇が丘へと向かった。





高層マンションの側に車を停め、俺と藤堂さんは車の中から人の出入りを見ていた。

深夜0時に近づいて来たその時。

「来たきたキタ」

藤堂さんが指差す先には至って普通の中年男がいた。

「山崎くん、一気にいくぜ。二人がかりなら軽いもんだろ?」

「御意」

俺達は車を降り、静かに男に近づいた。 

藤堂さんはキャップを目深に被り、俺はパーカーのフードを被った。

「ちょっと良いですか?」

藤堂さんが声をかけた瞬間、男の顔つきが変わった。

「藤堂さん!」

俺が叫ぶと同時に男は奇声を上げ、懐から何かを取り出し空へと腕を上げた。

パンッ

破裂音と同時に火薬のニオイが立ち込める。

「うぉ!あっぶっねーな!」

拳銃を握る男はイカれた目をしていた。

パンッ

二発目が炸裂する。

「単なる威嚇です。追います」

「いっくぜー!」

筋肉増強剤まで投与しているのか、中年男はまるで陸上選手のように風を切って走る。

男はどこかで見たような記憶のある、ピンクベージュのコートを着た女にぶつかった。

女はバランスを崩し、地面にへたり込んだ。

一瞬血の気が引いた。

(まさか…あまね?)

振り向くべきではなかった。

女は俺を見ていた…と思う。

パーカーに視覚を遮られていたため確証はない。

(くっそ!)

俺はスピードを上げ、ポケットに忍ばせていたスタンガンを手にした。

腕を伸ばし男の首を狙う。

ガガッ

男の体は震えながら崩れ落ちた。

「山崎くんナイス!」

全く持ってナイスではない。

俺は肩で息を切らせながら、とにかく冷静になるように努めた。

「藤堂さん」

「おぅ!」

カイホウするふりしてラチろうぜと言う藤堂さんの台詞を理解出来ないほど、俺には余裕がなかった。

「戦線離脱します。詳しくは明日。援軍を呼びます」

「ちょ!山崎くん!?」

手にしていたスタンガンを藤堂さんに投げつけ、俺はその場から素早く立ち去った。





近くにあった駐車場まで移動した俺は、呼吸を整えながらスマホを取り出した。

数回コールしたあと、聞き慣れた声が聞こえた。

「はい」

「あまね、まだ飲みの最中か?」

「えっ…いや…もう終わって…その…タクシー探してて…」

「今何処にいる?迎えに行く」

「烝…今何処?」

動揺をさとられないように深く深呼吸をした。

「カフェの駐車場だが?」

「扇が丘になんて居ないよね?」

「扇が丘にいるのか?」

「ごめん…道に迷って」

(やはり…)

「直ぐに向かう。近くにコンビニはあるか?そうか、だったらその中で待ってろ」

近くにいた車のエンジン音が響いた。

あまねは「あっ…車で来てるんだね」と呟き「じゃあ待ってる」と言って電話を切った。

(不幸中の幸いだな…車のエンジン音に救われた)

その後直ぐに別の電話番号を選択した。

「…山崎です。副長、申し訳ございません。援軍を呼べますか?いえ仕留めましたが…俺がしくじりました」