山崎烝は私の幼馴染ではあるが、私の中ではペットと行った立ち位置だ。

基本文句は言わない。

失恋した時は黙って話を聞いてくれる。

帰りが遅い時、呼べば近くの駅まで迎えに来てくれる。

まるっきり忠犬ハチ公な烝。

友達は『それってアッシー君じゃないの』と言って笑うけど。

アッシー君ではない。

私の忠実なペットだ。

お互いの中に愛情はあれども恋愛感情はない。





「ねーねー烝、今日飲み会なんだ。また迎えに来てくれない?」

私は烝が働いているカフェに来ていた。

そしてランチを運びに来た烝に何時ものように声をかけた。

「すまない。今日は深夜まで残業だ」

「えっ?店内改装でもするの?」

「いや…隣の花屋の仕事だ」

このカフェはお花屋さんを併設していて、どちらも女性客がひっきりなしに訪れている。

「烝、お花屋さんでも働いているの?」

「皆兼業だ。俺はカフェがメインだが。明日のクリスマスリーフ作りのイベントの準備がある」

「そっかぁ…」

烝の事は何でも知っている…つもりだった。

だって幼い頃から一緒にいるんだから。

少し心が傷んだ。

烝が私から離れてしまった様な気がして。

「出来れば今日はまっすぐ家に帰れ。違う日なら迎えに行ける」

「今日は外せない飲み会なの。会社のだから」

「そうか…では気をつけて帰れ」

「うん、有難う」

「…あまね」

「なに?」

「扇が丘の方には行くな。最近チンピラの小競合いが勃発している」

「はーい」

烝は音も立てずに立ち去って行った。






深夜0時近く。

ようやく二次会もお開きになり、私は帰宅するためにスマホを取り出した。

(あっ…烝は残業だった。タクシーで帰ろうかな)

私はタクシーを探しながら繁華街の中を歩く。

(平日だからかあんまりタクシーいないなー)

フラフラと歩き進める。

「あっ…」

気がつけば私は扇が丘にいた。

(烝が扇が丘には近づくなって言ってたんだった)

踵を返し扇が丘から離れようとしたその時

パンッ

何かが弾ける音がした。

(パンク?)

パンッ

二度目破裂音が響く。

(まっ…まさか、暴力団同士の抗争勃発?)

嫌な汗が背中を伝う。

ドンッ

急に誰かにぶつかり、バランスを崩した私はペタリと座り込んでしまった。

(やだ…怖い…)

走り去る人物を目深にキャップを被った男と、黒いパーカーを着た男が追いかけている。

パーカーを着た男はフードで頭部を被っていた。

そのフード男が何故か座り込んだ私に視線を向けた。

一瞬目があった。

見たことのある顔。

切れ長の目で無愛想な顔の…

「すっ烝?」

フードの男は黙って走り去っていってしまった。

(烝じゃなかった?今の?烝だよね?今日花屋で残業なのに、なんでこんなところにいるの?)

呆然としているとスマホが鳴った。

(烝から…)

「はい」

「あまね、まだ飲みの最中か?」

「えっ…いや…もう終わって…その…タクシー探してて…」

「今何処にいる?迎えに行く」

「烝…今何処?」

「カフェの駐車場だが?」

頭が混乱する

「扇が丘になんて居ないよね」

さっきのは烝じゃないの?

「扇が丘にいるのか?」

「ごめん…道に迷って」

「直ぐに向かう。近くにコンビニはあるか?そうか、だったらその中で待ってろ」

車のエンジン音が聞こえる。

(じゃあさっきのフードの人は…烝じゃない…?の?)

私はノロノロと立ち上がり、コンビニへと向かった。

(わからない…烝の事が…わかんなくなってきちゃった)




君はペット。

忠実な私のペット。

だから何でも知ってる。

そう思っていたのは、私のエゴなんだろうか。