「55号仕事だ」
それは突然やってくる。
俺は黙って部屋を出た。
お前らは死刑がどんな風に行われるか知っているか?
俺はよく知らない。
それに関わっていながらも、俺は良く知らないのだ。
俺は階段を上がり、ボタン室と呼ばれる部屋に入る。
壁の向こうには白装束に着替え、顔には白い布を被せられ、手錠をかけられた死刑囚がいるはずだ。
暴れるやつ、念仏を唱えるやつ、黙って刑を受けるやつ、様々な死刑囚がいるという。
さてボタン室だが、ボタンが5つある。
俺は一つのボタンの前へと誘導される。
(今日はこれか…)
俺一人がボタンを押すなら、ボタンは一個で良いと思うだろう?
かつてはボタンを押す係は5人いた。
しかし皆神経衰弱になって辞めちまったらしい。
そして辞めちまった連中の事も、俺は何一つ知らない。
「おい、55号!」
呼ばれた先に目をやると、刑務官がやれと目で合図を出した。
俺は黙って目の前のボタンを押した。
詳しくは知らないが、ボタンは隣の部屋と連動している。
その部屋にいる死刑囚は首に縄をかけられ、さらに両足を縛られている。
死刑囚の足元には扉があり、ボタンはその扉を開けるものだという。
扉の下は高さ4mほどの部屋がある。
ボタンを押せば、奴らはその部屋へと落ちていく。
当然首吊り状態になる。
要するに俺は死刑囚の首吊りの手伝いをしているという事だ。
「55号ご苦労だったな」
刑務官が封筒で俺の顔を叩いた。
これは特別手当で、中には二万円が入っている。
しかし外(シャバ)に出ることの出来ない俺には必要ないものだ。
「今回もこれで供養してやってくれませんか」
「ふん…人殺しのお前にも慈悲の心があるのか」
俺は封筒を丁寧に返し、係のものに連れられて部屋へと戻った。
人殺し。
そう、俺は人を殺してこの刑務所にいる。
今の日本では、二人以上殺すとほぼ死刑確定らしい。
俺は裁判官から死刑を言い渡された。
死刑執行は突然やってくる。
朝の9時にお迎えが来て、そのまま連れて行かれる。
身の回りの整理すらさせてもらえない。
死刑囚には人権などない。
俺が『55号』と呼ばれるのは、受刑者達を名前ではなく番号で管理しているからだ。
ある日俺のところにもお迎えが来た。
いよいよかと思ったが、刑務官が告げた言葉はこんなものだった。
「55号、このままま死刑になるのを待つか、死刑執行人の役を受けて生きながらえるか、選ばせてやろう。どのみち外には出られないがな」
先にも言ったが、ボタン係は皆神経衰弱で辞めちまった。
そこで死刑を免れる代わりに人を殺し続けるか、予定通り死刑を受けるかの選択を俺は与えられたのだ。
死にたくは無かった。
だからボタン係を引き受けた。
そうして俺は人殺しを続けている。
刑務官達は俺を『死神』と呼んでいる。
何時か俺に死が訪れるまで、俺は人を殺し続けるのだろう。
正義という名の茶番の元で。