耳に入るのは銃声。

静寂の中に響き渡る銃声。

遠くにあって近づいてこない銃声音。

何度も耳にしていても慣れる事はない。

「鉄、眠れないのか?」

眠れずに身動ぎをした途端、傍らにいる土方さんの声が響いた。

「あっ…はい。ずっと目を瞑っていましたが、どうしても眠れそうにありません」

「隣の奴は身動ぎひとつしねぇくらい眠ってやがるのにな」

土方さんから笑いが漏れた。

銃声もそうだが、隣で眠る銀之助の寝息が気になって眠れないのもあった。

こんな状況でぐっすり眠れる事が羨ましくもあり、敵兵が押し入ってきたらどうするんだろうと言った心配もある。

「土方さんは少し眠りましたか?」

「俺は眠らねぇ。俺は立ち止まっちゃあいけねぇ…立ち止まれねぇんだよ」

「でも、少しくらい眠らないと体が持ちません」

「人の心配する暇があったらてめぇの心配しやがれ。俺は眠ろうと思えばどこでも眠れる。たとえ会議中でもな」

「さすがに会議中は駄目なんじゃないですか」

「くだらねぇ事ばっか言ってやがる連中の話を聞いてんのは退屈なんだよ」

暗闇の中、土方さんがどんな顔をしてこんな冗談を言っているのかはわからない。

でも、この人ならやりかねないなと思ったら…つい顔が緩む。

「鉄、笑ってねぇで眠れ」

こんな暗闇でも人の表情が読める事に驚きつつ、身動ぎをして銃を抱き直した。

冷たいはずの鉄の銃はすっかり温まってしまっている。

「んな冷たいもん抱いて眠るなんて、至極つまらねぇだろうが少しだけ我慢しろ」

「いえ、いつ敵兵が来るかわかりませんから大丈夫です」

「俺が眠れと言ったら寝とけ。敵兵が来たら思いっきりひっぱたいて起こしてやる」

「…銃声が気になって眠れないんです」

肝が小さいと笑われるだろうから言うのは嫌だった。

でもこの人に嘘は通じない。

通じるはずがないのだ。

「…あれは銃声じゃねぇ。煙火(はなび)だ。煙火の音なんだよ」

「あんなに騒がしい煙火なんてありませんよ。それに季節外れです」

「ばかやろう、ここは江戸でも京の街でもねぇ。音が違うんだよ。ここじゃあアレが煙火の音だ。ここはな、季節感を毛頭無視してんだ。だから煙火は今日だけじゃねぇ。明日も明後日も上がるだろう。今見れなくてもいつでも見れる。だから気にせず寝ろ」

(相変わらず無茶苦茶言う人だな…)

でも嫌じゃない。

嫌じゃないから、僕はここまでついて来た。

僕は銀之助にピタリと寄り添うように坐り直した。

「体が冷えていたらいざという時に動けねぇからな、冷すなよ」

土方さんがそっと僕と銀之助に毛布をかけてくれた。

「はい。土方さん、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

僕はもう一度目を閉じた。

上手く眠れるかはわからない。

それでも眠るしかない。

眠らぬ獅子の傍に居続けるために。