恋ノ花 | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記


夏の恋、終わった? ブログネタ:夏の恋、終わった? 参加中
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「君の顔、彼岸花みたい」

返り血を浴びた沖田さんがクスクスと笑い声を上げている。

「なん…ですか?」

冗談言わないでください…そんな一言さえも口に出せなかった。

私は今目の前にいる人が怖い。

怖くて仕方がない。

でも足が竦んで逃げ出す事も出来ない。

「あ~あ、せっかくのかわいい顔が台無しだね」

沖田さんの指が私の顔についた何かを拭うように触れた。

「クス…君の顔血だらけ」

生臭い匂いが鼻をつく。

堪らずその場を飛び出そうとしたその時、足に何かがぶつかった。

それは血に塗れた何かの塊。

それは確かに先ほどまで生きていて、私の命を奪おうとしていた者だ。

「安心して。これ、もう動かないから」

沖田さんが足で塊を蹴り上げた。

「急所狙ったから動かないし」

仰向けになった塊はごろりと体の向きを変え、大きく目を見開いた目で私をじっと見つめている。

そうだ。

私の目の前で人が斬られたんだ。

断期末の叫び、肉を裂く音、血飛沫が飛び散る音も全部私は聞いたんだ。

「ねぇ、早く帰ろうよ。お腹空いたし、長い時間君を連れまわしていたら、土方さんに怒られちゃう」

私に指し伸ばされた手はぬるりと生温かかった。

私の意識はここで途切れてしまった。










「夢…うたた寝してたみたい」

どのくらい前の事を夢見ていたのだろう。

血まみれの顔で笑っていたあの人は、今青白い顔で布団に横たわっている。

「沖田さん、お食事の時間です。起きてください」

眠る人に声をかけると、眠りを邪魔された事に抗議するような唸り声を上げた。

安堵のため息が漏れる。

「少しだけ待っててください。支度をしてきますから」

立ち上がろうとすると腕が伸び、やせ細った指が着物の端を掴んだ。

「もう、なんですか?」

「いい…」

「しっかりとご飯を食べないと元気になれませんよ」

「側にいてよ」

「食事が終わったら、沖田さんが眠るまで側にいますから」

「じゃあ…約束」

「はい、約束します」





食事を持って再び部屋を訪れた時、沖田さんは愛刀を手に部屋の縁で倒れていた。

吐き出した血に咽る沖田さん慌てて駆け寄り、抱き起こした。

沖田さんは苦しそうな呼吸を繰り返している。

「沖田さん!しっかりしてください」

畳に、着物に、無数の赤い花が咲いている。

「季節外れの彼岸花…たくさん咲いたね」

「冗談言ってる場合じゃないでしょ!」

「あの時も君の顔に着物にたくさんの彼岸花が咲いていて…」

「あの時?あの時って…」

「君が不逞浪士に斬られそうになって…君は酷く怯えていた。血塗れの僕に、傍らにある肉の塊に。そんな君が愛おしいと思ったんだ。可笑しいかもしれないけど、君は弱いから僕が守ってあげなきゃいけないんだって…そう思った」

沖田さんは弱々しく笑い、ひとこと呟いた。

「たくさん怖がらせてごめんね。それから…ありがとう」

「沖田さん?嫌だ、目を開けてください。お願い。変な冗談言わないでください!」

私は冷たくなっていく沖田さんを、強く抱きしめながら泣き続けた。










彼が居なくなった暑い季節が過ぎて、朝晩は身に凍みるくらい冷たい風が吹く季節になった。

私の目の前には本物の彼岸花が咲いていて、その怪しく美しい姿を静かに揺らしている。

今までは忌々しい印象しかなかったこの花も、今は彼との思い出の花になってしまった。

酷く夏の日、季節外れの赤い花は咲き、青年の夢は終わりを告げた。

「沖田さん、私は貴方が恐ろしかった。それと同時に離れがたくもあったんです。貴方を怖いと感じながら、私は貴方に強く惹かれていた。だから私は貴方の咲かせる花を最期まで見届けたいと…そう思っていたんです」

秋が来て赤い花が咲き、伝えられなかったこの想いは、私の胸の中にそっとしまいこんだ。