人は己が身を守るために嘘をつき、人を陥れるために嘘をつく。
己が夢を見るために嘘を口にして、他人の夢を破るために嘘を告げる。
誰かを守るために嘘を伝え、それを事実とするために嘘をつき続ける。
私は嘘に塗れた汚い存在だ。
大好きなおねぇに…ずっと嘘をつき続けているのだから。
「ねぇ、ethlin。会社の誰かの子供の誕生日が近いの?まさかethlinが使うんじゃないよね?」
おねぇがクスクスと笑いながらダンボール箱の中に入っていた玩具を取り出し、軽く振って見せた。
シャラシャラ
玩具は軽やかな音色を奏でている。
一瞬心臓が止まりそうになった。
背中に汗が流れる。
玩具を無造作にしていた自分を呪った。
「あ…あぁ、それ?うん、去年から産休に入ってるパートさんの子供の誕生日プレゼント。ゆきちゃんとか有志の女の子だけでプレゼントあげようって。ネットで注文したから、一応皆に中を確認してもらってからラッピングするつもりだったんだ。」
私は震える声を抑えつつ、いつも通りの口調で笑って見せた。
「ふ~ん…。左之も子供用の玩具で何かいいのがないか聞いてたな。春ってベビーラッシュなのかもね。参考にしたいから写メしていい。」
「うん、いいよ。なんだったら買ったサイトも教えてあげる。」
重ねられる嘘。
積み上げられる嘘。
私は自分の心にさえ嘘をつき続け、耐え切れなくなって大切な人の前で涙を流す汚い存在だ。
私の涙があの人を酷く責めるとわかっているのに、自分の心を偽り続ける事が出来ないずるい人間だ。
「えへ♪5月5日のこどもの日が誕生日の男の子なんだよ。」
「へぇ~なんか男らしいね。」
「うん。一回だけだっこさせてもらったんだけどさ~すごいかわいいの!大きくなったらきっとお父さんみたいに男らしくてかっこいい、優しい人になると思うんだ。」
これ以上ダンボールの中を詮索されないように、さりげなく部屋の片隅に移動させた。
玩具と一緒にしていたカードに視線を走らせる。
(封筒に宛名書かなくてよかった…。書いてたら、即効問い詰められるところだった。危ない危ない…。)
カードの贈り主は私の大切な人の…大切な家族。
はっぴーばーすでー 土方優輝くん
お父さんみたいに強くて優しい人になれますように!
偽りにない心からの言葉。
それでもメッセージを綴る手が震えるのは、きっと私が自分の心に嘘をついているからだ。
私はこの嘘をつき続けなければならない。
たった一人の大切なあの人を守るために。
おねぇを泣かせないために
そして…
いい人を演じ続けるために。
人が犯した最初の罪は神の言いつけに背いた事だった。
悪しき存在の囁きに惑わされ、禁断の果実を口にした時から人は永遠の罪人と成り果てた。
楽園を追われたアダムとイブは子供を生んだ。
その子供はこの世で最初の身内殺しの罪を犯し、さらに神にさえ平気で嘘をついた。
私は知りません。私は永遠に弟の監視者なのですか?
原罪は子々孫々へと繋がっていく。
私にもその罪人の血が流れている。
神を裏切り、身内を裏切った罪人の血が流れている。