地上の楽園 Ⅲ ~Love Potion~ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

今日は愛おしい人へ愛を告白する日。


私への想いを告げてくれたかわいい羊には、楽園のDOORを開いてあげよう。


苦のない理想郷へと招待してさしあげましょう。






「狭間先生…いらっしゃいますか?」


開け放たれたままのドアが軽くノックされ、遠慮がちな声が私の名を呼んだ。


「はい、いますよ。どうぞ。」


コツコツと靴の音が響き、出入り口のそばにあるパーテーションの影からミニーが顔を覗かせた。


…あぁ、ミニーではわからないかもしれませんね。


私が今根城にしている百貨店の、食品売り場にいる女の子の事です。


チョロチョロとねずみのようでね…ねずみなら『ミッキー』でしょう?


彼女は女の子だ、そしてミニサイズだから『ミニー』


本名はethlinと言うそうですが、私はミニーの方がぴったりだと思いますけどね。


「狭間先生、お疲れ様です。腸内検査の申込用紙をお持ちしました。」


今日は楽しいバレンタインデーだというのに、君は検便の申込用紙を持ってきたんですか?


いや、君にならチョコなどなくても、喜んで楽園へとご招待してあげますけどね。


しかしミニーは警戒心が強いらしい。


私と顔を合わせると、まるで嫌なものを見たようなしかめっ面ばかりするのです。


「洩れはないと思いますが、念のためご確認ください。」


私が申込用紙に目を通している間に、どうやら机の横に山積みにされたチョコレートに気がついたらしい。


「うっそぉ…」という台詞を漏らした。


「この会社は女性が多い。医務室を利用する割合も、当然女性が大半だ。そのお礼のようです。数人の女子社員からチョコレートをいただきました。」


「はぁ…すいません…気が利かなくて。」


「いいえ、君にチョコレートを要求したわけではありませんからお気になさらず。それにこの医務室を利用する人に然るべき処置をする…それが私の仕事ですから。」


山積みの中から箱を一つ取り上げ、リボンを外して包装紙を破った。


蓋を開けると、甘い香りが鼻をくすぐる。


「お一ついかがですか?」


ミニーはさらに渋い顔を私に向けた。


「遠慮なさらず。実は甘いモノが得意ではなくてね…協力してくれると非常に助かります。」


ミニーは一瞬考え込んだものの、どうやらチョコの誘惑には勝てなかったらしい。


中を覗きこんでどれにしようか悩んでいる。


「じゃあこれ…」


「このチョコの中に一つだけ毒が入っている。」


「へっ?」


ミニーの表情が固まった。


その様子が堪らなく愛おしくて、つい笑みが零れた。


「この中に一つだけ、毒…いえ媚薬入りのチョコがあるらしいですよ。そう聞きました。」


「媚薬?あぁ!『Love Potion』だ。」


「ラブポーション?」


「チョコのシリーズの名前です。このシリーズは一つだけダークチョコの中に甘いリキュールが入ったチョコがあるんです。えっと…どれだろう?」


ミニーは箱の中のチョコを吟味し、ドーム型のチョコを一つ摘み上げた。


「いただきます。」


口の中に放り込み、カリッと音を立て、そして私に笑いかけた。


「あたり!あたりでした!リキュール入り!!美味しいです。」


見たことのないミニーの満面の笑みを見た私の心に、なにか複雑な思いが過ぎる。


(あぁ…私にすがって「楽になりたい」と言えばいつもの苦悩した顔ではなく、いつでもこの愛玩動物のような笑みをさせてあげられるのに…。)


しかしミニーは私の心中などお構いなしといった様子で「もう一個もらいます!」と言って二個目のチョコを口にしている。


「狭間先生、ホワイトデーのご用命は是非洋菓子売場へ!ホワイトデー限定のお菓子を準備して待ってますから、売上協力お願いしまーす!」


口をもぐもぐとさせながら医務室を立ち去るミニーの姿は、まさにハムスターそっくりだった。


どうやら彼女は食べる事が好きらしい。


「ハムスター…そうか…餌付けだ。餌付けをしてミニーの信用を得、その後彼女を楽園へと誘えばいいのだ。その間、新見先生の薬が彼女に効かなかった理由も探れるかもしれない。なんにせ彼女は腐りかけの肉団子さえ美味しいと賞賛する無神経な舌を持ち、腹を下さぬ強靭な胃と腸を持つ新種の人間だからね。手放してしまうのはもったいない。」


(まずはホワイトデーの菓子を購入する事で信用を得るとしよう。くくくっ…なんなら端から端まで買い占めてみせようか…。)


一ヵ月後に迫る菓子業界の戦略的行事を思いながら、私は携帯電話に手を伸ばした。


「…先生、私です。えぇ…順調ですよ。最近は先生が強く所望されている若い雌羊を重点的にね…。脂ぎったむさ苦しい野郎ばかりでは息が詰まってしまう。やはり先生の楽園には花を添えなくては…二輪の美しい花を失った補充をしなくてはね。そうそう…以前お話した面白い小ねずみですが、少々やり方を変えて接触してみる事にします。えぇ、いい案が浮かびましてね。少し物足りない感がありますが、まぁ…だめなら研究材料にすればいい…。」






今日は愛おしい人へ愛を告白する日。


迷える羊は甘い媚薬を持って医務室へいらっしゃい。


君のためにこのDOORは開いているのだからね。


そうそう…聞き分けのいい羊にはご褒美をあげよう。


甘い快楽の時間と、とろけそうなエクスタシーを君にあげよう。