夜が明け、庭から雀のさえずりが聞こえる。
ethlinは布団の中で泥のように眠っている。
昨晩は緊張の糸が解けたのだろう、目をしきりに擦ってははあくびを繰り返すethlinを布団に押し込むと、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
(さてと…外出していた近藤さんも明け方に戻って来たみてぇだからな、話だけでもしとくか)
俺はそっと部屋を出て、局長室へと向かう。
(どこまで話せばいいやら…俺が面倒を見るって言えば近藤さんは絶対に反対はしねぇ。かえって『トシに小姓がいれば俺も安心だ』と言うに決まっている。かと言って、新選組隊士として迎えられるわけもねぇしな。)
eethlinは女だから当たり前と言えば当たり前だ。
一番の問題は隊士として迎えてしまえば、あいつがここを出たいと言った時に隊規に従わせるしかねぇって事だ。
つまり『死』をもってここを出て行く事になる。
面倒見ることを決めたものの、俺はまだあいつが自分から『ここを出る』と言ってくれれば…と考えていた。
ここにいる限り見なくてもいいものを見ることになる可能性が高い。
それを見てしまえば、ここから出してやることは出来なくなる。
総司が拾ってきた、あの少女のように…。
「近藤さんいるか?」
「トシか!どうした?ん…何か困り事か?」
「困り事…まぁ…似たようなもんだがな。とりあえず会わせたい奴がいる。詳しい事はそれからだ。」
俺は近藤さんを連れて部屋へ戻ったが…
(おい…なんだって俺の部屋の前にあの三馬鹿が集まってやがる?)
部屋の近くまで来ると、何故か左之助、新八、平助の三人が俺の部屋の前でなにやら話し合いをしている。
「だからよ…俺は土方さんの事信じてるけどな…あんな小さい子供がこんなところまで土方さんを訪ねて来たんだぜ。全然関係ないとは言えねぇだろ?」
「でもよ新八さん、土方さんに全然似てねぇじゃん。土方さんの子供だったらさ、もうちょっとくらい綺麗でもいいと思うけどな~。」
「平助、あんまりデカイ声出すなよ。ガキが起きるだろ?」
俺はこそこそと部屋を覗き込んでいる三人の背後にそっと回り込んだ。
「てめぇら!人の部屋を勝手に覗いてるんじゃねぇ!!」
「「「うわっ!土方さんだ!!!」」」
「なんだ?トシ、部屋の中に誰かいるのか?」
「土方さんは朝から煩いな。クス…昨晩も土方さん絡みで何か騒ぎがあったみたいだけど?」
「副長、朝飯の準備が出来ました…申し訳ございません。取り込み中でしたか。」
部屋の中で眠っている人間はと言うと…ようやく目を擦りながら布団から体を起して、集まった連中をぼんやりと見つめていた。
「そうか…トシを慕ってここまで来たのか…。」
俺の予想通り、近藤さんは事をまったくいい風に解釈をして、ethlinにねぎらいの言葉をかけている。
「ふ~ん…土方さんが子供の面倒をね…まぁ、僕には関係ないけど。」
興味がないと言いながらも、総司はジロジロとethlinを眺めて意味深な笑みを浮かべている。
総司の事だ。ethlinの正体に気がついたのだろう。
あと気がつくとしたら左之助と斎藤だが…
「まぁ…土方さんが面倒を見るって言うなら任せるけどよ…本当にいいのか?厄介者がまた一人増えちまうぜ。」
『厄介者』の言葉を聞いて、ethlinの体がビクッと跳ね上がった。
「心外だな~。佐之さんは『沙雪』が厄介者だって言うの?誰にも迷惑はかけてないと思うけど?」
「でも沙雪はさ~『アレ』を見てるしさ~。」
「平助!余計な事ベラベラ喋んじゃねぇ!!」
「いででででで…左之さん耳…いてぇ!!」
「副長、俺は副長の判断に任せます。平助、しばらくこの者の身柄を新選組で預かる…という事だ。あまり騒ぎたてるな。この者に関する事は全て副長が判断をする。俺達がとやかく言う事ではない。」
平助の耳を引っ張り上げる左之助を眺めながら、斎藤は静かに言葉を口にした。
「それなら…まぁ…俺としてはいいけどよ…。土方さん、本気で家出した来た子供をこのままここで預かるつもりなのか?」
「新八!責任の半分はお前だ!お前がこいつの帰らねぇって言葉を鵜呑みにして、どっか行っちまったからだろうが!!」
「おっ!だってよ…土方さんが家に帰す事以外は相手するなって言ったらよ…。」
「だからと言って飲みに行く馬鹿がどこにいる!!」
「おっ俺は飲みになんて行ってないぜ。稽古…そう左之と道場で剣の稽古を…。」
「酒くせぇ息させやがって、何が稽古だ!!」
「あっ…あの…。」
黙りこくっていたethlinが口を開くと、皆が一斉に目を向けた。
「あの…すいません…わた…えっと…あの…あの…皆さまに絶対に迷惑かけませんから…なんでもします。言いつけは必ず守ります。だから出て行けって言わないでください。お願いします。」
ethlinは目に涙を溜めて頭を垂れた。
「なに!心配は不要だ。君も知っての通り、トシは見た目は無愛想だが心根は優しい男だからな、身寄りのないethlin君に出て行けなどと言うはずがない。」
おいおい…近藤さん…ちゃんと話を聞いていたのかよ。
俺は事情があって家を出たとしか言ってねぇ…。
「そうだな…土方さんは俺達には鬼みたいだが、弱いもんには優しいからな…で、この家出娘の部屋はどうするんだ?」
「はぁ?左之、何言ってるんだ?家出娘って…こいつ男だろ?ばっかじゃねぇか。」
馬鹿はお前だ新八…。
「そうだよ左之さん!こいつのどこが女だって言うんだよ。細っこいし貧弱な体つきだけどよ、女らしい色気なんてどこにもねぇじゃん。」
平助…本人の前で、それはさすがに禁句だろ?
「クスクス…土方さんの部屋でいいんじゃないの?自分で面倒見るって言ってるんだから。」
総司…てめぇは面白がってるだけじゃねぇか!!
「新八、平助、この者は…。」
斎藤は一度言葉を飲み込み、俺の顔をチラリと見た。
「斎藤…かまわねぇからはっきりと言え。」
「しかし…副長…。」
「いい…いずれわかる事だ。」
斎藤は新八と平助に向き直り、静かに事実を言い放った。
「この者は…女だ。間違いない。」
「おっおお…女~?」
新八…あんまり驚くな…自ら男の振りして来たとはいえ、傷つくだろうが…。
「一くん!マジかよ!?いくらなんでもこいつが女なんてひどすぎるぜ!」
ひどいのはお前の発言だ、平助。
「なっ…なんと…女子とは…。」
近藤さん…あんたもかよ…まぁ…予想はついていたけどな。
「むぅ…そうか…女子か…トシ…女子だとしても大切にしてやらなければな。トシを頼りにここまで来たのだからな。うむ、そうだ!それが父親としての務めだ!!」
ちょっと待てくれ…
こいつは…
こいつはな…
「俺の子供じゃねぇって言ってるだろうがーーー!!赤の他人だ!!」
屯所に俺の叫び声が響き渡った。