花音 ~サクラサク~ ② | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

桜の木の下でうずくまっていると左之助と新八が現れ、俺は二人に担がれて屯所に戻り傷の手当を受けた。


想像より傷は深く、一週間は安静にしろと医者に命じられた。


しかし、じっとしているわけにもいかねぇ。


部屋で溜まった仕事をこなしていると、ドカドカと近藤さんが乗り込んできた。


「歳!何をしている?今歳に必要なのは休息だぞ!?そんな事は俺に任せて、ゆっくり休んでいろ。」


「近藤さん、こんな事だから俺がやるんだろ?近藤さんがする事じゃねぇ。近藤さんはもっとでっかい事をしてもらわねぇとな。それに、じっとしているのは性に合わねぇ。なに…たいした仕事じゃない。座っているだけだからな。」


本当は座っているだけでも辛い。


しかし寝ていても傷は痛む。


だったら…仕事をしている方がよっぽどいい。


筆を動かす手を休めない俺を見て、近藤さんは大きなため息を一つついた。


「歳…たまには休め。歳が倒れたら…俺が困る。俺はどうしたらいい?俺達はこんなところで終わるわけには行かない、そうだろう?がむしゃらに前へ進んでも前へ進めない時もある。それが今なんじゃないか?それにこんな機会でもなければ、休む事も出来んだろう。」


顔を上げると近藤さんは困った顔をして笑っている。


「そうだな…どうしても寝ているのが嫌なら散歩をしてきたらどうだ?あまり遠くへ行くのは勧められんが…そうだ!花見だ!花見をしてくるといい。遅咲きの桜ももう散ってしまう頃だろう。せっかくだ、今年最後の桜を見てくるといい。」


「…参ったな。近藤さんにそこまで言われちゃあ…嫌だとは言えねぇな。わかった、今日は休む。少し外の空気を吸ってくるか。土産に甘いものでも買ってくるぜ。疲れた体には甘いものが一番いいからな。」


そうして俺は一人で花見としゃれ込む事にした。










遅咲きの桜と聞いて一番に思い浮かんだのは、あの少女と出会った桜並木だ。


(まさかと思うが…いつもいつもいるわけがねぇ…本物の桜の精じゃあるいめぇし…)


ゆっくりと桜並木に近づくと、見たことのある牡丹色の着物が目に入った。


(まさかな。あいつ…本当に桜の精じゃねぇよな?)


近づいてみると…やはりあの時の少女が桜の木の下にいた。


少女は桜の枝に向かって手を伸ばしたり、ぴょこぴょこ飛び跳ねたりしていた。


(何やってんだ?)


さらになにやらブツブツ呟きながら腕を振り、腰を落としてみたり体を伸ばしたりを繰り返し始めた。


(なんだ?子供の間で流行ってる遊びなのか?)


後ろからそっと近づいてみる。


「何してやがる?」


声をかけた瞬間少女は枝に向かって飛び上がり、そして体の均衡を崩して背中から倒れてきた。


「おい!何やってる!?」


慌てて駆け寄り抱きとめた。


傷が痛んでうめき声が漏れたが、少女の「あれ?」というのん気な声と俺の罵声でかき消されてしまった。


「あれ?じゃねぇだろ!!」


少女はきょとんとした顔でくるりと振り向いた。


「何考えてんだ!お前は。花盗人するつもりなら…自分の手の届くところから盗め!!」


オドオドと怯えた目が俺を見つめている。


「ごめんなさい…。」


いらいらしながら睨みつけると、さらに目に涙を溜めておろおろと頭を下げる。


(ったく…なんなんだ…このガキは…)


ところが頭をしきりに下げていたかと思えば、今度は急にクスクスと笑い始めた。


「何がおかしい?」


憮然とした俺の声に、少女は笑いを堪えながら顔をあげた。


「いえ…桜の精公認の花泥棒なんて…私…おかしくって…。」


「桜の精?」


桜の精…俺がか?


「あっ…ごめんなさい。お名前も知らないし、あの…この間見たときにあまりにも綺麗だったから、私…貴方の事桜の精だと思って…。」


俯いてボソボソと泣きそうな顔で呟く少女をまじまじと見つめた。


(こいつも俺と同じことを考えてたのか…)


ふと目線を少女の足元に向けると、桜の花びらがいくらか入った籠が置いてあった。


背が小さいため手が届かないのだろう、籠の中身はまだ半分にも満たない。


「どのくらいだ?」


籠の中を覗きこみながら問いかけると「はい?」とぼんやりした返事が返ってきた。


「あとどのくらい、花が必要か聞いたんだ。」


「あっ…えっと…この籠の六分目くらい…。」


ざっと桜並木を眺める。


ここから端まで歩いたとしても、この少女の手に届く高さにある桜の花の量などたかがしてている。


(仕方がねぇな…)


俺は傷の痛みを我慢しながら、黙って桜の木に手を伸ばした。


花を摘み差し出すと、慌てて籠を俺の足元に置いた。


花を摘む音と風の音だけが耳に響く。


少女は黙っている事が気まずいのか、俺の傍でもじもじと恥かしそうにしている。


(そう言えば…傷の手当ての礼を言ってなかったな)


「悪かったな。」


少女の体が一瞬ビクッと震えて、俯きながらぼそぼそと何か言葉を口にした。


「あっ…あの…えっと…こちらこそ…花泥棒のお手伝いをしていただき、ありがとうございます。」


「………」


「あの…ホントごめんなさい。桜の精さんに花泥棒させるなんて…。でもでも、明日には雨で花は全部散ってしまうと思うし…。」


「………。」


「あっ…もしかして明日は雨じゃないですか?明後日でしたか?あぁ、ごめんなさい…明日もう一日花が楽しめるんでしたね。どうしよう…。」


「…ふっ…。」


ふいに笑い声が漏れた。


「お前なぁ…。」


少女は顔を上げ、きょとんとした顔で俺の顔を見つめている。


「花の事じゃねぇよ…この前お前が持ってきたもん…全部俺の血でダメにしちまったから謝ったのに…。あの時も可笑しな女だとは思ったが…こりゃ…相当だぜ。」


「あっ…そっ…それでしたか…。」


少女は真っ赤な顔をして、バツが悪そうな顔でまた俯いてしまった。


(今までに見たことのない感じの女だな…)


少ししゃがんで目線を合わせ、少女の顔を覗き込んだ。


恥かしさのあまりかべそをかいていて、その顔を見られまいとふいっと顔を逸らす。


頭を数回ぽんぽんと撫でてやると、驚いた顔で俺のじっと見つめた。


(本当に乳臭い顔ガキだな。突拍子もない事をやる、言動がおかしい上に発想もおかしいときたもんだ…だが面白しれぇ。)


「俺の名前は土方歳三だ。お前の名前は?」


「…土方様…ですか?」


「そうだ。お前の名前は?」


口を数回パクパクさせて黙りこくり、やがて少し躊躇いながら口を開いた。


「…ethlinです…。」


恥かしそうにぼそぼそと呟くethlinの頭をもう一度数回撫でてやった。


「いい名前だな。」


さらに顔を赤くして俯くethlinの手を黙って取った。


ずいぶんと小さな手だった。


握りしめると、俺の手にすっぽりと収まってしまう。


「あっ…あの…土方様?」


「籠を花でいっぱいにするにはまだまだだな。仕方がねぇ…手伝ってやる。」


「あの…良いのですか?」


「俺は桜の精なんだろ?その桜の精が良いって言ってんだ、かまわねぇよ。それに花は綺麗なうちに愛でるもんだぜ。」


「はい…。」


小さな手をひきながら、俺達は黙って桜並木を歩き出した。