汚れた花 ~ ヨゴレタハナ ~ ④ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

「自殺ねぇ…」


ethlinの気持ちが落ち着いたところで、晩ご飯の準備を再開した。


少し話しをしているうちに「絶対に秘密だよ」と言って、ethlinは会社で起きた出来事を話し始めた。


「デパートとかって、結構その手の話多いよ。公表してないだけで」


「でも、人が死んだのにニュースにしないなんて変じゃない!!」


ethlinは納得いかないとばかりに、大きな声で叫んだ。


「まぁ…世間に公表しないって言うのはデパートの立場としては当然かな。たくさんの人が来る場所だしね~。騒ぎのあったお店に買い物行きたくないでしょ?」


「うん…まぁ…そうだけど…。ほら…遺族の人たちは…嫌だと思うし…事実を隠されるわけだから…」


「立場が違えば考え方も違う。もし…もしもだよ、ethlinが会社で刺されたりで大怪我して、会社が事実を隠せば…おねぇは会社に乗り込むよプンプン。当たり前でしょ。でも…会社はたくさんの従業員を抱えている。被害者の家族が被害者を守るように、会社は従業員を守らなくちゃいけない。おねぇも矛盾してると思うけど、客観的に落ち着いて考えれば一方だけを責める事はできないかな。その自殺した人の遺族が会社に対してどう思いどう行動するかは、その遺族の人達だけのものだし。第三者のethlinがそこまで気に病む事ないよ」


それでも納得しきれないのか、少し泣きそうな声でぼそぼそと呟いた。


「サイレンも鳴らさずに救急車呼んだりとか…もう…隠蔽する気満々だし…」


「それはね、大通りに近いし、デパートが呼んだとなると目立つし騒ぎになるし、近隣の住民の事も考えればその選択もありだよ。真意は会社にしかわからないけど」


ふぅとため息をつくethlinの頭をそっと撫でてやる。


「ethlin…優しいのはいい事だけど、気にし過ぎると自分が疲れちゃうよ。美味しいご飯食べて、美味しいケーキも食べて、とにかく忘れよう」


「優しいんじゃない……が…怖いだけ…」


消えそうなくらい小さなethlinの言葉をかき消すように、ethlinの携帯から音楽が聞こえてきた。


『星に願いを』のオルゴールバージョンだ。


ethlinは赤い顔をして携帯を手に取り、着信を確認し始めた。


メールらしく、画面を見て嬉しそうに笑っている。


「土方さんからでしょ?」


「えっ!?なんで?なんでわかったの?」


心底驚いた様子で私の顔を眺めているけど、顔を見ればわかる。


この子にこんな顔をさせる事が出来るのは、たった一人しかいない。


「ゆきちゃんもこの着メロ聴いて、歳三さんからのメールだって言い当てた」


ethlinは恥かしそうに俯きながら、携帯をテーブルに戻した。


鮮やかなマゼンダ色の携帯には、私が作った赤ずきんちゃんのストラップが下がっている。


「ethlinさぁ~初デートの時、土方さんを動物に例えたら『狼』って言ったでしょ?」


「えっ?なっ…なんで?」


「ふふっ…土方さん本人に聞いたんだよ」






いつも通りに花屋へ遊びに行くと、携帯電話で話をしている土方さんを見かけた。


携帯電話にはいつも難しい顔をしている彼にはまったく似合わない、狼のストラップが下がっている。


笑いを堪えていると「なんだ?」と言った顔で睨まれた。


「いえね…あの子がつけたストラップつけたままなんだって思ったらおかしくて…。ごめんなさい、悪気はないんだけど…でも…ウケるし…。そのストラップ見つけた時、あの子「土方さんみたいじゃない?」って言ってたっけ…」


土方さんは笑いを堪える私をひと睨みして、狼のストラップを黙って眺めた。


「前に動物園に連れて行った時、俺の事を『狼』って言ってたな。総司は『虎』であいつは…クククッ…『ハムスター』だ。小さくて、オドオドして、すぐにパニクって…本当に世話がやける」


そう言って優しく笑った。


「狼?犬じゃなくて?」


なんで犬じゃなくて狼なんだろう。


「俺は群れの中にいても、少し寂しそうなんだと…」


ふと笑顔に影が落ちた。


あの子はこの人の心の奥底の影に気がついているのかもしれない。


私と同じように…誰にも言えない心の影…。


「あいつは不思議なやつだな。勘がいいのか悪いのか…まったく読めやしない。ただ…人の顔色を…いや…心の内を全部読まれちまってるんじゃないかって…そう思う時がある。そのくせ自分の胸の内は隠し通す。全部自分の中に閉じ込めて…秘密にして…自分で自分を傷つけてるんじゃねぇかって…そう思うときがある」


やっぱりこの人は妹を大切に想ってくれている…そう思うと心が熱くなり嬉しい反面、あの子もいつまでも子供ではないのだと…少し寂しくもある。


「あの子はね、優しすぎるの。そう言うと『偽善だ』って笑うけど…人を傷つけてまで自分の欲しいモノを手に入れられない…入れたくない。時には犠牲が必要だってわかっているから…その犠牲は自分が負ってしまう…そんな子なの」


ethlinは夏頃から様子が少し変わった。


夏祭りも誕生日も…笑っているのにふとした時…寂しそうな顔をする。


その度たくさんの仲間と出会い、好きな人が出来て、あの子は成長しているのだと…自分に言い聞かせる。


「ったく…自分の事は後回しで、人の心配ばかりしやがって…」


「それを土方さんが言うの?ふふっ…土方さんの結構なおせっかいやきだと思いますよ。もっとご自分の事を優先してもいいんじゃないですか?」


「それはお互い様だろ?」


意味深な言葉を残して背中を向ける、土方さんの背中を黙って見送った。


きっとあの人は私の秘密に気がついている。


それをあの子に知られる事を恐れている事も、あの子が知ればひどく傷つく事も。


だから知らない振りをしている。






「狼さん人形は元気?」


からかうように言うと、真っ赤な顔をして頷いた。


「うん…ちょっと寂しい時はね、お布団の横に置いて寝てるよ。ふっ普段は風車持って部屋に座ってるけどね。えへへっ…貰った時ホントびっくりした。『なんで歳三さんが狼って知ってるの?』って。そっか、歳三さんから聞いたのか…。あっ!でもでも!夏祭りの景品の中にあった、狼とハムスターのぬいぐるみは偶然だよね!」


「うん。あれはホント偶然だね。まったくの偶然。ethlinの手元に行く運命だったんね、あの子達は。ふふっ…そのうちethlinの部屋は土方さん関連グッズでいっぱいになったりして~♪」


「あはははっ!ホントだ」


ethlinは恥かしそうに笑った。


きっと誰もがこの子の笑顔が曇る事を望んではいない。


純粋で無垢で恥かしがり屋のこの子から、笑顔が消える事を望んではいない。


だからみんな、自分の秘密と一緒に他人の秘密も箱に閉じ込めて鍵をかける。


鍵のかかった箱は、鍵がなければ開けられない。


でもその鍵は、私が…私達が思うより脆く、残酷な事にあの子の目の前で壊れてしまう。


誰も知らない。


誰も予想できない。


小さな妹を大切に思うあの人さえ…それは予想のつかない事だった。