注意
沖田さんの最期のお話です。絶命するところを見たくない人は引き返してください。
前回UPしたブログネタ内のSS 君へ贈るコトバ の沖田さん視点 その後のお話です。
この中で語った事は今回触れていないので、未読の方は先に 君へ贈るコトバ を読んでいただいたらと思います。
OK?
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ふと目を覚ますと、見慣れた天井の模様が見えた。
「今日も死ななかったな…」
安堵とも落胆とも取れるため息を吐き出し、庭を見つめる。
ついこの間まで庭を訪れていた黒猫も、僕が相手をしないためかすっかり遊びに来なくなった。
「あの黒猫…土方さんを思い出すから…せいせいするな…」
あの黒猫のように土方さんはふらりと現れ、一刻ほど話をして帰っていく。
「こなくてもいいって言ってるのに…本当におせっかいな人だよね」
微睡んでいると、誰かが来た気配がした。
「また土方さんかな?」
と言ってもここを訪れるのは、世話係の老婆か土方さんしかいない。
襖が開き、土方さんが現れた。いつもにまして険しい顔をしている。
用件はわかっていた。もうここへ来ることは出来ないと言うのだろう。
「総司」
相変わらず不機嫌そうな声で僕を呼んで、布団の傍に腰を下ろした。
「これから会津へ向かう」
その後何かを言いかけて口を噤み、暫し沈黙の後こう切り出してきた。
「千鶴がお前に会いたがっている…。お前はどうする気だ?」
正直千鶴が来たことは想定外だ。ただ、なぜ連れて来たかは検討がついた。
土方さんは僕の世話係という名目で、千鶴を江戸に置いていきたいのだろう。これからの戦況を考えると、あの子の身の安全を考えるなら江戸に留まる事が最善だ。
でも土方さんはどうする気だ?と問いかけてきた。
「土方さんは…どう…して…欲しいんですか…?」
僕に問いかけた土方さんの目には迷いがあった。だからわざと聞き返した。
土方さんは何も答えず、ただ黙って僕の前から立ち去った。
やがて入れ替るように千鶴が現れ、あの大きな目で僕を見つめた。
迷いなどない、自分の心を決めた強い瞳。
あのおどおどしていた女の子が、一人の大人として、女として、自分の生きる道を決心した澱みのない瞳。
君は決めたんだね。
自分の道を決めたんだね。
だったら僕は君に伝えよう。
僕の心を。
大好きな君のための言葉を贈ろう。
あの日からどのくらい経ったのだろう。
世話係の老婆と相変わらず会話をすることもなく、目が覚めてまた眠るを繰り返すだけ…。
目が覚めて、変わらず天井の模様を眺めていると、庭から懐かしい声が聞こえてきた。
「総司!!」
近藤さんの声だ。
「近藤さん?」
庭を見ると、変わることのない笑顔の近藤さんが立っていた。
「総司、長い間待たせたな。行くぞ!!」
「どこへです?」
相変わらず唐突な人だなぁ。でもそこが近藤さんのいいところなんだけどね。
「北へ向かう」
後ろから不機嫌そうな顔の土方さんが現れた。
「なんだ…居たんですか?」
「なんだとはなんだ…とにかく北へ向かう。早く来い」
「総司、俺にもトシにもお前が必要なんだよ。お前の剣の力が必要なんだ」
近藤さんにそう言われると…断われないんだよね。
「総司、早く来い。一気に攻め入る。まさか…寝てばかりで身体がなまって動けない…なんて事はないよな」
土方さんは挑発するような目で僕を見つめ、薄笑いを浮かべている。
「僕を誰だと思っているんですか?」
傍から離したことのない愛刀を手にして立ち上がる。
「新選組 一番隊隊長 沖田総司ですよ」
そう答えて、二人の背中を追いかけるように、庭へ駆け出した。
信頼する松本良順先生の知人だからと世話係を請け負ったのはいいが、正直得体の知れぬ、気味の悪い青年だと老婆は思っていた。
動けない身体でも刀を傍らに置き、少しでも触ろうものなら、痩せてぎょろりとした目で睨まれる。
食事を運んでもほとんど口にする事はない。
ごくたまに客人が来る事があるが、その客人も名前さえ名乗らず、一刻ほどすると立ち去って行く。
「まったく…ろくな人間と付き合ってないんだろうね」
そう呟きながら、いつものように部屋を訪れた。
襖を開けると、いつもは布団の横たわっているはずの人物がいない。
布団は跳ねのけられたように乱れ、傍らに置いてあるはずの刀も見当たらない。
「嫌だねぇ…ろくなことが起きやしない…」
そう言ってふと庭の方に顔を向けた。
庭の真ん中で青年が倒れている。
眠っているのか、息をしていないのか…よくわからない。
ピクリとも動かない青年の手には刀が握りしめられ、傍には黒猫と茶のしま猫がどっかりと居座り、青年の手や顔を舐めまわしている。
「おぉう…嫌だ嫌だ…シッシッ…」
老婆の威嚇など聞こえていないのか、二匹の猫は離れる気配を見せない。
庭へ降り遠巻きに青年の安否を確かめてみる。
猫に舐められてピクリとも反応しないところを見ると、絶命したのだろう。
「大方、邪魔な猫を追い払おうと斬りつけにいったんだろうよ。…とにかく人を呼んでこないとね。しかし皮肉だねぇ…」
老婆は青年の顔をしげしげの覗き見た。
「生きている時はこんな顔…一度も見たことがないよ。笑いながら死ぬなんて…おめでたい人なんだねぇ…」
総司に苦悶の表情はなく、穏やかにただ笑っていた。
生きていた頃の、無邪気な総司の笑顔がそこにあった。
黒猫としまの猫は、総司を労るように身体を寄せ、人が来るまで総司の傍を離れる事はなかった。
あとがき
ここまでお読みいただきありがとうございます。
沖田さんに関しては、沖田ルート以外後半の出番がないため、少し物足りない感じを受けていました。
新選組関連の小説を読んで、また思いは強くなり、自分なりに昇華しようとあえて絶命するところのお話を書きました。
特に土方さんとの微妙な関係…良くも悪くも影響し合っていると(私は)思っています。
なので土方さんルートの中での彼の存在を、大きな意味のあるモノとしたかったのです。
ラストに関しては、菅野文先生の『凍鉄の花』と少しかぶっていますが、その辺は素人の書き物なので…(苦笑)
タイトルは与謝蕪村の歌からいただきました。
正式には 牡丹散って うちかさなりぬ 二三片 です。
洋装の服の柄が「牡丹かな~牡丹みたいだよね~」と勝手判断で(汗)。あとお話のイメージにも合うかな(自分の中ではね)と思い決めました(じょ。
そしてこのお話は、私の心の中の沖田総司さんに捧げます。
一番には絶対になれないけど(笑)、私は貴方の事が大好きです。
もっともっと、いろんな貴方を私に教えてください。
ethlin