としぞーといっしょ
せつぶん
其の二
斎藤さんの手伝いも終わって、豆を枡に入れて、後は豆を撒くだけ
のはずなんだけど・・・
なぜか屯所の中は殺気だっている。
屯所の中というより、今夕餉を共にしている、幹部の皆さんの中の一部の方達なんだけど・・・。
「平助、そのおかず俺がいただく!!」
「あー!新八っさん!!今日は譲れねえ・・・いや・・・おかずくらいなら譲るか」
「平助くん、育ち盛りなんだから、たくさん食べなよ。僕のおかず分けてあげるからさ」
「いーのかよ、総司くん?」
「もちろん、おかずは譲るよ・・・。他は譲らないけどね」
「卑怯だぞ!!でも・・・おかずは譲り受けても、今日の貸しは返さないからね」
斎藤さんは静かに食事しているし、いつも通り。
原田さんはお酒に手を出すわけでもなく、なぜかそわそわしている。
「原田さん」
「・・・えっ?あぁ・・・なんだ?」
「食欲・・・ないんですか?それに玄関の方を気にしているし」
「いや・・・なんでもねぇ・・・。節分の日に風間達が侵入してきたら・・・洒落になんねぇな・・・と思ってよ」
確かにそうなんだけど。
「あっ!!もしかして・・・」
「ギク!?」
「誰かと約束でもあるんですか。そうだったら、気にしないで行ってきてください」
原田さんはモテる人だもの。
誰かと約束していても不思議じゃないし、土方さんが外出したから気兼ねして、ここに残っているのかも。
「そうじゃなくて・・・飯の時間が終わるのが・・・もったいなくてよ・・・」
心なしか原田さんは涙目だ。
原田さん、何か悩んでいるのかな?
私が相談に乗るなんて、差し出がましいけど、何か力になれないかな。
「原田さん良かったら、私相談に乗ります。原田さんの抱えている事だから、私なんかじゃ役に立たないけど、
話を聞くくらいなら出来ますから」
「・・・千鶴ちゃん・・・ありがとな」
そういって私の頭をぽんぽんと叩いた直後
「よっしゃ~今年の鬼は佐之さんに決定~」
の平助くんの言葉と同時に、ばらばらと豆が撒かれた。
「うニャ!!豆まき開始なのニャ!!」
食事が終わるまで、豆まきを禁止されていたトロちゃんは大喜びして
「おにはぁ~そとぉ~」
と原田さんに豆をぶつけているけど
他の三人は違っていた。
「佐之、お前黙っていたから興味がないと思ったら・・・千鶴ちゃんを横から掻っ攫うつもりか?」
「佐之さんの卑怯者。今日は負けないからな」
「他の三人じゃなく、佐之さんが伏兵だったんだね・・・。意外と一くんかと思ったんだけど」
永倉さんはすごく怒ってるし、平助くんは枡ごと投げそうな雰囲気で、沖田さんは刀を抜かんばかりの迫力で
原田さんに迫っている。
「ちょっと待て・・・第一、千鶴ちゃんの気持ちが一番大切だろ?お前ら本当に千鶴ちゃんの唇を奪う気か?」
斎藤さんに聞いていたとはいえ、トロちゃんの勘違いを皆さんが本気にしているとは思っていなかった私は、
皆さんの殺気と原田さんの言葉を聞いて、やっと自分の身の危険を知った。
「そういう佐之さんが一番危ないんじゃない?」
「 お前、最初から千鶴ちゃんに甘かったもんな」
「でも、千鶴は僕のモノだから、佐之さんはあきらめてよね」
「新八!総司!平助!」
今まで黙っていた斎藤さんの一括で、その場がしんと静まり返る。
「確かに佐之の言う通りだ。雪村の気持ちが一番大切だと思う」
斎藤さんらしい、良識のある言葉にほっと胸をなでおろしたのもつかの間
「雪村、お前が懸想しているのは誰だ?」
と問い詰められた。
「斎藤さん?」
「お前の懸想している相手が誰なのか、はっきりとわかれば、佐之の言うとおり皆、諦めるしかない。
しかし、誰かわからなければ、皆の気持ちが治まらないだろう。」
そんな・・・そんなこと言ったって。
「私は・・・」
息をするのもやっと、立つのもやっとで、何が起きているのかよくわからない。
そこへ
「トロ、千鶴ちゃんの大好きな人、知ってるニャ。あのね、あのね・・・」
と、トロちゃんが誰かの名前を口にしようとした。
「やだ、トロちゃんダメ!!」
あわててトロちゃんの口を塞いだ、けど。
「聞かれたくないって事は、この屯所の中の誰かだな」
「聞いたところで、僕の気持ちは変わらないよ」
「千鶴!!ホントかよ、まさか・・・山南さんとか・・・」
「平助・・・どう考えても山南さんは違うだろう」
斎藤さんはまったく悪気なく提案してくれたのはわかる。
わかるけど、この想いはけして伝えてはいけない。
あの人に、今も、これからも、あの人に告げる事はできない。
覚悟を決めて目をギュっと瞑り、トロちゃんを強く抱きしめた
瞬間
「千鶴!!トロを絶対離すなよ!!」
声がしたと同時に、原田さんはトロちゃんごと私を脇に抱えて全力疾走した。
「佐之!!おい!、待て」
あっという間に玄関を飛び出し、暗がりの中を原田さんはひたすら走っている。
「あっ・・は・ら・・・だ・・さ・ん」
「ウニャ~早いのニャー♪」
トロちゃんは楽しそうだけど、私はガクガクしてうまくしゃべれない。
私に加え、トロちゃんまで抱えているのに、原田さんの走る速度は落ちる様子もない。
支える腕ががっしりとしていて、改めて男の人なんだと気がつくと、顔が赤くなってきた。
しかし、揺れがすごくてそれどころじゃないけど。
後ろから聞こえていた永倉さん達の叫び声がまったく聞こえなくなった頃、原田さんの足が止まって
やっと地上に降ろされた。
「ごめんな・・・千鶴ちゃん」
「そんな・・・原田さんは悪くないです。普通はそんな勘違いを本気にしないですし」
「でも、実際に騒ぎにする奴らなんだよな・・・。まぁいつもは俺も含まれているけどな」
原田さんは苦笑しながら、走ってきた方向を見つめる。
「ところで、ここはどこですか?」
ずいぶん走ったから、どの辺なのかもまったく検討がつかない。
「本気で言ってるのか?」
原田さんは笑いながら、近くの木で出来た小さな扉を開ける。
「あっ・・・」
「まさかここに来ているとは、斎藤さえも思わねぇだろうな」
そういって眼下に広がった景色は、土方さんの部屋の前の庭だった。
「屯所に戻って来たんですね」
「そう、まさか飛び出した屯所に戻ってくるとは思わねぇだろうしな」
そう言って、扉の奥に誘導してくれた。
「土方さんの部屋の押入れに隠れてろ。屯所に戻ってきたとしても、土方さんの部屋まで誰も入らねぇ。
しばらくしたら土方さんも戻るし、少しだけ我慢な」
「原田さん、ありがとうございます」
「女は惚れた相手と一緒になるのが一番の幸せだろ?それに一番最初は本当に惚れた相手にとっておくのが
今のお前にとって幸せなんじゃないか?」
そう言われて、顔がかぁーっと赤くなる。
「俺はその時が来るまで、無理に聞き出したりしないから安心しろ」
そう言って、まるで小さい子をあやすように頭をなでて、外に出て行ってしまった。
「うっ・・・原田さん・・・知ってるっぽかった・・・」
そうつぶやきながら、トロちゃんの手を引いて廊下に上がった時
「まさかと思ったけど、本当にここに戻ってくるなんて。やっぱり天は僕の味方をしてくれたのかな」
不敵に笑う沖田さんと遭遇した。
「沖田さん?冗談ですよね?いつもの・・・」
「うん」
「やっぱり」
油断したその時、沖田さんに腕を掴まれて拘束されてしまった。
「うわーん、ちづるちゃ~ん。そーじ!!ちづるちゃんにいじわるしちゃイヤニャ~」
「意地悪?そうだね意地悪なのかな・・・」
「そーじのいじわる~」
そういってトロちゃんはどこかに駆け出してしまった。
「千鶴ちゃん・・・かわいそうに・・・。トロちゃんにまで見捨てられて」
そう言って、沖田さんはさらに意地悪な顔で微笑んだ。
髪を、頬を優しく撫でているが、顔は至って意地悪。
「大丈夫・・・優しくしてあげるから・・・」
後ろの壁に押しつけられて動けない。
もう諦めるしかない。
そう思った時
「そーじのバカ~」
豆がばらばらと撒かれ、トロちゃんが現れた。
後ろには同じく豆の入った枡を持った斎藤さんがいる。
「総司、そろそろ観念しろ」
「やっぱり伏兵は一くんか・・・。予想通りだね」
「俺は最初から騒ぎに参加するつもりはない。ただ雪村の心が決まっているなら、言葉にできると思った故
発言したまでだ」
「一くんも本当は知りたいでしょう?」
「本人が言いたくないなら、時期を待つしかなかろう。トロ・・・豆が切れたな。俺の豆を使うといい」
「はじめ、ありがとニャ。鬼はそーじなのニャ
」
心なしか斎藤さんは相当怒っている感じがする。
今にも抜刀しそうな雰囲気で、ピリピリした空気に身体がすくんでしまう。
「無理やりに雪村をお前のモノにすると言うなら・・・仕方ない。総司、お前を切る」
沖田さんは片腕で私を拘束して、利き腕を刀に手をやった。
「一くんが一番厄介だから敵に回したくなかったんだよね・・・。でもそこまで言うなら・・・僕も斬るよ」
沖田さんの腕の力が一瞬緩み、私はその瞬間前のめりになるように駆け出した。
「トロちゃん!!」
トロちゃんをとっさに抱えて、玄関へ向かう。
トロちゃんの手に持っていた豆がばらばらとこぼれた。
足の裏に豆の感触を感じた瞬間
私は飛んだ
気がした。
ゴチン
トロちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、目の前が真っ暗で、誰かが近づいてきたのもわかるけど
意識が遠のいてしまって、何もわからなくなった。