アナタガソバニイルコトガシアワセ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

あの桜舞う、薄紅色の季節から


白一色の、雪景色の季節へ


貴方は私の側にいるのに


近くて遠い


近くにいるのに、もっと近くにいて欲しい



「はぁ…」


年越しに備えて、掃除は終わった。


お節の準備も出来て、年越し蕎麦の準備も終わった。


後は年が開けるのを待つだけだが、今日何度目かのため息がこぼれた。


「土方さん…まだかなぁ…」


そう呟いてぷるぷると頭を振る。


「お仕事だもの。」


そう自分に言い聞かせる。


あの人はどこにいても人の目をひく。


同性に信頼され、異性の目を惹きつける。


わかっているけど、自分には縁のない白粉の残り香がした時、無性に泣きたくなった。

気を取り直して、葱を刻み始めたけど、指に激痛が走ってまな板に赤い花が散った。

「痛い…」

その場にへたりこんで、指を見る。


傷は深いらしく、赤い液体は止めどなく流れ続ける。


放っておけば、指の傷はすぐに消える。


でも心に芽生えた猜疑心は消える事はない。

「…ふぇ…」

私はなんて贅沢なんだろう。


いつからこんなに贅沢になったのだろう。


土方さんの側にいるだけで、それだけで幸せだと思っていたのに


あの人の心が遠いと感じる事が、こんなに辛いなんて。


「千鶴…?」


声のする方を見上げると、土方さんが立っていた。


急いで入ってきたのか、土方さんの黒髪や漆黒の上着には、まだ雪の結晶が残っている。

「指、切ったのか?見せてみろ」


このくらいの傷は、鬼の一族である私なら、すぐ塞がってしまうのは十分知っているハズなのに、慌てた様子で


私の腕を掴んだ。


近づく彼から香る、白粉の匂い。


堪らず、咄嗟に手を払いのけた。

「なんだ?なにか隠し事か?」


苛立つ気配と大きな声で、身体がビクッと震える。


乱暴に肩を掴まれて、驚きと恐怖で硬直してしまった。


声を出そうとしたけど、言葉は嗚咽になり、反らした目からポロポロと涙が溢れる。

「だって…土方さんが…」


「俺が…なんだ?」


「白粉のいい匂い…させて帰ってくるから」

今度は土方さんの肩がビクッと震えた。


やっぱり…


そうなんだ…


「あのなぁ…」

どんな言い訳も聞きたくなかった。


聞いてしまえば、認めるしかない。


頭を左右に振って、子供の様に駄々を捏ねる自分が情けなくて、顔を上げることが出来ない。

「いいから…よく聞け!!」

乱暴に抱き寄せられて、身動きが取れなくなってしまった。


逃げ出そうともがけばもがくほど、土方さんの腕の力が強くなって、離れられない。


「俺だって…こんな匂いさせて帰りたくねぇ。でもな、今進めてる仕事のお偉いさんの秘書が・・・化粧の厚い女なんだよ。」


土方さんは舌打ちをして続けた。


「毎回商談の時に異様にくっついてくるし、俺だって断りてぇ…。でも今断ったら…全部白紙だ。お前との細やかな生活も…終わっちまう。」

顔を上げると、苦笑いした土方さんの顔があった。

「今の俺には…お前と生きる事が…総てなんだよ…。俺からお前を取り上げたら、もう何も残らねぇ…」

涙で濡れた瞳を土方さんの唇が優しく口づける。

「もう…俺にはお前しか残ってねぇ…。お前を失うわけにはいかねぇんだよ…」

瞼から頬に落ちる口づけが、そっと私の唇に落とされる。


何度も何度も優しく口づけされて


やっと土方さんが近くにいることに気がついた。


なんて自分は浅はかなんだろう。


どうして、この人を信じきれなかったのだろう。

「ごめんなさい」

唇が離れた瞬間に言葉を紡ぐ。

「土方さん、ごめんなさい」

謝っても謝っても、償いきれない。


どんなに償いの言葉を並べても、足りない気がする。


「本当に悪いと思っているのか?」 


土方さんは、何故か意地悪っぽい声で優しく責める。

「はい…」

それにまだ怒っているのか、なんだか怖い…。

「なら聞くぞ。なんで『土方さん』なんだ?」

質問の意味がわからなくてきょとんと見つめ返した。

「土方さん…ですよね?」


「俺が土方なら、お前は誰なんだ?」

誰って…


なんでそんな意地悪言うんだろ?

「確かに忙しくて、祝言も何もしてやってないが、俺たちは夫婦だろうが」

ぼんやりして意味がわからないけど、『夫婦』って言葉を繰り返しているうち、やっと意味がわかって、身体が熱くなってきた。

「それとも、その身体に教えてやった方がいいのか?」

土方さんは、すごく意地悪な口調で耳元で囁いた。


「あっ…えっと…土方さん?」


「土方さんじゃねぇだろ?」


「…」


「千鶴?」


「歳…三…さん…」

やっと絞り出した声は、緊張のあまりに掠れてしまって


「聞こえない」

と意地悪な声が返された。

「う~…歳三さん…」


「千鶴」


「歳三さん…」

繰り返すほど恥ずかしくなって、名前なんか要らないと思ってしまう。


愛する人の名前が、こんなに甘い響きだなんて・・・私は今まで知らなかった。


顔も上げられず俯いていると、急にひょいと抱き上げられた。

「ちょっ…ひじ…あっ…歳三さん?」

驚く私を無視して、歳三さんは寝室の方にずかずかと歩き出した。

「あの…食事の準備…出来てますし」


「いらねぇ」


「いらないって…下ろしてください」


下に降りようと、もがいている内に、布団の上に乱暴に下ろされた。


「あのですね…歳三さん?」


食事取らないと…と言いかけた時、やや乱暴に唇を塞がれた。

「もう…我慢できねぇ」

そう言われた瞬間、布団の上に組ふせられた。

「お前を抱いても、子供を産ませる事も出来ねぇ…なら、抱く資格はないと思って我慢してたが・・・」

そういって私の束ねた髪をほどき、愛おしそうに優しく撫でる。

「そんな顔で名前を呼ばれたら…我慢出来ねぇ・・・」


息をする暇がないほど口づけをされ、唇が首筋に降り、帯に手がかけられた。


びくっと身体が固くなる。


ふぅとため息をついて歳三さんは手を止め、両手で優しく私の顔を包み込んだ。

「俺は・・・俺はお前が欲しい…。千鶴は?」

いつも自信に溢れていて、迷いのない目をしていて、目標を達するために手段は選ばないような人なのに、今は怒られてる事を恐れている、子供みたいな目をしている。

「私は…」

この人がいとおしい。


こんなにもいとおしい人はいない。


「私は…」


震える声を抑えて、自分の気持ちを伝える。

「私も・・・歳三さんが欲しい…です…。私に…歳三さんを…下さい…」

優しくて深い口づけをされて、私はこの人の温もりを確かめる。


羅刹になった今でも、この人はこんなに温かい。


衣擦れの音が部屋に響く。


やがて私はなにも考えられなくなって


ただこの人の体温だけを感じていた。


この人が

この愛しい人が

こんなにも近くにいる事を、私はこの夜に初めて知った。














あとがき


1月11日にとりあえず仕上げていましたが、翌日に別ブログ様にて「名前を呼ぶ」ネタのSSがUPされてしまったーえっ・・・と思い、放置してました。


その内、なおねぇがアメーバでブログを始めたので「読まれるのがはずかしい」ってのがあったんですが、自分ではかなり好きな話になったので、やっぱりUPに踏み切りました。

今回のミッションは、千鶴ちゃんに「歳三さん」って言わせる事です。


佐之さんルートしてた時に「ずるい」って思ってて、


斎藤さんルートでも「一さん」って言わせてるし


みんなズルいよブチッ!!


もう一つは、千鶴ちゃんの気持ちを自分の口ではっきり言うってとこです。


今さら大晦日の話?って感じ何ですが、何でか大晦日の話です(ホント何でだろ?)。


そしてちょっとだけエロぃ感じです。


なぜちょっとだけなのか?


書けないから(テヘ)


後は想像してください。