見えない月  第三話  ~歳三~ | ethlinの煩悩毛だらけ

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煩悩さらけ出し日記

寒いと思ったら、雨が振り出してきた。


火鉢にちらりと目をやるが、今は火を点ける時間も惜しい。


机に向かい筆を走らせる。


新選組が抱えている問題は日に日に多く多くなっていく。


羅刹隊の事、薩長の問題、幕府の事、屯所移転の話・・・。


屯所移転の問題は、自分の中では正直想定内の事だった。ただ、時期が早すぎた


追い出したいとはいえ、西本願寺の方から移転先の手配、支度金の支援は正直有難かった。


大所帯になった今、広い場所が必要だ。


病人と怪我人、健常の隊士、羅刹隊の連中・・・こいつらを分ける事ができる広い場所・・・そして新選組を快く受け入れてくれる場所となれば、国中探しても見つからねぇ。


それに病人の総司を抱えている。


療養の話はもちろん良順先生の口から出た。


当たり前のように総司は反対して、俺自身も頭を縦に振れなかった。


完治する見込みはあるのか、ないのか・・・わからない。


本当は自分は答えを知っているのだろう。


だが・・・認めたくない。口に出してしまえば、認めざるを得ない。


「鬼副長のくせに、怖いんですか」


きっと総司は笑って言うだろう。


「鬼は怖くねぇのに、動けねぇ総司が怖いか・・・」


自嘲の笑みがこぼれた。


そして鬼の問題。


あの風間という鬼、千鶴を嫁にするとかくだらねえ理由でつけ回した挙句、薩長のいざこざでも新選組にちょっかいをかけてきやがる。


千鶴はなぜ自分を助けたのか、なぜ自分を風間に渡さないのか、そう聞いてきた。


確かにあいつを風間に渡しちまえば、正直問題は薩長がらみだけになる。


一度守ると言った女を敵に差し出す、それは武士道に反するだろう。


しかし、本当にそれだけなのか・・?


ここのところ、自分の出した答えに自分自身が首をかしげている。


答えに間違いはない。それは自信を持って言える。


あいつは寝食を共にした仲間だ。


近藤さんもそう言っている。


あいつをここに置いている本当の理由はなんだ?


鋼道さん探しのため・・・


いや・・・鋼道さんの件は、山南さんが研究を引き継いでいる。


もう必要ではない。


『新選組』の存在を知る人間の口封じにのため。


置いて役に立たない存在なら、最初の約束通り切り捨ててもかまわねぇ・・・。


だが、あいつを斬ろうとした山南さんに隊規を守らせておいて、自分が破るのか。


何度この自問自答を繰り返しただろう。


雲に隠れた月は、雲が流れ、空が晴れればいずれは見える。


だがこの答えは、いつまでも晴れる事はない。


「えぇい・・・やめだやめだ」


この考えはどんなに考えても答えが出ない。キリがない。


それよりも今考える事もすることも山ほどある。


一旦置いた筆を持ち直し、筆を走らせた。


「土方さん、千鶴です。今よろしいでしょか?」


突然の来訪者に驚いた。


噂をすればなんとやら・・・か・・・


「入れ」


短く返事をすると、背中越しに千鶴が部屋に入ってくる気配がした。


「なんだ、急用か?悪いが今おまえの相手ができるほど、俺は暇じゃねぇんだ。用件は手短に話せ」


筆を走らせる手を止めず、振り向きもせず言い放つ。


「沖田さんから書状をお預かりしました」


「総司から?」


想定外の名前が出て、さすがに筆を置いた。


千鶴が差し出した書状は厚みのある、重いものだ。


「同じ屯所内にいるなら、口で言え・・・面倒くさい・・・」


悪態をつきながらも、内容が気になってしょうがない。


書状をよこしたということは、人に聞かれたくない内容だからだろう。


「返事が必要ならすぐに持たせる。そこで待ってろ」


千鶴に背を向け、すばやく内容を確認する。中には簡単にまとめられた文面と包みが入っている。


「まさかと思うが、くだらねぇ悪戯のために、使いを寄こしたんじゃねぇだろうな」


包みの内容を確認して、俺は絶句した。


「なんだって、こんなもん・・・こいつを使ってまで寄こす必要があるんだ?」


苛立ちを抑えながら、文に目を通す。文の内容は要領を得ない意味のわからないものだった。


もう一度ゆっくりと目を通す。


それでも意味がわからねぇ。


読めば読むほど苛立ちが募るばかりだ。


「あの・・・土方さん?」


苛立つ様子を見て、不安そうな顔の千鶴が声をかけた。こいつの様子からして、何を持たされたか教えられてないのだろう。


「なんだってこんな時に、性質の悪い悪戯・・・」


そうつぶやき


「千鶴・・・悪いがおまえは総司の・・・」


悪い悪戯に利用されただけだ・・・といいかけた時


もう一度文に目を通した。


総司のよこしたくだらない文を読み返す。何度も・・・何度も読み返した。


その短い文を何度も読み返した。

  

「千鶴」


「はいっ」


「茶・・・持って来い。今晩は冷えるから熱いやつを頼む。二つな」


「はい!!すぐにお持ちします」


飛び出すように部屋を飛び出した千鶴の背中と、総司が寄こした包みを見比べる。


「こんな悪さが思いつくなんざ・・・総司のやつ・・・」


うっすら笑いを浮かべ、来たる客人の座布団を用意する。火鉢に火を入れ、じっと待つ。


じんわりと部屋が暖まり始めた頃、千鶴が戻ってきた。


「失礼します・・・」


そういって部屋に入るが、きょどきょどと瞬きをしたまま立ち尽くしている。


「どうした?入れ」


「はい」


ふすまを閉め、俺の目の前に茶を置いたものの、行き場のないもうひとつの茶の置き場所に困っているようだ。


「座れ」


「はっはい 」


とりあえず盆を置き、部屋の隅に鎮座した。


「そんな端っこに座ってねぇで、ここに座れ。せっかく座布団も用意したのによ」


そういって俺の前の座布団を指差す。


「はっはい」


まるで説教される前の餓鬼みたいな顔をして、そろそろと座る。


「お前が新選組に来て、どのくらい経つ?」


「えっと・・・2年・・・3年くらいでしょうか?」


「そうだな・・・そのくらいだな・・・・・」


そうつぶやきながら、総司の寄こした包みの中を見る。


ふと視界の千鶴が小さく震えていることに気がついた。


「どうした?寒いのか?」


火鉢の様子を見に立ち上がろうとすると、千鶴は畳に顔を伏せ泣き出してしまった。


「土方さん、お願いです。捨てないでください」


「はぁ?」


なに言ってやがるこいつ。


「私・・・なんでもします。足でまといなのはわかってます。でも、私にできることは何でもします。」


口を挟もうにも、すごい勢いでまくし立てる千鶴に圧倒されてなにも言えない。


「新選組の一員にと同じになりたいなんて、そんなおこがましい事思いません。」


「おい・・・とりあえず落ち着け・・・」


「土方さんの小姓なのに、全然役に立たないのはわかってます」


「どうでもいいから・・・落ち着け」


「今度風間さんが襲撃してきたら、自分の身は自分で守れるようにします。だから・・・だから・・・」


「落ち着けってんだろ!!」


びくっと頭を上げた千鶴の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。


「おまえ・・・なんか、勘違いしてないか?」


ため息をつきながら、とりあえず顔をぬぐってやる。


「私・・・沖田さんにだまされたんですよね・・・。いらない子だから斬っちゃえって・・・そう書いてあるんですよね」


そういって机の上の文に目をやる。


はぁ?なに言ってんだ?


「そんなわけねぇだろ!!」


自分でも驚くほどの大きな声だった。


千鶴はびくっと身体を震わせ、さらに泣きそうな顔で俺を見上げる。


「だって・・・土方さん・・・ずっと怖い顔で文を読んでいるし」


それは地顔だろ・・・


「沖田さんの悪戯って言いかけたし」


まあ、間違ってはないな


「長くいても役に立たないのがわかったから、どうにかしようって、今から相談するんですよね?」


確かに役に立ってっかというと・・・まあ・・・なぁ・・・


「とにかく・・・それはおまえの被害妄想だ。」


ため息をついて文を手にする。


「機密文章だから、内容は明かせぇが、おまえが思っているようなことは、これっぽっちも書いてねぇよ。安心しろ」


そういって茶を差し出す。千鶴は黙って口にした。


あれだけ騒ぎ立てた千鶴は、黙りこんでしまった。


雨音と茶を飲む音だけが響いてなんとも居心地が悪い。


佐之助なら、甘い言葉でもかけて慰めてやるんだろうが、生憎そんな言葉は知らねぇし、思いつかない。


ふと机の上の包みを眺め、無愛想な声をかける。


「口・・・開けろ」


「はい?」


やっと切り出した言葉に疑問形で答えられ、ますます居心地が悪い。


「いいから・・・口開けろ 」


つい命令口調で怒鳴る。


「はっはい」


あんぐりと開けた口に、机の上の包みの中を一つまみ、放り込んでやる。


「ん?んん・・・?・・・・・甘い?」


「おまえが総司から預かったモンの正体だ」


そういって包みを机の上に広げた。


「金平糖・・・」


「ったく・・・なに勘違いしてやがる」


「すいませんでした・・・」


「金平糖を食わしてやろうと思えば、急に 『捨てるな』 とかでけぇ声でわめき出すし」


「ごめんなさい・・・」


「役に立たない奴に飯食わせるほど、新選組は余裕なんざ・・・ねえよ・・・


「はい・・・」


「それに、これからいよいよ屯所移転だからな。ただでさえまともな人間が不足しているんだ。雑用、力仕事・・・とにかく目いっぱいこき使ってやるから・・・覚悟しとけ」


「はい」


はにかんだ千鶴の笑顔に、もう一つまみ金平糖を差し出す。


今度は黙って口を開け、金平糖をほおばった。


「おいしいです」


黙って目の前の無力な女を見つめる。


いや・・・無力ではない。


こいつが鬼として目覚めれば、脅威になるだろう。


それだけの力があるはずだ。


鬼としての利用価値もある。羅刹の研究材料としても十分に使える。


だが、それがわかってもこいつに対する価値観が変わらなかったのはなぜだ。


それは・・・弱くて強い、小さなただの女に支えられてきたからだろう。


総司も・・・そして俺も・・・


「総司のおかげで、少しはお月さんも見えてきたか・・・」


千鶴には聞こえないよう小さくつぶやいて、金平糖の包みを千鶴に手渡す。


「残りは全部やる。今日はもう遅い、もう寝ろ」


「わぁ・・・いいんですか?」


「その代わり明日からこき使うからな。覚悟しておけ」


「はい!!」









千鶴を部屋まで送り届けた帰り、廊下から月を見上げた。


月は相変わらず雲に隠れ、空からは大粒の雨が降りしきっている。


この雨がすべてをかき消してしまえばいい。


明日になれば、すべて消えてしまえばいい。


自分の信じる誠の道標を残して、すべて消えてしまえばいい。


自分らしくない、弱気な考えに肩をすくめ


「さて・・・もう一がんばりするか・・・」


そうつぶやいて部屋に戻る。


「だがな・・・」


角を曲がる寸前、千鶴の部屋の方を見つめる


「今日気づいた、このちいせぇ想いは、消しちまうにはもったいねぇな・・」









三話続けて読んでいただいた方、ありがとうございました。


このお話は『土方さんが千鶴ちゃんに金平糖をあーんあーしてあげるをシーンを書きたいために始めました。


それが沖田さんがしゃべりだしたりして、だらだら3話完結にううっ・・・


自分の中では沖田さんがかっこよく書けたと思っている反面、土方さんの存在が薄くなったのでは・・・と心配しておりますえっ・・・


自分の中では楽しー γ(▽´ )ツヾ( `▽)ゞ あっははははー で書きました。


2010年3月7日一部加筆・修正いたしました。