思いがけず明日、いやもう今日だけどお休みになった。
という訳でせっかくのお休みだから映画を観に行こうと思ってたんだけど、もういいや、今日観ちゃおうということでレイトショーだ、ユナイテッドシネマとしまえんにGo!
昨年11月29日に亡くなった山田太一さんの小説「異人たちとの夏」を原作としたイギリス映画。
邦題は「異人たち」だが、原題は“ALL OF US STRANGERS“...私たちはみんな異人? とかそういう意味になるのかな、いずれ正確な意味を調べなきゃだね。
恐らく山田太一さん原作じゃなきゃなかなか観ることもなかっただろうタイプの作品だけどね、烏滸がましいけど改めて追悼という意味も込めて。
原作は恐らく大学生の時に読んだのかな、観る前に久し振りに本棚を探してみると...ちゃんとあったよ。
再読してから観に行けばよかったんだけど、急に思い立って観に行っちゃったもんだから、それはまあ、また今度、ね。
1988年に大林宣彦監督で一度映画化されている「異人たちとの夏」...観たのは大分前だけど、心温まるホラー映画って趣きだったと記憶している。
そうそうその映画の脚本は市川森一...当時山田さんの小説を市川さんが脚色とはなんて贅沢な、と思っていた。
今回の「異人たち」はアンドリュー・ヘイというイギリス人の監督さんによる映画化で、舞台もイギリス、ロンドンになっていて、何より主人公がゲイという思い切った設定になっている。
この監督さん自身がゲイということで、相当な思い入れがあったんだと思うけどね、このゲイという設定が私には最初少し「雑音」だったというのがまず正直なところ。
先日NHKで放送された夜ドラ「作りたい女と食べたい女」のレズビアンのカップルに対してはそういう違和感はなかったんだけどね、ていうか普通の恋愛と同じようにドキドキできたように思ってたんだけど、ゲイとなると...ボーイズラブに女性が抱くドキドキという訳にはいかず、こればっかりはもう、しょうがないとしか、ね。
そのゲイ、まさに男同士のそれなりにえぐいラブシーンがあってね、それを最初に見せつけられた段階ではまさに違和感というか、これはもう私の不寛容さだとか多様性に対する不見識のせいなんだけど、なかなか素直には見られなかった自分が何か申し訳ないような、妙なむず痒さに襲われ、それにただ耐えるしかなかった。
まあでも異性愛であっても「違和感」がないとは限らないわけで、それこそ私の「おじさん」性なんてところを責められると、決して少なくない人にとっては「違和感」どころか生理的に受け付けない、キモいなんて言われる訳でね、もう異性だとか同性だとか、それこそLGBTQ+も含めて、まさに多様性には際限がなくて、受け付ける受け付けないという観点で考える時代でもない気もする。
でもその違和感にも徐々に慣れてきて、ていうかそれ以外、この物語のメインである死んだ両親との邂逅はもうね、原作のエッセンスそのままで、主人公アダムの抱えている「孤独」がまさに自分自身と重なりまくってね、そこはもうグッとくるシーンがとにかく多かった。
大林宣彦版にあったいわゆる昭和ノスタルジーな部分だとか、それこそ日本の夏の風情なんてのはもちろん全く皆無で、両親と会えるアダムの実家だけは何となく「田園風景」っぽさがあったが基本はロンドンの乾いた都会の空気が物語全体を覆っていて、そのあたりはオリジナリティといえばそうなのかも知れない。
にしてもね、自分の「孤独」に改めて気づかされたというか、今でも元気に過ごしている私自身の両親に対する様々な思い、子供の頃のいろいろな思い出が頭の中でグルグル駆け巡ったりしてね、そこはまさに山田太一さんの小説、あるいは大林宣彦監督の映画のエッセンスが見事に換骨奪胎されて凝縮されていた証左だったように思う。
主人公のアダムを演じていたアンドリュー・スコットという役者さん、最初に巡り合ったのは多分あの「007 スペクター」でしかも”C”といういわばヴィランだったので、まずその冷たいイメージがあったんだけど、しばらくして再び出会ったのが「否定と肯定」というホロコースト陰謀論に立ち向かう女性研究者のお話で、確かその主人公を助ける法律家だったかな? ...て、今調べてたらスコット自身もゲイなんだね...なるほどなあ、あの演技はいわば「本物」でもあった訳か。
まさに憂いをたたえていて、この役の抱いている「孤独」を見事に演じていたように思う。
相手役のポール・メスカルという役者さんはどうなんだろうか? ...これはよく分からないが、スコット共々迫真の演技だったように思う。
両親を演じたのはジェイミー・ベルという役者さんとクレア・フォイ...お父さんの役者さんは今調べてみると実はいろいろと出演作を観てて、例えば「ファンタスティック・フォー」にも出てたんだね、ごめんなさい、気付かなかった...お母さんを演じたフォイはそう、あの「ファースト・マン」のアームストロング夫人、ジャネットを熱演したあの人だ。
このいわば”Ghosts”のふたり...大人になった息子がゲイだということを知って、それぞれがショックを受けるというか、古い人間の固定観念駄々洩れで息子を傷つけてしまうんだけど、それでも息子を理解しようと努力する過程も描かれていて、そのあたりはオリジナルにないよさだったように思う。
最近はいわゆるLGBTQ+という言葉が一般的になり、マイノリティに対する理解も深まっていると思うけど、わが国日本はそこはまだまだ後進国...かくいう私もその多様性に対して寛容であろうと努めてはいるけれど、まだまだ理解が足りないなと改めて反省したりして...ゲイ? クィア? いろいろとあってなかなか難しい。
それでもこのアンドリュー・ヘイという監督さん自身もゲイということでこの作品に対する思い入れは、無理解な私にもちゃんと伝わってきたように思う。
あとはね、恋人も両親もいわば「ゴースト」であるということが直接的にはほとんど描かれず、ていうかそこをあえてぼかしていたんだと思うけど、そのあたりは消化不良といえば消化不良...ラストも私的にはどこかきれいすぎるというか、少しあっけに取られたというか、もっとお化けお化けしててもよかったんじゃないかと思ったりして。
山田太一さんの原作も不思議な作品だし、大林宣彦監督の映画もホラー味が多かったので、そういう意味では肩透かしではあったけれど、ラストのエンドクレジット...based on the novel "STRANGERS" by Taichi Yamada を見られたことでどこかホッとしたというか、山田さんの作品を見られたという喜びがあったので、それだけでも何だか満足しちゃったりしてね。
買ったパンフレットを今チラッと覗いてみたら、結構充実した内容のようで、山田さんのお子さんの対談だとか、なんと片岡鶴太郎さんと秋吉久美子さんの対談までも!...じっくり読んでみるとまたこの作品に対する思いも新たにするのかも知れないね。
まあとにかく、急に思い立って観に行ったので、バタバタと取り留めもない感想になってしまったが、まず眠い...風呂に入って寝て、明日また、いろいろと余韻に浸ろうと思う。