昨晩鑑賞した小津安二郎監督の「東京物語」。
見た直後は放心状態で、日記もしどろもどろになってしまった。
それから一晩経って「仕事」からも解放されたので、ようやく気持ちは落ち着いたようだ。
という訳で、改めて感想(のようなもの)をここにしたためてみようと思う。
映画の詳細についてはこちらで。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%89%A9%E8%AA%9E

日本の「家族」そのものが、時には暖かく、時には冷たい目線で描かれている。
尾道に暮らす老夫婦が東京にいる子供たちを訪ねるというプロットだけでも、胸が痛いw。
私自身、広島から東京へ出てきて暮らしているが、いまだに両親を呼んだことがない。
いや、呼べない...その呼べない不甲斐なさのせいで、胸が締め付けられる。

この作品は昭和28年封切りということなので、小津さんにはすでに戦後間もないこの時代に「核家族」というものを描くという先見性があったということだ。
その「核家族」の厳しい現実を逃げることなく真正面から描いている、それだけでも何だかすごいなあ、と。

東京で町医者をしている長男、美容院を営む長女、戦死した次男の未亡人、大阪で鉄道員をしている三男、そして尾道に共に暮らす次女...この5人の対比を絡めながら、まさに「家族」を綴っていくのだが、両親が上京してきたという「事件」に対して、それぞれのキャラクターのさまざまな反応がとても具体性を持っており、それぞれに「善」と「悪」、「表」と「裏」の心理が潜んでいる。
その代わる代わる描かれる「子供の心理」に対して、笠智衆と東山千栄子の老夫婦がひたすら「寛容」で、ひたすら「謙虚」。
その二人が優しければ優しいほど、健気であれば健気であるほど、「子供」の立場である私の「罪」がじわじわ、じわじわと浮き彫りになっていく感覚に襲われた。

私にとっては、題材そのものが、それはもうとてもとても「ズルイ」じゃないか、と思うw。
確か倉本聰さんだったかと思うが「身につまされるドラマがいいドラマ」みたいなことをおっしゃっていた。
この「東京物語」は私にとってまさにそれ。
構成だの、構図だの、あれこれいいたいのは山々だが、そんなことはどうでもいい。
この映画は...「東京物語」なのだ。
それだけだ。

故郷に親を残して東京に暮らしている者にとってはいうまでもないだろうが、親を思う子供、子供を思う親の気持ちが、あらゆる角度からこれほどストレートに出ている作品もあまりないのではないか。
私は今まで映画をたくさん観てきたが、ここ10年くらいで観た中でこの「東京物語」はもっとも衝撃を受けた1本となった。

私は若い頃から小津作品をたくさん観てきた。
記憶にあるだけでも、20作品くらいは観たんじゃないだろうか。
それなのに肝心の「東京物語」を観ていなかったという愚かさに、改めて恥じる。
心から恥じる。

まあでもその恥の多い人生から、またひとつ恥が消えたことを素直に喜ぶべきだろうかw。
またいつか、私の人生が「前」に進んだときに改めて、この「東京物語」を観ようと思う。
昔焼いたDVD-Rか、ハイビジョン放送か、はたまたBlu-rayか...いずれにしても、きっと必ず、また観よう...そう思う。