さくじろうとセツ子 人間とトマトの恋が実るはずもなく
あまりにも呆気ない結末を迎えた

彼がふと冷蔵庫を開けた時 セツ子の姿はなかった
無くなっていたのは
それだけではなかった 胡瓜やニラ 人参といった彼の財産と言えるものはすべて無くなっていた


彼は呆然とした後
セツ子の名前を叫びながら泣いた




再び沈黙した後ゆっくりと空中を見上げた彼の眼には雲ひとつない青空が広がっていた





さくじろうは気付いていた



頭ではなく心で理解していた



『セツ子は野菜コーナーの中に存在し続ける』



買い物に出掛けた彼を止めるものはいなかった。