昨年11月半ばに母と一緒にエジプト旅行をした。
ちょうど気候がよくなる時期で、旅行シーズンに突入したエジプト。折りしも日本のお正月とお盆を合わせたような「犠牲祭」というホリデーシーズンに当たって、なんだかエジプト中がお祭り気分。
町中に人があふれ、深夜まであちこちで休日を楽しむ人たちで賑わっていた。水が悪かったり、遺跡観光が多くて、砂漠へ出かけたり、歩くところが多かったり。けっこう疲れたり、体調を崩したりしたものの、人々は優しいし、景色はエキゾチックだし、本当に忘れられない旅となった。
帰国して1週間後にエジプトでは国会議員の選挙があった。そのとき政府は野党関係者を1200人も拘束したなどというニュースを見て、穏やかじゃないナーとちょっと悪い予感がした。
お正月が来て、私たちが最高級ホテルで夢見ごこちの一夜を過ごしたアレキサンドリアで、爆弾テロがあって死者が出た。それから、アフリカの周囲の国で政変が起こった影響を受けて、がたがたがたと、エジプトの治安が悪化してしまった。
昨日100万人行進が行われたカイロ中心部のタハリール広場。エジプト考古学博物館の前にある広場で、私が訪ねた時は、車や人が行きかう、どこにでもある広場だった。

エジプト考古学博物館に暴徒が進入し、ミイラを壊したと聞いてびっくり。このミイラ室は入場料とは別料金で入る特別室。そこに有名なファラオのミイラが8体ほど展示してあった。
どのファラオのミイラが壊されたんだろう。5000年の時を静かに身にまとってガラスケースの中で眠り続けるミイラたち。このときまで存在していたファラオが、こうした不測のごたごたで、消滅してしまったという取り返しのつかない事実。
その後、エジプト考古学博物館は心ある人々が取り囲み、人間のチェーンで守られていると聞いて、ちょっと安心。一時の激昂で、ふたつとない歴史の至宝が破壊されるという蛮行は、あまりにも悲しい。
昨日、この同じ広場を埋め尽くしたエジプトの多くの人々。

(朝日新聞掲載写真=撮影・越田省吾氏)
富や権力が偏って、ついに声をあげたたくさんの人々。旅をしていても、貧富の差の激しさにびっくりすることはしばしばだった。
そんなエジプトの、恵まれた側面の中だけを旅していた私たち。持つものと持たざるものの違いを肌身に感じながら、大名旅行をする先進国からの観光客。
さまざまな格差や差別。そんな中でも湧きあがる希望や夢。袖すりあったたくさんのエジプトの人たちのまぶしい笑顔。
みんなが、笑顔でいられますように、みんなの夢や希望がかないますように。この変革が、平和裏に進みますように。
エジプトのニュースを見るたびに、かの地に降り注ぐ日差しのまぶしさや、吹き抜ける乾いた風が、胸の奥でぐるぐると渦を巻いて湧き上がってくる。