前日の夕焼けを見ていたとき、空に重くのしかかる黒雲が気になっていた。気象情報だと無人島3日目は午後から天気が崩れる予定。
それでも、夜の空は晴れ渡り、満天の星が輝いた。最初の夜にビュービュー吹いていた夜の風もない。波間には夜光虫が輝き、夜空の星と競演している。
前夜の明け方、ものすごい天の川が空にかかっていたとsea man。天の川なんて、ここのところ見たことがない。絶対起こして天の川を見せて欲しいとsea manに頼んで2日目の夜はテントに入ったのだった。
寝よう寝ようと思うのだが、だんだん風が吹き始めて、それが気になって寝付けない。早くに天気が崩れたら島から出れないかも。
うとうとしているうちに風は強風になり、テントが傾き始めた。風が吹き付けるたびに、テントが体の上に倒れてくる。娘はテントにつぶされそうになりながら寝ている。まずい。これはしっかり重石にならなければと、風の吹いてくる方向に身を寄せて、自慢(?)の体重でテントを守ることに。
やがて、風はますますひどくなり、一人用テントは飛ばされたらしい。その騒ぎ声が聞こえて外に出ると、どんよりと鉛色の雲が頭上に重たくのしかかっていた。もうsea manのテントは撤収されていて、荷造りが始まっていた。
朝の挨拶もそこそこに、みんなで手際よくテントをたたみ、コンロや鍋釜をまとめ、どんどんシーカヤックに詰め込んでいく。雨が降り出すのは時間の問題。海は昨日までとは打って変わって、大きなうねりがざぶんざぶんと波打ち際まで押し寄せてきていた。荒天が半日前倒しでやってきたのだ。
「潮が止まる瞬間があるんだけど、その潮止まりを待ってカヤックを出すから」とsea man。厳しい顔をして海を見ていたsea manが、無人島を脱出するタイミングを図ってる。
カヤックには人の乗る場所に穴が開いているのだが、波を被るとその穴にどんどん水が入ってきて船が沈してしまう。なので、波の荒いときにはスカートと呼ばれるカバーをつけて漕いでいくのだ。そのスカートをつけるようにsea manに言われた。つまり海上でカヤックは波を被るということ。


ライフジャケットの下に、ビローンと垂れ下がっている黒いものがスカート。乗り込んでから、これを乗り口にぴったりかぶせて、波の侵入を防ぐのだ。
穏やかな海でしかシーカヤックを漕いだことがなかったので、その一言だけでも緊張してしまう。緊張と初体験のちょっとワクワクするような高揚感。もちろん、荒れた海は怖いのだけど、sea manが船を出すというのだから、私たちにも乗り切れるにちがいないという信頼感がベースにある。


船に乗る組み合わせを指示されて、タイミングを見てビーチから漕ぎ出していく。浮かんだとたん、すぐさまうねりに流されて、思うような方向に進めない。


私とダンナのカヤックはどんどん沖に流されて、大きなうねりの中に入っていってしまった。うねりが来るたびに高く持ち上げられて、それから落ちていくジェットコースター状態。乗り口をカバーしたスカートの上には、波がざばんざばんと流れていく。スカートをつけてなければ、間違いなく水が入って沈していただろうなー。
遠くから「そっちじゃなくて、こっちに漕いできて!」とsea manの声。もちろん、そっちに行きたいのはやまやまなんだけど、勝手に流されちゃうのよね・・・などとあせって思いながらも、パドルを逆漕ぎしたりして修正を図る私たち。
うねりに乗り上げるたびに「大丈夫だから!大丈夫!大丈夫!」というsea manの声が聞こえてくる。その励ましを聞きながら、以前、子どもとスキーに行って、思いがけず急斜面に差し掛かり、怖いとべそをかく子どたちを「大丈夫!ママと一緒に滑ればちゃんと降りられるからね」と励ましながら、なんとかゲレンデを下りたのを、うねりにもまれている現場で思い出した。きっとsea manの励ましは、あの時の私と同じだなーなんて。
そんなこんなで、何とか大きなうねりの場所から抜け出し、sea manのもとへ戻ることができた。こうしてようやく皆で固まって、風の当たらない島影を選びながら帰路に着いたのだ。


島影だといいながらも、やはりうねりは押し寄せてきて、あんなに青かった海は、黒々と恐ろしげに息巻いている。小雨も降り出して、空はいよいよ暗い。
「ここから右には根があるから行かないように」「そこより左は流れがきついからこっちに戻ってきて」「波に乗り上げてからは漕がないように」。次々とsea manの指示が飛ぶ。一見平坦な海面に見えても、下の深さや岩場の様子、海流の道など、複雑な状況が絡み合っているのが海の恐ろしさ。
だけど、この楽園の自然の一部のような、そう、まるでポセイドンの末裔のようなsea manがいるから、私たちも落ち着いて漕いで行くことが出来た。うねりのひどいところでは余裕がなくて写真どころではなかった。なので写真を撮影したのは(ダンナが)、うねりが落ち着いた場所に差しかかったときだけ。今となっては、あの襲い掛かってくるような大きなうねりの写真を撮ればよかったと、ちょっと残念。
写真の場所では、ウミガメいないかなーとか、イルカが泳いでくればいいのになんて、のんきなことを考えたりもしていた。荒天の方が、そうした生き物が見られるんじゃないかななんて。それに、10日前ぐらいに、sea manがまだ残っていたザトウクジラを見たらしいのだ。
とにかく朝6時ぐらいから活躍して、何とか出発した島に辿り着いたのが朝8時半ごろ。起きぬけの大冒険はひとまず一段落したのだった。
予約してあった宿に入り、ウオッシュレットのトイレを使い、暖かい温水シャワーで思い切りシャンプーして、そのあと海見えの露天風呂へどぼん。小雨が時々降っているけど、そんなことお構いなし。文明の快適さを存分に享受して、ああ幸せ~。
あとで、sea manに私たち連れて帰ってくるの大変だったんじゃない?と聞くと、自分だけなら全く平気なんだけど、ほか2艇背負っていると思うと気を使ったのだとか。やはり、命を預かる仕事は半端ではない。
で、「それにしても、すごい嵐だったわね」と聞くと「まぁ、たいしたことない」んだとか。うねりだけならまだましで、このうねりの先端に白波がたちはじめると危ないのだそうだ。もし白波がたっていたら無人島で待機ということになったらしい。
やれやれ、無人島キャンプの幕引きに、こんな大冒険が用意されていたなんて。神様もなかなかやるなー。