△当確が出て笑顔を見せる郡候補

任期満了に伴う仙台市長選は7月9日に告示され、無所属の新人4人が立候補した。前衆院議員の郡和子(60)、冠婚葬祭会社「清月記」社長の菅原裕典(57)、前衆院議員の林宙紀(39)、前衆院議員の大久保三代(40)という面々だ。4人中3人が衆院議員経験者というハイレベル(?)な選挙。ただ、事実上は郡と菅原の一騎打ちで、林と大久保の2人はオリンピック的な戦い(参加することに意義がある)をしいられた。
今回の選挙は、国政の与野党対決の構図がそのまま持ち込まれた。郡を擁立したのは民進党県連で、社民党も支援し、共産党と自由党が支持した。一方、菅原を擁立したのは自民党県連で、公明党も支援し、地元経済団体が支持した。共に政党色を薄める戦術をとったが、選挙戦の後半は違いが出てきた。安倍政権への風当たりが強まったことを受けて、郡陣営は民進党の国会議員を相次いで応援に呼び寄せた。これに対して、菅原陣営は自民党の支援を受けていないかのような体裁をとった。

△商店街にある郡陣営の選挙事務所

自民党に代わって前面に出たのは、知事の村井嘉浩だ。もともと菅原と親しい関係にあり、現職の奥山恵美子が引退を表明した直後に「次は経済界から候補者が出てもいい」と口にした。具体名は出さなかったが、菅原の名前が念頭にあったのは明らか。自民党県連が菅原でまとまったのも、村井が後ろ楯になったからだ。選挙戦では知名度の低い菅原のために、マイクを何度も握った。
意外だったのは、引退する奥山が菅原支持を表明したことだ。奥山は2009年の市長選で初当選。このとき、旧民主党(現民進党)と社民党の支援を受けた。その関係で、民進党衆院議員の郡とは親しい関係にあり、福祉や教育を重視するという姿勢も似かよっていた。ところが、奥山市政に批判的な共産党が郡を支持したため、それに反発して菅原に加勢することにしたという。第三者にとっては理解しがたい理屈である。

△司会・進行役の鎌田県議

私は仙台市民ではないので投票権はないが、誰が当選するのか興味はあった。投開票は23日。この日はたまたま村田町(仙台市の隣)のスポーツランドSUGOでスーパーGT第4戦が行われた。SPコーナーのスタンドでタイサンサードのアウディR8FUKUSHIMAを応援。レース終了後、「せっかく村田町まで来たのだから…」と思い、その足で仙台市まで足を伸ばしてみることにした。
午後8時に仙台市に到着。郡が当選すると予想していた私は、迷うことなくその選挙事務所がある青葉区一番町に向かった。だいたいの場所は事前に調べておいた。商店街の一角、三越仙台店の南側で「郡和子選挙事務所」という看板を発見。ビルの一階で、間口はあまり広くなかった。ただ、中に入ると奥行きがあり、すでに100人ぐらいの支持者が椅子に座っていた。

△NHKの出口調査。青が郡、赤が菅原

事務所には2つのテレビが設置してあった。選挙特番を視聴するためで、向かって左側が民放用、右側がNHK用だった。午後8時台はどちらも特番を放送しておらず、テレビの画面に注目している支持者はほとんど居なかった。
司会・進行役の鎌田さゆり(宮城県議、元衆院議員)が正面のステージに現れ、マイクのテストを始めた。続いて、支持者に次のようなルールを告知した。
「NHKさんが(郡の)当確を出したら、万歳をします。民放さんが先に当確を出したときは、万歳の準備をするということにします」
「万歳をするときは、皆さん、立ち上がらないでください。立ち上がると、(事務所の後方に並んだ)テレビカメラが候補者を撮影できなくなります。テレビを見ている皆さんとも当選の喜びを共有したいので、座ったままでお願いします」

△してやったりの安住衆院議員(中央)

事務所に最初の歓声が上がったのは、鎌田が午後8時現在の推定投票率を発表したときだ。44・80%。投票前は40%前後と見られていたので、5ポイントほど高かったことになる。投票率が上昇すれば郡が有利になるという読みがあったので、支持者は大喜びしたのだ。
次に歓声が上がったのは午後8時49分ごろだった。NHKがニュースの枠で出口調査の結果を発表したからだ。これによると、菅原より郡に投票した有権者の方が多かったという。具体的な数字までは公表しなかったが、棒グラフの長さからすると、5ポイントぐらいの差ではないかと見られた。

△郡候補が登場した瞬間の選挙事務所

午後9時台になると民放の特番が始まり、出口調査の結果が発表された。NHKと同様、郡がトップだったので、事務所内には「イケる!」というムードが漂った。ただ、アナウンサーが「遅くても明日未明には当落が判明する模様です」とレポートすると、ため息がもれた。事務所内では「そんなに接戦なのか」「いや、『遅くても』だから…」というひそひそ話が交わされた。
午後10時過ぎに3度目の歓声が上がった。NHK「サタデースポーツ」が楽天対オリックスの映像を流したからだ。9回裏、2-2の場面で楽天のアマダーが右中間スタンドにサヨナラ本塁打を放った場面。デーゲームなので結果はすでに知っているはずだが、立ち上がって拍手する人もいた。アマダーは前日の試合で3打席連続本塁打を記録しており、2試合連続でヒーローになった。

△万歳三唱する郡候補

郡陣営が勝利を確信したのは午後10時10分台のことである。東日本放送・朝日新聞社とNHKが相次いで郡当確を打ったからだ。司会の鎌田が「NHKさんも当確を出しました!」と絶叫すると、支持者は歓声を上げ、一斉に拍手した。
別の場所で待機していた安住淳衆院議員(民進党県連代表)、櫻井充参院議員らが事務所に現れ、正面のステージに並んだ。安住はしてやったりの表情。櫻井は顔を紅潮させていた。最後に主役の郡が登場し、ステージの中央に立った。それに合わせて数人の支援者が立ち上がろうとすると、すかさず「最初に『立つな』と言っただろ!」という声が飛んだ。その数人は慌てて腰を下ろした。

△民放用のテレビには菅原候補が…

郡は花束を受け取り、満面の笑みを浮かべた。続いて、支持者と一緒に万歳三唱。ステージ上の郡らは立っていたが、支持者はルール通り座ったままだった。
この後、共同インタビューが始まった。郡にマイクや録音機を差し出す記者たち。音声は事務所内に流されなかったので、支持者は郡が何を言っているのか分からなかった。
そのとき、民放用のテレビには菅原の顔が映し出されていた。事務所内では音声が消されていたので話の内容は不明だが、敗戦の弁を述べていることは容易に想像がついた。落選を覚悟していたのか、その顔に悲壮感はなかった。

7月2日投開票の東京都議選(定数127)は、小池百合子知事率いる都民ファーストが圧勝した。現有6議席を49議席に伸ばし、追加公認を含めて55議席となった。初の選挙で都議会の第一党に躍り出たのだ。その煽りを受けたのが、これまで第一党だった自民党だ。現有57議席が23議席に激減。過去最低の38議席(2009年)も下回る歴史的な惨敗で、同じ23議席の公明党と共に都議会第二党になった。
この結果について、民進党の江田憲司衆院議員(神奈川8区)は、ツイッターで次のようにつぶやいた。
〈私の旧来の持論だが、政治の浮沈はワイドショーで決まる。今回、大幅に内閣支持率が落ち、特に女性の支持率が落ちているのはこの要因が大きい。昔、私はレギュラーコメンテーターを務めていた〉
〈各局で朝から夕方まで続くワイドショーはまるで判で押したように同じ話題をこれでもかというように取り上げ、視聴者に「刷り込み」を行う。事前談合などはなく、前日の分刻みで出る視聴率折れ線グラフで高い話題を取り上げると結果的にそうなるのだ〉
〈今回の都議選自民党惨敗や支持率低下は、「豊田罵詈雑言問題」や「稲田自衛隊利用発言」等々をこれでもかと連日取り上げたことが大きい。今や影響力があるのは「活字」(新聞)ではなく「画像」(テレビ)なのだ〉
この指摘に対しては「女性を見下した発言だ」「ワイドショーを盲信するほど国民はバカじゃない」という批判が噴出した。有権者はワイドショーに洗脳されて、誰に投票するかを決めているわけではないというのだ。一方で、江田の指摘に賛同する人もいるため、ネット上で議論がヒートアップしている。江田本人はこの議論から距離を置き、我関せずという態度をとっている。

私はテレビを見ない(テレビ自体がない)ので、ワイドショーが都議選をどう伝えたのか、よく分からない。ただ、小池百合子を都議選の主役に位置づけ、「小池VSその他大勢」という構図をつくり上げたであろうことは容易に想像できる。2005年の「小泉郵政選挙」がそうだったからだ。
小泉郵政選挙のとき、テレビは「小泉VSその他大勢」という構図をつくり上げた。小泉純一郎は抵抗勢力に一人で立ち向かう信念の男という感じになった。その過程で、郵政民営化に賛成する者は善玉、反対する者は悪玉というイメージが確立した。結果は小泉率いる自民党が圧勝。小泉の主張が支持された形だが、郵政民営化が何であるかを理解した上で自民党に投票した有権者は、10人に1人も居ないだろう。

テレビは選挙やスポーツ中継になると、「主役VSその他大勢」という構図をつくりたがる。物事を単純化すれば視聴者が分かりやすいし、視聴率を稼げるからだ。20世紀のプロ野球中継がその典型である。あれは、江田が口にした「刷り込み」そのものだった。
20世紀のプロ野球中継は「巨人対その他大勢」という構図になっていた。プロ野球は12球団で構成されているのに、テレビ中継されるのは巨人戦ばかりだった。だから、プロ野球ファンと称する人の大半は巨人ファンだった。地元に球団があればともかく、そうでない地域…例えば北海道や東北ではプロ野球イコール巨人という状態だった。

1993年にスタートしたJリーグは、プロ野球を反面教師に位置づけた。「巨人」をつくらない方針をとったのだ。テレビの放映権はリーグが一括して管理し、各クラブの試合が平等にテレビ中継されるようにした。特定クラブだけがテレビに露出するという事態を避けたのだ。
当時のJリーグは、週2回の割合で試合を行っていた(主に水曜と土曜)。水曜はヴェルディ川崎VSガンバ大阪、土曜は鹿島アントラーズVS横浜マリノスが中継された。スター選手が揃っていたヴェルディ川崎はやや優遇されていた面もあるが、それでも毎試合のように中継されることはなかった。

その結果、どうなったのか? 初年度は高い視聴率を記録したが、2年目以降は急落し、そのうちテレビ中継がほとんどなくなった。ブームが終了したからと言われたが、「主役VSその他大勢」という構図をつくらなかったので、視聴者が数年で離れた面もある。テレビはこういう構図をつくらないと、視聴者の目を引き付けることができないのだ。
テレビドラマには必ず主役が存在する。主役が存在しないドラマは、焦点がはっきりしないので、視聴者はストーリーが分かりづらい。スポーツ中継もまた、主役を明確にしないと、視聴率が伸びない。プロレスでは力道山、大相撲では大鵬、キックボクシングでは沢村忠がその役を担い、ブームを巻き起こした。

その手法が、今は選挙にも及んでいる。テレビ局は「主役VSその他大勢」という構図をつくって、選挙を取り上げている。ワイドショーは、特にその傾向が強い。全ての候補者を平等に取り上げていたら、主役がはっきりしないドラマのようになって、視聴者は面白くない。視聴率も稼げない。
今はテレビを通じて政治を見聞きしている有権者が多い。普段から政治に関心を持ち、政治家や政治家志望者の話を聞いている人は少ない。特に東京のような都会はそうだ。テレビを見て誰に投票するかを決めるので、必然的に主役扱いされた人(またはその政党の候補)に投票することになる。小泉郵政選挙で自民党、今回の都議選で都民ファーストが大勝したのは、テレビが風を吹かせたからだ。

都議選の投票率は51・28%だった。そのうちの2割が風の影響を受けただけでも、投票結果は前回と全く違ったものになる。この2割は、棄権した有権者を含めれば、全有権者の1割に相当する。つまり、全有権者の1割が動けば、選挙結果は大きく変わるのだ。
江田は「政治の浮沈はワイドショーで決まる」と指摘した。その通りだと思う。公明党と共産党が都議選で健闘したのは、ワイドショーの影響を受けにくいコアな支持者がいるからだ。

自民党は反自民という逆風を浴びた。公明党(創価学会)の支援を受けなかったことも響いた。毎日新聞(7月6日付)と読売新聞(7月9日付)の試算によると、公明党と選挙協力していれば、12議席を上積みできた可能性があるという。安倍晋三首相(自民党総裁)と二階俊博幹事長は「公明党抜きで勝利するいい機会」と強気だったが、それは根拠のない自信にすぎなかった。
民進党は現有7議席が5議席に減少した。反自民の受け皿が民進党ではなく、都民ファーストになったからだ。東京の民進党は、自党に風が吹かないと、こういう結果になる。コアな支持者が少ないということだ。

【写真】都議選で風を吹かせた小池百合子知事=2016年11月2日、福島県庁前で開かれた五輪関連のイベントで





6月17日に沖縄県で行われた「第9回AKB48選抜総選挙」開票イベントで、NMB48の須藤凛々花(20)が結婚宣言をした。3万1779票を獲得して20位にランクインし、スピーチで謝意を表したあと、「初めて人を好きになりました。私、NMB48須藤凜々花は結婚します。私はいつでも本気です。初めて、こんなに好きになれる人に出会いました」と強調。司会の徳光和夫が「今ご自身が何を話しているか、分かる? 真剣なんだよね?」と真偽を確認すると、須藤は「すごく、すごく迷惑を掛けることも分かっているんですけど、自分に皆さんにもウソをつきたくない」と回答した。この行動に対して賛否両論の意見が噴出し、ネット上で議論になっている。

須藤の結婚宣言は功罪の両面がある。
功は、良くも悪くもAKB48(関連グループ含む・以下同)や総選挙に対する注目度を高めたことだ。須藤本人も知名度を一気に高め、いまや「時の人」になった。これを広告費に換算したら、数十億円単位になるだろう。マンネリぎみだった開票イベントに新風を吹き込む効果もあった。
罪は、ファンを裏切ったことだ。AKB48は恋愛禁止が暗黙のルールになっている。須藤はそのルールを破り、恋愛を楽しんでいた。しかも、その事実を隠した上で、総選挙では自分への投票を呼び掛けていた。そのまま隠し通せば何の問題もなかったが、週刊文春に彼とのお泊まり愛をキャッチされ、目算が狂った。逃げ場を失った須藤は、開票イベントで結婚宣言。21日の記者会見では「(NMB48からの)卒業を考えている」と語った。

須藤の行為は、会社で言えば粉飾決算に相当する。A電機が株主総会で「今期、弊社の売上高は前期比で10%増、純利益は5%増の増収増益になりました」と説明。株主Bは「業績が好調だから、株価は上がりそうだ」と判断し、A電機の株を大量に購入した。ところが、その説明はデタラメで、A電機は海外子会社の巨額損失を隠蔽していた。それが発覚した直後に株価は暴落。多額の損失を被ったBは怒り狂い、A電機に約1億1000万円の損害賠償を求める訴訟を起こした…。

須藤は会社ではないので、損害賠償を求めても相手にされないだろうし、訴訟をしても勝ち目は薄い。ただ、ファンは騙されたという感情を抑えることができないのだろう。ネットでは「金返せ!」という書き込みも散見される。
その気持ちは分からないでもない。ファンは、須藤が芸能界で活躍する姿を思い浮かべながら、投票したはずだ。総選挙で上位に食い込めば、人気があると判断され、仕事が増える。バラエティー番組に呼ばれたり、ドラマに出演できる。写真集も出るかもしれない。ファンは須藤の将来性に投資(投票)したのだ。
ところが、ふたを開けてみたら、全く逆のことが起きた。アイドルが結婚すれば商品価値が下落するので、芸能界で活躍するのは困難になる。将来性がなくなるので、投票にかかった費用をドブに捨てたことになる。何より、ファン自身が須藤を応援しようとは思わなくなる。人妻では疑似恋愛の対象になりにくいからだ。

須藤に投票した人々は今後、どういった対応をとるのか。①AKB48の別のメンバーを推しメンにする②AKB48に見切りをつけ、別のアイドルにくら替えする③アイドルのファンそのものをやめる―の3パターンが考えられる。もちろん、須藤ファンを続ける人がいるかもしれないが、数としては少ないだろう。

①は、今後もAKB48商法のカモであり続けるということだ。これだけの仕打ちをされても離れられないというのは、もはやAKB48依存症だ。ギャンブル依存症と同じ。こういうファンに対しては、小川直也(元柔道家・プロレスラー)のセリフを借りて言いたい。「AKB48ファンのみなさま、目を覚ましてください」と(笑)。
こんなことを言うと、「自分が稼いだ金を何に使おうと自由だ!」と反論するファンもいるだろう。それは自由だ。だから、それを止めることはできないが、賢明な金の使い方だとは思えない。

須藤の結婚宣言に懲りて、一気に③を選択する人もいるかもしれない。「高い授業料を払って人生の勉強をした」と言いながら…。この境地に達したら、その後は有意義な人生を送れると思う。
AKB48商法のデタラメさに気づいたものの、アイドルからは離れられないという人は、②が落としどころになる。世の中にはたくさんのアイドルが存在する。ご当地アイドルや地下アイドルは、AKB48よりファンとの距離が近い。オフ会や撮影会を開催しているアイドルもいる。タニマチ気分を味わいたいのであれば、こちらに投資した方がはるかに効率的だ。

※写真は「週刊文春」6月29日号の記事