△ファンにあいさつするホープスの選手

ルートインBCリーグの福島ホープスを運営する福島県民球団(扇谷富幸社長)は2018年、経営難が表面化した。シーズン開幕前は「途中でチームが解散するのでは?」という見方もあったが、何とかシーズン終了まで持ちこたえた。
ただ、財務状況が改善されたわけではないので、経営難に陥っていることに変わりはない。多額の負債を抱えたままでは健全な運営ができないので、岩村明憲監督(39)は新会社を設立して、ホープスの運営を担おうとしている。県民球団の株主でもある福島民報(11月17日付)によれば、新チームの名称は「福島レッドホープス」になるという。

△Tシャツにサインする生島大輔

岩村は21日夜(20時~)、郡山市八山田の球団事務所で記者会見を開く。弁護士2人が同席する。翌22日に四国ILリーグplusとBCリーグの合同ドラフトがあるので、その前に球団の新体制について発表しておきたいと考えたのだろう。岩村はこの席で「2019年シーズンに参戦できる態勢を整えたので、ドラフト候補のみなさん、よろしく」とアピールをする可能性が高い。
ホープスにとって、22日のドラフトは重要な意味を持つ。2018年のシーズン終了後、選手14人の退団が決まったからだ。チームの半数がいなくなったことになる。しかも、これまでの主力選手が一気にいなくなった。岡下大将と久岐志衣磨の2人も退団。これにより、2015年のリーグ参戦1年目から在籍し続けた選手は、岩村を除くとゼロになった。ドラフトではその穴を埋める選手を獲得しなければならない。

△茨城Gゴールズから入団した荒竜司

もちろん、弁護士が同席するので、話はそれだけにとどまらない。連絡がとれていなかった扇谷富幸球団社長とは弁護士を通じて、どんなやり取りをしていたのか。扇谷はチームの運営権を新会社に譲渡したのか。球団の負債はトータルでいくらか。2018年シーズンは、誰が球団運営の主体になったのか。新会社の社長は岩村が就くのか。球団社長と球団代表と監督の3役を兼任するのか。運営費を確保する見通しはついたのか。BCリーグ側は、2019年シーズンの参戦を認めたのか。……記者会見では、これらについても明らかにされるだろう。

△岩村監督の座右の銘は「何苦楚魂」

レッドホープスの参戦をBCリーグ側が認めたと仮定しよう。その場合は大きな山を越えたことになるが、観客動員が現状のままでは、いずれ次の山がやってくる。再び経営難に陥るということだ。
観客動員をいかに増やすか-。レッドホープスの課題は、これに尽きる。観客動員が好調なら、スポンサーもつきやすい。球団の収入が増えれば、試合会場を楽しい雰囲気に演出することもできる。いい方向に話が転がっていく。
BCリーグはサラリーキャップ制をとっている。選手の総年俸は3105万円が上限なので、球団の収入に関わらず、それを超えることはできない。ただ、寮を完備したり、選手に食事を無料で提供したり、ユニフォームのクリーニング代を球団が負担するなどの環境整備を図ることはできる。

△試合会場で販売されているグッズ類

ホープスはなぜ、観客動員が低迷したのか。最も大きな理由は、選手が県民に知られていなかったことだろう。その選手がどこの出身で、どんな球歴を歩んできたか-などは球団ホームページで公表されている。データ的なことはそれでいいとしても、人間的なことが分からないと、感情移入がしづらい。
BCリーグの選手の多くは、野球の非エリートコースを歩んできた。「名門校の控え」「無名校のレギュラー選手」というタイプだ。高校時代に甲子園で名前を売った選手は皆無に等しい。コアな野球ファンでもなければ、名前も顔も知らない選手ばかりである。そういう選手を何人も入団させて「さあ、県民のみなさん、応援してください」と煽っても、感情移入するのは難しい。

△得点が入って歓喜する応援団の人々

BCリーグは試合後、選手とファンの交流会が開催される。ファンはその時間を利用して選手にサインをもらったり、一緒に記念写真ができる。もちろん、選手に話を聞くこともできる。サインをもらう代わりに、飲食物などを差し入れするファンもいる。
この交流会に何度も参加すれば、選手の名前と顔を覚えて、感情移入がしやすくなる。ただ、野球場に足を向けさせること自体が難しい。統計的なデータはないが、県民の95%以上はホープスの試合を観戦した経験がないのではないか。

△選手に向かって手を振る応援団の団長

しかも、BCリーグは選手の入れ代わりが激しい。同じ球団に3年在籍した選手は、周りに「あんたも長いね」と言われるようになる。選手の入れ代わりが激しいと、ファンはそのたびに1から名前と顔を覚えなければならない。そのうち覚えるのが面倒になり、野球場から距離を置くというパターンに陥りやすい。
人間的なことが分かれば、少しは選手に感情移入がしやすくなる。なぜ野球を始めたのか。中学時代は軟式だったのか、硬式だったのか。NPBのドラフトで指名されることを目標にしているのか。
NPBの選手であれば、そうしたことはマスコミが勝手に報道してくれる。しかし、BCリーグの選手はそうではない。球団自らが情報を発信しないと、選手はいつまで経っても無名のままだ。ファン層も広がらない。

△試合後にある選手とファンの交流会

BCリーグは、オフシーズン(約半年)がやけに長いと感じる。これはシーズン(約半年)自体が短いこともあるが、それだけが原因ではない。シーズンがNPBより遅く開幕し、NPBより早く閉幕するので、オフシーズンが実体以上に長く感じるのだ。
もう一つ、オフシーズンになると、球団の情報発信が疎かになる。選手がアルバイトをしているので、発信する情報自体が少ないのは確か。ただ、情報がないと、ファンも興味を持ち続けるのが難しくなる。試合のないときほど情報発信に力を入れるべきなのだが、現状はそうなっていない。

△試合を盛り上げるチアリーダーたち

福島ホープスは2015年にBCリーグに参戦し、これまで4シーズンを戦った。本来であれば時間の経過とともにファン層が拡大していなければならないが、逆に狭まっているような印象を受ける。長いオフシーズン中に熱が冷めて、ファンをやめる人が多いからだ。
選手の入れ代わりも激しいので、贔屓選手の退団と同時にファンをやめるというパターンもある。ファンをつなぎ止めるためは、繰り返しになるが、オフシーズンの情報発信が重要になる。

【文と写真】角田保弘