△現場近くの道路に並ぶ消防自動車

4月28日の夕方、福島市三河北町で火事があった。JR福島駅西口から 北に400㍍ほど進んだ住宅街で、ポリテクセンター福島(福島職業能力開発促進センター)の南側にあたる。東北新幹線の高架橋との距離は約50㍍なので、車内からも現場が見えたはずだ。
私はたまたま近くを歩いていて、上空に舞い上がる黒い煙を目撃。そのうち消防自動車のサイレンが聞こえてきたので、火事だと判断し、急いで煙の方向に走った。現場で写真を撮り、目撃者の話も聞いたので、その内容をレポートする。

火災に遭ったのは4階建てのマンションだ。築30年の物件だが、10年ほど前に外壁を塗り直したので、その割に新しく見える。1階が駐車場、2~4階が居住部分になっている。12世帯が入っており、建物の北側壁面に階段がついている。消防署の発表によると、火事が発生したのは午後5時39分、鎮火したのは52分だった。

△煙が立ち込めるマンションの1階

私が現場に到着したのは午後5時49分だった。マンションの周りは細い道路しかないので、数台の消防自動車は20㍍ほど離れた大きな道路に停まっていた。大きな道路とマンションの間は空き地(駐車場)になっていたので、ホースを敷設するのは容易だった。
その時点で煙の勢いは衰えており、「鎮火しつつあるな…」という印象を持った。煙は見えたが、火は見えなかった。マンションが焼けた形跡はなく、何が燃えたのかは分からなかった。
マンションにグッと近づいてみると、1階の駐車場から煙が出ていることが分かった。北側壁面の階段付近だ。ただ、煙の出所の手前に軽自動車があったので、何が燃えていたのかまでは分からなかった。

このマンションは南側にベランダがあり、そこから顔を出している入居者が計5人いた。2階に2人(別々の世帯)、3階に3人(お母さんと子ども2人)。階段付近から煙が出たので、地上に降りられなくなったのだ。
午後5時51分、消防署員4人が東西2グループに分かれて、2階にハシゴをかけた。2人がハシゴを使って2階に上がり、2人が地上でそれを支えた。2階に取り残された2人はともに若者だったので、ハシゴを使って地上に降りた。

△マンションに取り残された入居者

3階は高低差がありすぎるので、ハシゴをかけるのは難しい。しかも、取り残された3人のうち、子ども2人は5歳以下と見られる。ハシゴを使って地上に降りるのは不可能だ。ハシゴ車がマンションに近づくこともできない。このため、この3人は煙の勢いが完全になくなった5時56分ごろ、階段を使って地上に降りた。
マンションの東隣に駐車場があり、救急隊員がそこにブルーシートを敷いた。地上に降りた人々はそこで手当てを受けた。煙を吸い込んで気分が悪くなった人もいたが、命には別状がなかった。
3階にいたお母さんは、つけていたマスクが真っ黒になっていた。煙の勢いを物語る光景だ。子ども2人も同じ場所にいたので、地上に降りるまでは心臓がバクバクしたと思う。

火事を発見して、消防署に連絡したのは、近くを歩いていた女性だった。若い男性2人も火事に気づき、消化にあたった。
「1階駐車場にあったタイヤが燃えていました。タイヤの数は1ダース(12本)くらいだったでしょうか。2組に分かれて置いてあったものが同時に燃えていたので、放火だと思いました。何とか消そうとしましたが、ダメでした」
マンション4階の入居者は、こんな話をしている。
「午後5時半ごろ、近くのヨークベニマル野田店に買い物に行こうとして、外に出たんです。階段を下っているとき、隣の家の庭から煙が上がっているのを見ました。庭はブロク塀で囲ってあるので、何が燃えているのかは分かりませんでした。木が燃えているような臭いがしたので、たき火でもしたのかなと思いました。人の気配はありませんでした。大して気にかけず、そのままベニマルに行きました。買い物をして戻ってきたら、この騒ぎです」
別の住民は「バーンバーン」と何かが弾けるような音を聞いたという。

△ハシゴで救助に向かう消防隊員

翌29日付の地元紙によれば、燃えたのは階段の下にあったタイヤだったという。数は12本。出火の原因は不明で、不審火として調べているという。
4階の入居者は前述したように、隣の家の庭から煙が上がっていたと証言した。その煙が今回の火事と関係があるのかないのか…については、現段階では分からない。隣の家はブロック塀で囲まれていたこともあり、延焼を免れた。

私が火事の現場を目撃したのは、これで何回目だろうか。最も印象に残っているのは、福島市南沢又で起きたアパート火災だ。もう20年近く前のことである。
そのとき、私は福島市泉にいた。夕方、北西側を見ると、煙が上がっていたので、火事だと思い、その方向に走った。1・5㌔㍍ほど走り、ようやく現場に着いた。2階建てのアパートの一室から火が出ており、消防署員たちが懸命に消化作業にあたっていた。

△救急隊員に手当てを受ける入居者

そのとき、大声を出している中年 男がいた。建設作業員の服装をしていて、意味不明の言葉を口にしていた。最初は「自分の住んでいるアパートが火事になったので、心配のあまり大声を出しているのかな?」と思った。
ところが、実際は逆だった。この男がアパートに放火し、火事を引き起こしたのだ。
男は勤務先の建設会社が借りたアパートの一室に1人で住んでいた。会社の仕事や待遇に不満があり、むしゃくしゃして部屋に放火した。その火が広がり、アパートがほぼ全焼する火事になったのだ。消防署に連絡したのも、この男だった。放火なので、男は警察に逮捕された。

「地震雷火事おやじ」という言葉がある。怖いものの代名詞だが、このうち「おやじ」は「大山嵐(おおやまじ)=台風」を意味するという説がある。大山嵐がなまって、おやじになったというのだ。ただ、その説を検証し始めると収拾がつかなくなるので、ここでは台風ではなく、おやじということにする。
地震は2011年3月11日に経験した。1000年に1度の大地震だとすると、あれだけの揺れを経験することはもうないだろう。雷は外遊びをしていた小中学生時代によく遭遇した。おやじはいくら怖くても、命をとることはない(最近は幼児を虐待する父親もいるが…)。

△出火場所の階段付近(30日撮影)

地震と雷は天災だが、火事の多くは人災である。チョロチョロとした火が燃え広がり、風に煽られて大火になる。タバコの火の不始末が大火につながった例もある。
戦後の大火は能代市(秋田県)=2回=、大館市(同)、鳥取市、新潟市、魚津市(富山県)、酒田市(山形県)、糸魚川市(新潟県)など日本海側の都市が目立つ。日本海側は山から海へ乾いた風が吹き下ろす「フェーン現象」が起きるため、大火が発生しやすいと言われている。

私は火事の現場を目撃したことはあるが、自分自身が火事の原因をつくったり、被害者の立場になったことはない。タバコを吸わないので、喫煙者に比べると、火事の原因をつくる可能性は少ないと思う。ただ、タバコの火以外が火事の原因になることもあるので、気を抜くことはできない。今回の火事を他人事と捉えず、「明日は我が身」という言葉を肝に命じながら生活したい。

【文と写真】角田保弘