
2013年6月21日、郡山市の開成山野球場でプロ野球パ・リーグ公式戦「東北楽天×福岡ソフトバンク」の7回戦が開催された。先発は、楽天が則本昴大、ソフトバンクが攝津正。どちらもエース級なので、試合前は投手戦になると予想された。しかし、ふたを開けてみると、則本の調子が上がらず、序盤からランナーを出し続けた。1回は何とか無得点に抑えたが、2回に2点を失った。ボールが先行し、苦し紛れにストライクを取りに行く状態。投球の間隔も長くなった。球場全体がイライラしたところで、3塁側内野席にいた60歳ぐらいの男性がヤジを飛ばした。
「何しとんねん! プロのくせに、ストライクもようとれんのか? ダラダラせーへんと、早よ投げんかい!」
一字一句は正確に覚えていないが、こんなニュアンスだったと思う。
地方球場はプロ野球観戦に慣れていない観客が多いので、ヤジは少ない。場所は東北の郡山。そこで関西弁のヤジが飛んだので、周りの観客は一斉にその男性の方を見た。男性は気にする素振りも見せず、その後も試合の合間にヤジを飛ばし続けた。
郡山になぜ、関西弁の人がいたのか。除染か何かの仕事で来ていたのか、それともある程度の年齢になって移り住んだのか。それは分からないが、私はそのとき思った。
「野球には、やはり関西弁のヤジがマッチするな…」
男性のヤジは、ダレた試合を少しだけ引き締める効果があった(試合は13-2でソフトバンクが勝利)。
日本における野球のメッカはどこか? こんな質問をされたら、10人中9人は「関西」と回答するのではないか。中でも大阪・兵庫を挙げる人が多いはずだ。その象徴がプロ野球・阪神の本拠地であり、春と夏に高校生の試合が開催される甲子園球場だ。収容人員は約4万8000人で、国内の野球場では最大。ちなみに、阪神ファンのダンカン(たけし軍団)は、長男の名前をそのものズバリ「甲子園」とした。
関西は少年野球も盛んだ。ボーイズリーグ(硬式野球)も関西が発祥の地。設立を主導したのは、南海監督の鶴岡一人だ。実力がある関西の選手は、全国各地の高校にスカウトされる。昔は「関西の高校でレギュラーになれない選手が、レベルの低い東北などの高校に進学する」と言われた。しかし、今は違う。施設や指導者などを考慮し、あえて東北などの高校に進学する選手が目立つ。その中からダルビッシュ有(大阪出身、宮城・東北)、田中将大(兵庫出身、北海道・駒大苫小牧)、坂本勇人(兵庫出身、青森・光星学院)らが出てきた。東北の高校が甲子園で勝ち上がるようになったのは、野球留学生と地元出身者が切磋琢磨し、競技レベルが向上したからだ。
『にっぽんベースボール人国記―わが故郷のヒーローを探せ!』(ベースボールマガジン社)=2015年1月29日発刊=というムック本がある。編集部が「都道府県別のベスト9」を独自に選出するという内容で、現役だけでなく、引退した選手も対象になった。いわばオールタイムのベスト9で、「大阪ドリームチーム」は次のような編成(打順・ポジション)になった。
①福本豊(中)=元阪急
②松井稼頭央(遊)=楽天など
③中村紀洋(三)=前横浜DeNAなど
④清原和博(一)=元西武など
⑤土井正博(左)=元西武など
⑥立浪和義(二)=元中日
⑦矢野燿大(捕)=元阪神など
⑧新井宏昌(右)=元近鉄など
⑨野茂英雄(投)=元近鉄など
矢野、野茂以外の7人は2000本安打の達成者だ(松井、中村は日米通算)。野茂は日米通算で201勝を達成した。
投手は、他に桑田真澄(元巨人など)、ダルビッシュ有(レンジャースなど)、黒田博樹(広島など)、上原浩治(レッドソックスなど)、尾崎行雄(元東映など)、足立光宏(元阪急)がいる。野手は、他に高田繁(元巨人)、田尾安志(元中日など)、岡田彰布(元阪神など)がいる。
都道府県対抗で試合をしたら、大阪の優勝は確実だ。先発メンバーだけなら長嶋茂雄(元巨人)らがいる千葉、王貞治(同)らがいる東京、古田敦也(元ヤクルト)らがいる兵庫も有力だが、控え投手の層の厚さを考えると、大阪が飛び抜けている。編集部は「大阪にハンディを課さないと、勝負にならない」と論評している。
バットやグローブの製造で知られる国内スポーツ用品メーカーは、その大半が大阪に本社を構えている。ミズノ、ゼット、エスエスケー、デサント、久保田運動具店、ハタケヤマ、ザナックス、ハイゴールド…。アシックスも関西(神戸)に本社がある。こうなると、もはや野球用品→関西だ。関西以外にも野球用品を製造している会社はあるはずだが、ネットで検索する気も起こらない。
プロ野球に参入する会社の経営者も関西出身者が多い。近年ではダイエーの中内功(大阪出身)、オリックスの宮内義彦(神戸出身)、楽天の三木谷浩史(神戸出身)、DeNAの春田真(大阪出身、奈良育ち)。会社を大きくしたり、知名度を上げたいと思ったとき、関西出身の経営者はプロ野球に目をつける傾向がある。
野球のヤジはなぜ、関西弁がマッチするのか。それは以上に述べてきたことが積み重なって、野球=関西というイメージが定着したからだと思う。関西弁の威圧的な響きが拍車をかけている。
前楽天監督の星野仙一は在任中、マスコミを通じて、観客によく苦言を呈した。
「東北のファンは大人しすぎる。選手が変なプレーをしたら、どんどんヤジらないと…。ファンが選手を育てるんだ」
星野が監督を務めた4年間で、コボスタ宮城でもかなりヤジが飛ぶようになった。それでも阪神にいた星野は物足りなく感じるらしい。退任するまで同じことを言い続けた。
今年は福島にも野球チームができた。ルートインBCリーグへの参入が決まった「福島ホープス」だ。監督は前ヤクルトの岩村明憲とあって、開幕前から話題になっている。ただ、ゼロから作ったチームなので、今季は苦戦する公算が強い。
新規参入するのはファンも同じ。応援の手法が確立していないので、淡々とした姿勢で観戦するファンが少なくないはずだ。それでは球場に足を運んだ意味がない。声と手拍子で応援し、ときおり関西弁、いや福島弁でヤジを飛ばして試合を盛り上げたい。
【写真の説明】
▽BCリーグの開幕戦「福島×新潟」が予定されている開成山野球場