任期満了に伴う福島県知事選は10月26日に投開票が行われ、前副知事の内堀雅雄が元宮古市長の熊坂義裕ら5人に大差をつけ、初当選した。投票率は、過去2番目に低い45.85%だった。
各候補の得票数は次の通り。
当490,384  内堀 雅雄
 129,455  熊坂 義裕  
  29,763  井戸川克隆
  25,516  金子 芳尚 
  24,669  伊関 明子 
  17,669  五十嵐義隆 
内堀は自民、民主、公明、維新、社民の支援を受け、組織力で他の5人を圧倒した。無党派層にも食い込み、各市町村からまんべんなく集票した。対抗馬の熊坂は共産と新党改革の支援を受けただけなので、組織力が脆弱だった。そのハンディを補うため、「脱原発」と「県政刷新」を訴えたが、及ばなかった。

今回は、原発事故後に初めて行われた知事選だった。このため、原発の是非が争点になると言われていたが、実際はさっぱりだった。6候補とも「県内10基の原発はすべて廃炉」という見解を打ち出したからだ。違いがなければ、争点にならない。
ただ、県外の原発については見解が分かれた。有力2候補のうち、内堀は「それは地元の人が考えるべき問題」、熊坂は「県外の原発も廃炉にすべき」という立場をとった。このため、反原発派の著名人が熊坂支援に乗り出したが、さほど効果はなかった。
いや、効果がなかったどころか、逆効果だったかもしれない。反原発派の中には福島の放射線被害を過大に見せようとする人がいる。原発事故の悲惨さを強調することで、安倍政権が進める原発の再稼働を阻止しようという目論見だ。本人たちは自覚していないようだが、それが風評被害を煽っているのは事実だ。

福島を旅行したカンニング竹山は、ツイッターで「福島の野菜を買った」とつぶやいただけで、集中砲火を浴びた。雁屋哲原作の漫画『美味しんぼ』は「鼻血」論争を巻き起こした。室井佑月は週刊朝日で「子どもたちを原発事故のあった福島へ修学旅行に行かせるな」と主張した。こうしたことが繰り返されたことで、県内に反原発派を敵視する風潮が生まれた。
井戸川の立候補も、熊坂にとってはマイナス要因になった。井戸川は原発事故後、放射線の被害をやたらと強調するようになった。『美味しんぼ』では「福島では同じ症状(鼻血、疲労感)の人が大勢いますよ。言わないだけです」と発言した。反原発派と連携する場面も増えた。熊坂は井戸川ほど過激な思想の持ち主ではないが、方向性は同じだ。井戸川をマイルドにしたのが熊坂…。そういうイメージが広がったことで、「脱原発」というスローガンが空回りした。

「県政刷新」というスローガンも浸透しなかった。現職・佐藤雄平に対する県民の評価が意外と高かったからだ。
佐藤は原発事故後、「スピード感がない」「発信力がない」「リーダーシップがない」などと批判された。自民党県連会長の岩城光英が佐藤の目の前で「佐藤知事の取り組みには敬意を表するが、わが党は秋の知事に独自候補を擁立する」と宣戦布告したのも、そうした不満があったからだ。
しかし、佐藤は任期満了の直前、大きな仕事をやり遂げた。除染で出た汚染土壌を保管する中間貯蔵施設の受け入れを決めたのだ。建設予定地の大熊、双葉両町にそれを認めさせたと言うべきか。加えて政府から3010億円の交付金を引っ張り出したため、佐藤への評価が一気に高まった。
その佐藤を副知事として支えたのが内堀だ。佐藤は3選出馬を見送り、事実上、内堀を後継者に指名した。これに伴い、「佐藤から内堀にバトンタッチされるなら、それでいいじゃないか」というムードが形成された。

県内では2013年、現職市長が相次いで落選した。郡山市、いわき市、福島市、二本松市…。その背景には復興が進まないことに対する市民の怒りがあった。同時に2012年12月の衆院選の影響もあった。自民党が民主党から政権を奪い返した選挙だ。国政で政権が交代したので、各市でも市長を代えようという気運が高まった。
今回の選挙は政権交代から時間が経過したので、そうした空気は薄れた。市長の交代で怒りが収まり、知事選に持ち越さなかったという人もいただろう。「市長を代えても復興が加速することはない」という現実も目にした。その結果、「刷新」という言葉が求心力を失ったのだ。

2013年に現職市長が相次いで落選したときは、現職に対するネガティブキャンペーンが展開された。郡山市長の原正夫は「孫を県外に避難させた」と噂された。市議会では駒崎ゆき子がそういう質問をして、騒ぎになった(議事録から削除)。いわき市長の渡辺敬夫は「福島空港から韓国に避難しようとした」とネットに何度も書き込みされた。福島市長の瀬戸孝則は「避難先の山形市(または米沢市)からクルマで福島市に通勤している」と言われた。神戸大大学院教授の山内知也(放射線計測学)が大阪市での講演会で「福島市長は山形市に住んでいる。公用車で毎日福島市に通っています」と発言したため、瀬戸は謝罪を要求した(山内が瀬戸に謝罪したが、噂は消えなかった)。二本松市長の三保恵一は怪文書で「知人女性にストーカー行為をしている」と書かれた。これらは各現職に大きなダメージを与えた。
今回の選挙では、内堀に対してネガティブキャンペーンが展開された。ネットで「妻と娘を埼玉に避難させた」という噂を流されたのだ。2013年の再現だが、今回はダメージが少なかった。副知事は市長に比べて、遠い存在である。だから、県民は私生活に興味を持ちづらかった。噂に対する「免疫」がついたという事情もあった。

※写真の説明(上から)
・福島県の新しい舵取り役になった内堀前副知事
・内堀事務所の為書き。佐藤雄平福島県知事、阿倍守一長野県知事(総務省出身)、その下に山田啓二京都府知事(総務省出身、全国知事会長)のものが…
・内堀陣営の選挙カー。投票日には早くもこの状態
・選挙事務所に張り出される「当選御礼」の紙
・選挙事務所に掲げられたくす玉