ラジオ福島は毎週土曜、「大人の部活プロジェクト」という2時間番組を放送している。パーソナリティはフリーアナウンサーの渡邊美香(元ラジオ福島)。福島県内で活動しているミュージシャンをゲストに招き、音楽について熱く語り合おうという内容だ。10月11日放送のテーマは「てつうた・鉄道SONG」。10月14日の「鉄道の日」に合わせたもので、ゲストは牛坂好孝・由紀子夫妻とshimvaの計3人だった。
牛坂夫妻は、福島でアマチュアバンドとして活動している。音楽に対する知識が豊富なので、この番組に呼ばれる機会が多い。一方のshimvaは福島を活動の拠点にするシンガーソングライター。エベレスト登頂を目指すなすびの応援歌『リチャレンジ~ 最高峰の夢を~』を制作した(本ブログ2014年6月29日付参照)。番組ではフォークギターを弾きながら、『放浪カラス』を熱唱した。
生歌のほか、「鉄道SONG」として7~8曲がかかった。リスナーのリクエストに応えたのは1曲だけで、あとは番組側が選曲した。その中で、私が知っていたのは、大瀧詠一『さらばシベリア鉄道』、マイペース『東京』、井上陽水『東へ西へ』の3曲。あとの4~5曲は耳慣れないものだったので、タイトルを忘れてしまった。その場でタイトルをメモしておけばよかったと後悔した。

『東京』と『東へ西へ』は、私の愛唱歌だ。古い曲だが、いまだによく口ずさむ。少年時代に覚えたものは、体が記憶しているのだろう。方言が体に馴染んでいるのと同じことだ。
『東京』は1974年にリリースされ、大ヒットした。作詞作曲は森田貢(秋田県出身)。地方在住の男性と東京在住の女性の遠距離恋愛をモチーフにしている。私は東京に行くとき、小山(栃木県)をすぎると、この曲の歌詞が頭に浮かぶ。「東京へはもう何度も行きましたね 君が住む 美し都」。当時は高速交通網が今ほど整備されていなかったので、地方と東京の時間的な距離が遠かった。それが、この曲に説得力をもたらした。
『東へ西へ』は、1972年にリリースされた陽水のセカンドアルバム「センチメンタル」に収録された。作詞作曲は陽水。編曲は星勝。私は中学時代、ギターでこの曲を何度も弾いた。イントロの、あの乾いた音を出すためにはどうすればいいのか? 試行錯誤を繰り返した末にたどり着いた結論は「ピックを弦にぶつけるように弾く」だった。ストロークといえども、単純に弾いてはならないと教えてくれた曲だった。

この番組を聴いているうち、自分ならどんな選曲をするだろうかと考えた。『東京』と『東へ西へ』は、私も選曲するかもしれない。陽水の鉄道SONGと言えば、もう1つ、『ロンドン急行』を忘れてはならない。作詞作曲は陽水。『東へ西へ』は歌詞に鉄道が出てくるが、それよりサビの「がんばれ みんながんばれ」の方が印象に残る。一種の励ましSONGだ。これに対して、『ロンドン急行』は、そのものズバリの鉄道SONGだ。2012年のロンドン五輪の際は、ラジオでこの曲を何度か耳にした。
中島みゆき『ホームにて』も外せない。作詞作曲は中島。味気ないタイトルだが、歌詞は複雑だ。「ふるさとに向かう最終に 乗れる人は急ぎなさいと やさしいやさしい声の駅長が 街なかに叫ぶ」。駅長自らがこんなことをするのは、田舎の駅しかない。発車するのは「ふるさとに向かう最終」だから、ストレートに解釈すれば、田舎から田舎に移動する人の話になる。…いや、そうではあるまい。この曲は鉄道SONGを装っているが、本質は癒しの曲だ。そんなに頑張らないで、もっと楽に生きなさいと言いたいのではないか。

かぐや姫『なごり雪』も挙げたい。作詞作曲は伊勢正三。歌詞に「東京で見る雪はこれが最後ねと 寂しそうにつぶやく」とあるので、舞台は東京となる。ただ、朝日新聞「うたの旅人」2009年3月21日付によると、正やんは故郷・大分県津久見市にあるJR日豊線津久見駅のホームをイメージして、歌詞を書いたという。
後に津久見駅の発車メロディとなり、駅構内に記念碑が設置された。そこには正やんの「ホームと言えば 心の奥深く いつもこの景色があるのです」というメッセージが刻まれた。一般的にはイルカの曲というイメージが強い。
野口五郎『私鉄沿線』も鉄道SONGの範疇に入る。作詞は山上路夫、作曲は佐藤寛(野口の実兄)。この曲については、本ブログ2014年6月3日付で長々と述べた。私鉄沿線の駅前には、たいがいアーケード付きの商店街がある。人間関係が希薄な都会の中で、駅前商店街は地域コミュニティの核になっている。祭りの舞台になるのも駅前商店街だ。山上はそこに焦点を当てて、この歌詞を書いたのではないか…。私はそう解釈した。山上自身は「特定の場所をイメージしたわけではない」と語っている。

海援隊『思えば遠くへ来たもんだ』は、鉄道SONGの名曲だと思う。作詞は武田鉄矢、作曲は山木康世(ふきのとう)。『母に捧げるバラード』で世に出た海援隊は、コミカルなイメージがついていた。ヒット曲が出ずに苦しんだ時期もある。『あんたが大将』が少しヒットしたものの、これもコミックソングの部類に入る。その状況を変えたのが、『思えば遠くへ来たもんだ』。この曲で海援隊(武田)は、真面目な曲も歌えることを証明した。同名の映画やドラマも制作された。私は福島市から200㌔以上離れた場所に行くと、この曲を歌いたくなる。

鉄道会社のコマーシャルに使用されて、人々の記憶に残っている曲もある。これも大きな意味では鉄道SONGだ。
代表例は山下達郎『クリマスイブ』。作詞作曲は山下で、1988年末にJR東海のコマーシャルに使用された。ホームで恋人を待っていた深津絵里が、ムーンウオークで現れた彼とじゃれあう…。朝日新聞「うたの旅人」2009年12月19日付によると、このコマーシャルは、①東海道新幹線をピーアールする②会社の知名度やイメージをアップさせる③民営化直後でアイデンティティーに悩む社員の士気を高める―の3つの狙いがあったという。その効果は予想以上で、JR東海は1989年春の人気就職ランキングで1位になった。
一方、JR東日本は1992年に幻想的なコマーシャルを制作した。山形新幹線の開業をピーアールするためで、実在の駅長が沿線の人々と一緒に登場した。BGMとして使用されたのは、井上陽水『結詞(むすびことば)』。作詞作曲は陽水。曲が流れたあと、「その先の日本へ JR東日本がお連れします」というナレーションが入った。このコマーシャルに影響を受けた私は、すぐさま山形県に足を運んだ。

鉄道SONGは、人生をイメージさせるものが多い。人生を長い旅に重ね合わせて、話(歌詞)を展開させるというパターンだ。そこに恋愛が絡むと、別れの歌になる。走り出す列車の乗客とホームに立ち尽くす人。ハッピーエンドになる鉄道SONGもあるとは思うが、私自身はピンと来ない。
…以上、鉄道SONGについて書いてきたが、あなたなら、どんな選曲をするだろうか。
なお、JRグループと私鉄各社は10月12日、主要な駅で「鉄道の日」のイベントを開催した。

※写真の説明(上から)
・JR石巻線(宮城県)を走るマンガッタンライナー
・JR黒磯駅(栃木県)のホームにて
・乗客で賑わう京成日暮里駅(東京都)
・JR只見線(福島県)の踏切近くに咲くコスモス
・JR米沢駅(山形県)に停車する山形新幹線の新型車両「とれいゆ」