
日本青年会議所(JC)東北地区福島ブロック協議会が主催した福島県知事選の公開討論会(10月2日開催)。〇×方式の意思表示に続いて、産業政策が議題になった。立候補予定者6人のうち、前副知事の内堀雅雄は「農林水産業の風評被害を払拭し、トップブランドを育てる。観光にも力を入れる。医療機器産業やロボット産業の集積も図りたい」と強調した。
このあと、自由討論に移行した。立候補予定者が別の立候補予定者を名指しして、質問するという試みだ。JCは8年前の知事選でも公開討論会を開いたが、自由討論はなかった。議論を深めるためには効果的な試みであるが、ふたを開けてみると、特定の人物に質問が集中する形になった。
井戸川克隆「内堀さんにお聞きしたい。観光に力を入れるという話だが、放射線量が高い福島に来ると、被曝させて帰してしまうことになる。県独自の対策はあるのか」
内堀「避難指示区域を除けば、県内は安心して住める場所だと思っている。だから、観光に来る人に問題が出るという認識はない」
熊坂義裕「内堀さんに質問がある。夢のある政策に聞こえるが、放射線の災害を収めないと、復興はないと思う。原発事故をどうするか。これを解決しないと、どうにもならない」
内堀「原発事故が起きた福島は、他の46都道府県と違う。国と対峙しながら、原子力災害を克服していく。その中で、産業の振興も図っていく」
金子芳尚「私も内堀さんに。ロボット産業や医療機器というのは夢のある政策だが、県民の共感を得られるのだろうか。地元が『こういうのをやりたい』というのが本当なのではないか」
内堀「医療機器産業はこの10年間、県内で新規参入が相次いでいる。福島の産業になりつつある。それを振興することは、地場産業の育成につながる。郡山市に事業所がある『サイバーダイン』という会社は、人の機能を補助するシステムを開発している」
伊関明子「内堀さんに質問がある。県庁や杉妻会館(県庁の南側にある宿泊・宴会施設)は除染が遅れているという話を耳にした。どうなっているのか」
内堀「県庁エリアも福島市の除染計画に合わせてやっている。敷地が広いので、県と福島市が話し合って計画をつくった。今、ちょうど除染作業がスタートしたところだ」
五十嵐義隆「申し訳ないが、私も内堀さんにお聞きしたい。県民の間に政治・行政への不信感がある。税金を使ってやった事業の責任や評価、それはどうなされてきたのか」
内堀「地方公共団体は、知事が予算を議会に提案し、本会議や各委員会で審議してもらう。原案通りということもあるし、修正がかかることもある。予算の執行は知事がやり、その評価は決算審査特別委員会が行う」
井戸川「県内で子どもを生活させるのは人権無視ではないのか。県外に避難させるべきだ。疲れて(勉強やスポーツを)やる気がしないという話をよく聞く。震災の年に(市町村対抗)駅伝をやったことに対して危機感を抱いた」
内堀「平成23~24年はプールで体育の授業ができないということはあった」
熊坂「県は、国にどういう姿勢をとっているのか」
内堀「(佐藤)雄平知事もそうだが、国や東電とは激しくやり合っている。相手には『あなたはハードネゴシエーターだ』と言われる。国が原発事故で『収束』という言葉を使ったときや、森林除染をやるかどうかが議論になったときは大臣と大喧嘩をした。陰ではやっている」
伊関「『今の福島はいいところだからおいで』とは言えない。どうしようもないという事実がある」
金子「今の社会は総無責任体制になっている。政治家は課題を先送りしているだけ。政治家がサラリーマン化している。責任をとっているのは中小企業の社長ぐらいじゃないのかな。連帯保証人としての役割を銀行に求められる。マイナスのニュースばかりでは暗くなるので、明るい話もしたい。県庁所在地の見直しを提案したい。福島県の将来を考えると、県庁を移転した方がよい。首都機能の移転も議論すべきだ。原発事故でマイナスになった福島県のイメージをプラスに転換しなければならない」
内堀「知事になったら、オープンな場で国や東電と議論したい。副知事の立場ではできない」
公開討論会に出席した6人は、いずれも新人である。ただ、内堀は副知事として8年間、知事の佐藤雄平を支えてきた。これまで県政を外部から見ていた他の5人とは明らかに立場が違う。
この5人は、佐藤県政に多かれ少なかれ不満がある。満足していれば、供託金300万円の没取というリスクを覚悟してまで立候補するはずがない。佐藤は引退を表明し、その代わりとして内堀が出てきた。だから、5人の質問が内堀に集中したのだ。「質問」は「不満」という言葉に言い換えてもいいだろう。
立候補予定者6人の中で、支援態勢が最も整っているのは内堀だ。その次が熊坂。公開討論会で、2人の政策の違いが明確になった。県内10基の原発を廃炉にすべきという主張は全く同じ。ただ、熊坂は隣県の柏崎刈羽、女川、東海の3原発も廃炉にすべきと訴えている。内堀は他県の原発には口出ししないという立場をとっている。
これに関連して、朝日新聞10月8日付にこんな記事が載った。
《福島県で「脱原発」が正面から問われない現実に、熊坂氏を推す「脱原発弁護団全国連絡会」共同代表の河合弘之氏は「『福島の原発さえなくなればいい』というのは地域エゴではないか。最大の被害者こそ、最大の声を上げるべきだ。候補者には『日本の脱原発』を打ち出してほしい」と言い切る。
一方、一地方選で国政上の重要課題をどこまで問うべきかについては異論もある。
原発事故の健康影響調査のあり方を県に助言している清水修二・福島大特任教授(地方財政論)は「全国の原発をどうするかは、国や全国の人が考えるべき問題だ。被災地だけに日本の原発政策のあり方を背負わせるのはお門違いだ」と主張する》
清水は原発推進派ではない。むしろ、その逆で、事故の発生前から「原発は地域振興につながらない」「日本社会に格差がなければ原発は成り立たない」と主張してきた。そういう学者であっても、河合の訴えには同調できないらしい。
もう1つ、放射線についての考え方の違いも明確になった。内堀は「避難指示区域以外は健康に影響が出るレベルではない」という認識を持っている。一方、医師の熊坂は「影響が出るか出ないかは断定できないので、検査態勢を充実させる必要がある」という認識を持っている。内堀に対しては、県外に避難した人々から「認識が甘すぎる」という声が出るだろう。熊坂に対しては、農業や観光に関係する人々から「風評被害を招く」という声が出るだろう。
万人を納得させる名案がない中で、有権者は両者の政策(認識)の違いをどう判断するのか…。全国注視の福島県知事選は10月9日に告示された。

※写真の説明(上から)
・公開討論会で顔を並べた熊坂、金子、内堀の各立候補予定者(左から)
・知事選の告示を報じる福島民報の号外