箭内道彦は、NHKのトーク番組『トップランナー』(2006年2月26日放送)にゲストとして出演した。司会は山本太郎と本上まなみ。そのとき、箭内はインタビューする側の本上の素顔を引き出すことに成功した。その才能をNHKプロデューサーに評価され、2008年4月、山本に続く5代目の男性司会者に起用された。コンビを組んだ女性司会者は、モデルのSHIHO(2008年4月~2010年3月)と女優の田中麗奈(2010年4月~2011年3月)だった。
2010年8月21日放送の番組にゲストとして出演したのは福山雅治だった。箭内と福山は、CDジャケットの制作を通じて以前から交流があった。同月11日にリリースされた福山の26枚目のシングル『蛍』は、CDジャケット、プロモーションビデオとも箭内が制作を担当した。

福山はこの年、NHK大河ドラマ『龍馬伝』の主役を演じていた。時の人だったので、通常より放送時間が15分延長された。番組の収録地もスタジオではなく野外だった。
箭内はこのとき、福山とふるさと談義を繰り広げた。
「僕が福島でコンサートを開くのは、復讐の意味がある。自分を閉じ込めて、抑圧してきた福島に対する復讐。県外に出れば、こんなに自由にやれるんだという姿を県民に見せつけたい」
箭内がこう言うと、福山は次のように答えた。
「僕も何かできないことがあると、ずっと長崎のせいにしていた。でも、悪いのは長崎のせいにしていた自分の方だった。そう気づいた瞬間があった」
箭内はその話を聞いて、がく然とした。箭内自身もまた「自分が引っ込み思案で、人の文句ばかり言っているのは福島に生まれたからだ」と思っていたからだ。それは福島とは無関係で、自分自身の問題なのかもしれない…。それ以来、箭内は福島への見方を変え、「福島が嫌い」と連呼することに慎重になった。

箭内は2010年9月、福島民報社と組んで「風とロック芋煮会」を開催した。場所は裏磐梯高原ホテル・ガーデン(福島県北塩原村)。前年に郡山市で開催した「風とロックFES福島」に続く野外ライブで、サンボマスター、THE BACK HORN、TOKYO No.1 SOUL SET、怒髪天、Number the、BRAHMAN、音速ライン、高橋優、箭内道彦が出演した。
このライブに合わせて、「ままどおるズ」「ゆべしス」「薄皮饅頭ズ」が大合併する形で「猪苗代湖ズ」(山口隆、松田晋二、渡辺俊美、箭内道彦)が結成された。最初は「磐梯山ズ」にする予定だったが、松田が異議を唱えた。
「磐梯山では会津のイメージが強すぎる。中通りの人(箭内、松田)や浜通りの人(渡辺)もいるんだから、県のまん中にある猪苗代湖の方がいいばい」
この意見が採用され、土壇場で猪苗代湖ズに変更になった。
オリジナル曲は、山口が作詞・作曲した。タイトルは『アイラブユーベイビー福島』。これが震災・原発事故後、『I love you & I need you ふくしま』に生まれ変わることになる。
渡辺はTOKYO No.1 SOUL SETではギターを担当している。山口、箭内もギター弾きなので、ギターが3人になる。そのままではベースが不在になる。ボーカルの山口がギターを弾くのは当然として、渡辺と箭内のどちらかがベースに回らなければならない。渡辺はギターしか弾けない箭内にパートを譲り、高校時代以来のベース担当になった。

箭内は中学生のときにギター演奏を始めた。ミュージシャンに憧れ、ギターを弾きながら歌を作った。
中学3年の夏休み、松山千春を生み出した北海道はどんな土地なのか確認したくなった。国鉄の北海道周遊券を購入し、郡山駅から夜汽車に乗り北海道へ。足寄町まで行き、千春の父・明と一緒に記念写真を撮った。北海道では主にユースホステルに宿泊した。そこでは大学生が焚き火を囲んで吉田拓郎の『落陽』を繰り返し歌っていた。
「苫小牧発仙台行フェリー あのじいさんと来たら、わざわざ見送ってくれたよ おまけにテープを拾ってね 女の子みたいにさ みやげにもらったサイコロふたつ 手の中でふれば また振り出しに 戻るたびに 陽が沈んでいく」(作詞は岡本おさみ)
箭内はこの歌詞と同じことをしたくなり、札幌でサイコロを2つ買った。苫小牧港フェリーターミナルで知らないおじさんに事情を話し、それらを渡した。
「そのサイコロを僕にください。船が動き出したら テープを投げるので、拾ってください」
県立安積高校に進学すると、フォークソング同好会に入った。友人とユニットを組み、ヤマハのポプコンに挑戦したが、3年連続で落ちた。

※北海道旅行と安積高校フォークソング同好会時代の思い出は、AERA「現代の肖像」と毎日新聞「時代を駆ける」2011年12月1日付を参考にした。