「福島県には明治以来、電源開発でお世話になっている。当社の発電設備の約4分の1が集中している。この関係を継続し、さらに強固にするため、新たな発想で地域振興に貢献したい」
東京電力の荒木浩社長は1994年8月、福島県庁で佐藤栄佐久知事にこう切り出した。
サッカーのナショナル・トレーニング・センター、後に「Jヴィレッジ」と呼ばれる施設の建設計画は、この一言から公になった。
一方で、荒木社長は福島第一原発2基、広野火発2基の増設計画を発表し、その要件となる環境影響調査の実施を佐藤知事に申し入れた。このうち、原発増設は双葉町側の遊休地を活用。出力は各135万6000㌔㍗で、建設費は計9219億円と試算された。

佐藤知事は東電に対して、以前から「電源地域の振興を考えてほしい」と要請していた。原発の建設中は作業員の出入りが多く、地元の商店街や飲食店などが潤う。しかし、原発が完成し、稼働を始めると、作業員が少なくなり、地元は淋しくなる。原発内で働く社員に雇用の場を提供するという役割はあるが、佐藤知事はそれだけでは不十分と捉えたのだ。
東電は公的な性格が強いとはいえ、あくまでも民間企業だ。地域振興を図るのは行政の役割。その福島県が東電にこんな要請をするのは、自らの責任を放棄したことに等しい。
しかし、東電は福島第二原発3号機の事故(前シリーズ参照)以来、佐藤知事に頭が上がらない立場になった。荒木社長が言ったように、福島県には東電の発電設備(※)がたくさんあるという事情もある。福島第一原発の増設を実現したいという思惑もある。そこで、佐藤知事の要請に応えるため、Jヴィレッジの建設計画を打ち出しのだ。
建設地について、荒木社長は「福島県の判断に委ねる」としながらも、「雪が少ない浜通りが最適ではないか」という見解を示した。

※福島県内にある東電の発電設備=原子力は福島第一(大熊町・双葉町)、福島第二(富岡町・楢葉町)の2か所。火力は広野(広野町)の1か所。水力は会津地方や猪苗代湖周辺に計15か所。このほか、東北電力と共同で電力卸会社の常磐共同火力発電(いわき市)と相馬共同火力発電(新地町)の2社を設立・運営している。

佐藤知事は、東電の提案に飛び付かなかった。この計画が地域振興に有効かどうかを判断するナショナル・トレーニング・センター建設構想検討委員会(座長・下平尾勲福島大学教授)を設置し、経済波及効果などを議論してもらうことにした。同委員会は3回の会合を開いた上で、「地域振興に極めて有効」と結論づけた。
これを受けて、東電立地環境本部の小菅啓嗣立地部長は、次のようにコメントした。
「当社の地域振興策を評価して頂き、ホッとしている」
寄付する側がへりくだり、受け取る側が大きな態度をとる。これが、この計画の不思議なところだ。
(つづく)