東京電力福島第一原発に到着した菅直人首相は、吉田昌郎所長にベント遅れの理由を問い質した。当時は全電源喪失で、電動ベントは不可能だった。手動でやれば作業員が被曝するが、吉田氏は「決死隊をつくってでもやります」と回答。菅氏はこれに納得し、周りに「吉田という所長はできる」ともらしたという。

菅氏の視察が作業員の手間を増やし、作業の進行を遅らせたという見方がある。一方で、福島民友新聞(3月1日付1面)=発行部数は約20万部=は、こんな記事を掲載した。
東電の協力企業のベテラン作業員、高山悟さん(仮名)のコメントだ。
「菅直人首相が視察に来たから作業が遅れたとされているだろ。
でも、全然そんなことない。俺たちは仕事をこなし、『こんなところにも総理が来てくれるんだ』と感心したぐらい。
批判は、現場を見ない、現場を知らない人たちの話さ」
菅氏が視察が来ても、応対するのは幹部だけだ。作業員は手を休めるわけではないから、作業の進行に影響は出ない。
原発事故では、自民党や一部メディアがあらゆる責任を菅氏に押し付けようとした。前述した見方を広めたのも、そうした勢力だ。自分に後ろめたい過去があるので、矛先が菅氏に向くようにしたのだろう。

事故の対応では、東電が現場から撤退するという話もあった。3月14日の夜、清水正孝社長が海江田万里経済産業相に電話で「第一原発2号機爆発の危険性が高まったので、作業員を第二原発に退避させたい」と申し出たのが発端だった。
これが後に「部分撤退、全面撤退のどちらを意味していたのか」という議論を巻き起こした。
(つづく)