宿直中の患者対応が重なり、これが原因となって大病を患った医師の労災申請が認められなかったという。


宿直届を出していたので、労働する必要はなかったというのが理由である。


宿直中の時間は休憩時間と定義されるらしい。その間に労働しても、労働時間はゼロにされるという。


だがたとえ宿直届を出していても、搬送された救急患者に対応するのは、人として当然の事である。ましてや医師なら尚更だ。


それが労働時間外であっても、だ。


医師という肩書であるがために、宿直中の治療は、労働とは認められないことになっただけで、実質明らかな労働である。


これが労災適用外というなら、救える命も救えなくなるだろう。


近年、日本全体で残業規制が厳しくなった。


働き方改革の一環だが、これは極めて日本的な問題で、サービス残業要請を拒否しづらい日本人の特質への方策でもある。


だが日本は、GDPにおいて世界第4位に後退した。円安の影響とは言え、西ドイツ(当時)を下回るのは1968年以来である。


もっと働けと言われるならわかるが、あまり働くなというのはどういうことだろう。


もちろん、子育てや家庭の時間を重んじる政策も大切だ。人口増計画の一環でもあるだろう。


しかし、それは経済とのバランスの上に打ち出されるものである。


最近、国や自治体レベルでも、多様性という言葉が用いられるようになった。


それぞれの意思を尊重するという意味では、良いのかもしれない。


であるならば、労働分野においても多様性は認められるべきだ。


働くか働かないかは、個人の自由である。


そして労災保険も多様性の上に適用されるべきである。


都合の良い時に、あたかも時代に即したような言葉を使うのは不適切だ。


1960年に、時の総理大臣池田勇人は「所得倍増計画」という長期経済計画を打ち出した。


10年以内に、日本人の所得を倍にするという目標を掲げた政策である。西ドイツを抜いたのもこの期間中だった。


実際には計画以上の経済成長を達成した。


当時とは世界情勢も日本の環境も異なるが、言葉自体は魅力的なものであり、国民の意欲を充分に引き出すものと言える。


日本は今、60年前の高度経済成長時代の日本に学ぶべきである。