『新幹線殺人事件』
森村誠一/角川文庫
2008年12月10日
容疑者は被害者の乗っていた「ひかり」より後発の「こだま」に乗っていた。前を行く新幹線の乗客を殺害することは不可能だ。アリバイは完璧に見えたが、捜査陣は容疑者が車内からかけた電話の発信エリアに着目する。そして芸能関係者が巻き込まれるもう一つの事件。そこにはビッグイベントの裏でうごめく、芸能事務所の飛躍をかけた利権争いが横たわっていた。
物語の土台をたっぷり据えてから本筋に入っていく。
東海道新幹線の、上下発着時刻の組み合わせ推理が見せ場である。両方ともアリバイ崩しが焦点だが、単なる鉄道ミステリーや怨恨モノではなく、1970年の大阪万博にからむ過酷なビジネスの世界を描いている。
二つの事件が、次第にマクロ的な視点から眺められるようになっていくのが醍醐味である。
東海道新幹線は、東京オリンピックが開催された1964年に開通した。
大阪万国博覧会は1970年である。本作の発表も1970年だ。
この2年前の1968年、日本はGNP(国民総生産)で西ドイツを抜いて世界第2位となっている。
いわゆる高度経済成長時代のクライマックス。戦後に急成長を遂げた日本の華やかさと危うさを題材に取った作品である。
1977年1月10日第1版
初出1970年8月光文社
