久しぶりに、録画していた『羽生結弦プログラムコンサート』を見ました。
みなさん、ようこそコンサートへ。羽生結弦です。
フィギュアスケートに音楽は欠かせないものです。一つ一つの音が合わさり、そしてその中でジャンプを跳んだりスピンを回ったり。音楽というものがあるからこそ、そこに表現や技術、そしてプログラムというものが生まれて来るんだと僕は思っています。だからこそ僕はフィギュアスケートを通し、音楽を表現して行きたいと強く思っています。
今回は、僕が初めて演じたプログラムから今シーズン演じているプログラムまでさまざまな楽曲を演奏して頂きます。最後までどうぞお楽しみ下さい。
冒頭「サマー・ストーム」の後、羽生さんの挨拶とともにコンサートが始まります。
羽生さんのフィギュアスケートは、音楽→表現→技術→プログラムという順番に生まれてくるのだということが、羽生さんの言葉からもわかります。
音楽があるから表現したくなる。表現するには技術が必要。もっと思いを込めて(強烈に、あるいは柔らかく)表現しようとするともっと技術が必要になる。羽生さんはそうやって進化してきた人なんだなと思います。だから羽生さんのフィギュアスケートは大本の始まりから、音楽とともにある。ウォームアップでもクーリングでも、一本のジャンプでも、シンプルなストロークでも、羽生さんのスケートからは音楽が聞こえてくるのはそういうわけなんだと思います。
このコンサートを聴いて(テレビと録画で)、これは羽生さんから音楽たちへの恩返しかな? と思いました。
羽生さんはこの音楽会開催に当たり、それぞれの曲たちに、
「ずっと僕のスケートを支えてくれてありがとう。今日は、君たちが一番輝くように演奏してもらうんだよ」
と言って、送り出したのではないかなと想像しました。
フィギュアスケートのプログラム曲は、どうしたって、音楽を一定の時間に収めるために切ったり貼ったり、速くしたり、遅くしたり、編集をしなくてはならない。自分がスケートするために、音楽達にいつも無理をさせてしまっているけれど、今日は、伸び伸びと本来の演奏をしてもらってきて。
そんなことを羽生さんが思ってのコンサートではないかと感じました。
編集無しで全曲演奏した曲目がいくつもあったのと、プログラムの音楽よりテンポが遅い演奏がいくつかあったからです。
『ロシアより愛を込めて』『火の鳥』『ノートルダム・ド・パリ』『ロミオとジュリエットⅡ』は、プログラム曲よりテンポをゆっくり取っていました。そのためなのか、「こんなに素敵な曲だったのか」と驚くことがたびたびありました。
特に『ノートル・ダム・ド・パリ』は、一生懸命滑っている17歳の羽生さんに胸を打たれはしても、素晴らしいプログラムだと思ったことはなかったので(失礼)、こんなに情感あふれる曲だったのかと思ったのです。そういえば、昨年の白壁通信で、羽生さんが踊ったダムパリは、以前とは振り付けも雰囲気も違いました。羽生さんが今ダムパリを滑るとどんな風になるのか、拝見したいなあと思いました。
ところで、オーケストラの後ろの大画面に映る羽生さんの演技映像が、ゆっくりになった曲に合わせてスローになっているだけでなく、ジャンプの着氷やスピンが音にピタリとあっていたのには驚きました。
指揮者が映像担当者の速度調整まで指揮しているということ? いくら何でもそれは無理でしょう。一体どうなっているの???
頭の中が「?????」で一杯になってしまいました。
そうしたら、最近答が見つかりました。
『Sports Graphic Number PLUS FIGURE SKATING TRACE OF STARS 決意の銀盤 フィギュアスケート2020-2021シーズン総集編』の中で、指揮者の永峰大輔さんがこう書いていたのです。
このコンサートはステージの巨大なスクリーンに映し出される羽生選手の演技の映像とオーケストラの演奏を融合させる形式で実施されました。演技と演奏をきちんと合わせて表現したいという主催者の方の意向から、クリック(テンポをキープするための音)に合わせて音源通りのテンポで演奏する必要があり・・・
おそらく、上に挙げた4曲については、
永峰さん「この曲はこの位のテンポで演奏したい」
映像担当者「では、そのテンポに合わせて映像をつくります」
永峰さん「では、その映像に合わせて演奏します」
というような段階を踏んで制作したのかな、と想像しています。
映像担当者は、指揮者とテンポを打ち合わせて、特徴的な滑りのところでは、そのテンポと合うように動画をスローにし、静止画の方がよいと思われるところでは静止画を持ってくる。感動してしまった。
5歳の時のウルトラマン・ガイアでは、まず作曲者が佐橋俊彦さんだということにびっくり。佐橋さんは私の大好きな『ちりとてちん』(2007年度後期NHK朝ドラ)の劇伴作曲者なのです。当時(から数年間)どれだけ『ちりとてちん』CDを聴きまくり笛やらピアノやらで弾いたことか! そして、このウルトラマン・ガイアの時に大写しになったトロンボーン奏者が、山形交響楽団トロンボーン首席奏者の太田涼平さんで、ダブルで、羽生さんと関係ないところでびっくりしました。ほんま、関係ない・・・。
このコンサートは、まず大編成のオーケストラ。そこに通常のオーケストラにはいないギタリスト、ドラマー、シンガー、和楽器奏者が加わる。オーケストラ奏者もただかき集めたのではなく、奏者を厳選している感じがする。何しろ我らが首席奏者太田さんがいる。それとも太田さん羽生さんのファンなのかな。
さらに、何と贅沢なソリスト達。川井さん、福間さん、中鉢さん、塩入さん。普通定期演奏会ではソリストは1人だけですもの。
羽生さんの世界を表現するために、制作側も出来る限りのことをしようとしたんだなというのが伝わってきました。
そして、出演者が羽生さんや彼の演技について語る言葉が一言一言しみました。
指揮者の永峰さん
羽生選手の演技を見ていると何故か涙が出てくる。僕、おかしいのかな。
羽生選手は音楽を身体で感じている。
羽生選手の演技を見ることは、自分が音楽を表現している体験と似ている。それが心に響いてくる。
羽生選手の手の動きが好き。手、指の先まで音楽がある。
シンプルなものにエネルギーを注ぐ難しさ、大切さ。羽生選手は音に色んなものを込めている。自分もそうありたい(意訳)。
『天と地のレクイエム』を演奏する前の塩入さんの言葉
以前コラボすることになったとき、羽生さんが「自由に弾いて下さい。この曲への想いをピアノに乗せて頂ければ、僕はどんなテンポでもどんなきっかけでも踊れます」と伝えてくれたとき、胸が熱くなりました。本当のコラボレーションをやるんだ・・と。
若干25歳でここまでの広さと重さを持った音楽と一緒に演技してきたのは脅威的なこと。まさしく音をまとうスケーター。生きることの喜びと共に、厳しさ、祈りまでも表現してくれる。(2019)年末のMOIでのSEIMEIは神がかった別次元の演技だった。
Notte Stellataとオペラ座の怪人を歌った中鉢さんは、NumberPlus(前出)で羽生さんの音楽解釈を絶賛していました。このコンサートは2020年1月。NumberPlusが発刊されたのが2021年3月。もちろんNumberが取材したのはそれより前だろうけれど、それでも約1年前のことをこれだけ熱く語るというのは、羽生さんに対する敬愛の念が深いんだろうなと思いました。
中鉢聡(ちゅうばちさとし)さんのエビデンスです。
— まあさ (@nZ6MfIeulsqW1su) September 9, 2021
「オペラ座の怪人の冒頭ジャンプの着氷は、リッカルド・ムーティの指揮の音の取り方(意訳)」など沢山。 pic.twitter.com/icx8nZrAwj
中鉢さんの『Notte Stellata』を聴いたときは、低めに音を取るのが気になりました。私は自分がピアノしか弾かないので、例えばラの音は440Hzと思ってしまうところがあります。でも声楽を始め多くの楽器においては音程の幅を持たせて表現するのだということをしょこらぁでさんのブログで知りました。
そうかと思って聴いてみると、低めの音で優しく歌われると愛の言葉をささやかれてるいるような気がしてきます(単純です)。
そして『オペラ座の怪人』を高らかに歌い終わった後、スクリーンの羽生さんの演技を中鉢さんがしみじみと観ているのが印象的でした。
特筆すべきは、『オペラ座の怪人』で中鉢さんが、羽生さんの演技(2014GPF)そのままのテンポの映像と合わせて歌ってくれたことです。これは中鉢さんが羽生さんのテンポの取り方に敬意を払い、尊重してくれたからだろうなと思います。私が思うに、一般に演奏のテンポはソリストが決定しますよね。それに伴奏ないしオケの指揮者が合わせるのです。しかるに、中鉢さんは羽生さんに合わせた。これは中鉢さんがこの演奏のソリストは自分ではなく、羽生さんであると考えたということなのではないかと思いました。
その他に羽生さんの演技に合わせたテンポで演奏されたのは、『ミッションインポッシブルⅡ』『旧ロミオ+ジュリエット』『パリの散歩道』『Origin』『SEIMEI』だったと思います。MIⅡは正直言うと私はよくわからないのですが、他のプログラムは全て、羽生さんが音を奏でていると言ってよい演技だと思います。永峰さんが、このテンポでの演奏を決めたのがわかるような気がします。
福間洸太朗さんの言葉
2015FaOIで急遽バラード第1番でコラボをすることになったとき、演奏者の呼吸を瞬時に感じ取るだけでなく、音の持っている感情、性格、表情、音がどのように伸びて消えて行くかというところまで表現して下さった。
羽生さんは、高難度のジャンプ、スピンを音楽表現の一度、芸術作品の一部として捉えている。そのことが嬉しい。それが出来るアスリートは限られている。
一生応援して行きます。
福間さんは羽生さんのファンなんですね。2015FaOIの共演をしたことで「一生分の運を使い果たしたのではないかと思う」とまで言ってしまうとは。ファンとしての運という意味で捉えておきますね😄。
指揮 永峰大輔
Music with Wings オーケストラ
https://www.bilibili.com/video/av89148803/
全日本まで2週間余りになりました。
羽生さんの素敵な演技を心待ちにしています。
その前に、明日は27歳のお誕生日ですね。
良い日、良い一年となりますように。