小特、取っちゃう?
と、言っても、試験を受けなきゃ取得できないのは普通免許と同じである。
小型特殊車両免許を取得する手順をブログにしている親切な人が、検索するとけっこういる。私もその手順に倣うことにした。
売れ筋一位の参考書とゼンリンのアプリを手に入れて、読んで解いて読んで解いてを周回するうちに試験の日が来た。
午後だと仕事にかぶっちゃうから午前8:00集合の部だ。江東の免許センターに早めにいくとすでに行列が出来ていた。7:45〜入場、手続きを進めていく。デジタル化がすごくてめっちゃ楽。あっという間に受付、受験票の発行と記入、視力検査と質問票の記入、3階で受付を済ませて待機。
試験官から説明を受け、タブレットで試験。残り時間がはっきり画面に表示されるから安心。試験にかかる時間は人数に左右されるので何時に何があったとは明記しない。その時によります。
1、2問ちょっとそれどーゆー日本語なんだよって思ったりするのがあった他はまずまず間違えようのない問題だった。だいたい50問くらいで45正解なら合格する。三回見直して、試験時間30分が終了した。
結果を送信、タブレットはそのまま机の上に置き去りにして退出。
合否発表はわりとすぐだった。合格していた。
不合格者が説明を受け退出した後、合格者は交付の金と写真撮影。これも流れ作業であっという間である。
試験前の説明で、合否発表のあとはすぐ写真になるからちゃんと身だしなみ整えてこいよッ!!て試験官が怖い顔してたけどそういうことである。
試験場でスマートフォンの使用、鏡や櫛などの使用は禁じられている。身繕いしてないままのボンヤリ顔を3年間身分証明書として使いたければ勝手にするがいい、ということだ。
番号が若かったので早く解放された私は、四階の食堂に向かった。定食とラーメン、カレー、パン、コーヒーとお菓子のセットなどがお手頃価格。売店にはリラックマやすみっコぐらしとのコラボ警察グッズが並んでいる。
アジフライ定食を食べて退出、人気のないフロアの長椅子で時間潰す。結構時間かかったので、スマートフォン以外のなんか…本かなんかあればよかったな。まあまあ待ちくたびれたころに、番号が呼ばれた。
受け取り、本籍/国籍確認をして終了。
取れた。小特の運転免許が取れた。
面白いか。どうだこの野郎、小型特殊車両の免許だ面白いか!?っつって見せつけてやりたいが、絶対あいつ言ったこと忘れてるだろうな、完全に。
これからはパスポートの代わりにこれ身分証明書に使おうと、よくよく免許証を見てみたら証明写真、頭頂部にアホ毛が揺れていた。あんまり急ぐと面白いことになってしまいますのでみなさんはお気をつけて撮られてくださいね。
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誰が小特なんか取るか。
30年前はそう思ってた。
小特、というのは、小型特殊車両の略称である。農耕に使うはたらくくるまなど、一定の規格内に収まる車両を指す。普通免許を取得すると、原付同様付いてくる。だからわざわざ小特だけ取る人は少ない。
30年前、私は普通免許を取るのに失敗した。壊滅的な運転センスを持っているということをやっと受け入れたのは、3度目の仮免実技を落ちた時だった。同乗者の青ざめた顔を見て、さしもの私も改心した…もう2度と、人にこんな思いをさせてはいけない。
私はとある古い友人にその話をした。彼は鼻で笑いながらこう言った。
「じゃあ小特取りなよ。小型特殊車両」
「なにそれ」
「トラクターとかを公道で運転する免許だよ。普通免許取ると取れてるんだけど、それだけでも取れるんだよ」
「取って…どうすんだよ」
「身分証明に使えるでしょ?面白いじゃん!!普通免許かなって思って見てみたら小特!まさかの小特!!絶対面白いって!!取りなよ!!!免許全種取っちゃう人いるけどさ!!それの逆!!取りなよ!!!」
彼はげらげら笑いながら私をバカにしたような目で見下ろした。まあ、私は144cmしかないので大抵の人は私を含むところなく見下ろすはめになるのだが、この時の彼は完全に私を見下していた。
波風立てたくなかったから平静を装ったが心の中は煮えくりかえっていた。私は運転したかった。だが恐怖心に負けたのだ。
(誰がそんな免許取るものか。馬鹿にしやがって…!!)
内心で悪態をつくばかりで、表面では「気持ちを明るくしてやった俺」って顔してる友人のメンツを潰さないように愛想笑いを浮かべるだけだった。
しかし私も、他人の傷を笑いのネタにしたことなど数えきれないくらいある。付き合いのあった人の頭部の深い剃り込みを、私は好ましく思っていたので時々イジっていた。
しかし彼は本当に気にしていた。
バーコードにだけはなりたくないと深刻に濃いまつ毛を伏せるのだった。
(死ぬわけじゃねえし)
そう思った私は、やれベリーショートにしろ、嫌ならウィッグで理想の髪型追求すりゃいいだろ、どっちも似合いそうだからやってみろよ、と好き勝手なことを言っていた。
色々あってその彼とはお別れとなったのだが、ウン十年経って突然、道端でバッタリ出くわした。
だがしかし、なにか釈然としない。
向こうも中途半端な表情で私を見ている。
(確かに彼だが、何かが違う…)
私はコンビニに入り買い物を済ませ、出てきたら彼はもういなかった。そうだ。
(ウィッグ、してた…)
髪の毛がフサフサと自然に風に揺れていたのだった。
そうか。思い切ったのか。
どうりで明るい雰囲気だった。自己を受け入れた人間というのは満ち足りて落ち着いた表情になるものだ。別れて正解だった。
近くにいた時は色んな感情が邪魔してぶつかり合っていたけれど、離れればこんなにお互いに幸せに生きていける。
彼にはその時が来て、そして自分らしく生きているのだ。なんだか嬉しくなってきて、気持ちよく歩いていると、私の時も動き出した。
思えば、ちょっと見下されたぐらいでキレ散らかしてヘソを曲げるなんて、ずいぶん子供っぽい振る舞いだった。それに、あいつにしたって悪気じゃなく、ただ軽い気持ちで明るい話題にしたかっただけなんだ。
(…小特、取っちゃう…?)