ロシアのネイサンファンが膨大な情報を一つに集めた壮大なネイサン半生記を書いていると話題になって暫く経つ。昔ならロシア人がロシア語で書いたブログの内容を日本人が知る術などなく、そもそも存在自体知ることはなかったろうことを思うと、何とも驚くべき時代になったものと今更ながらに驚嘆せざるを得ない。中国からの移民二世の米国人フィギュアスケーターの事をロシア人のファンが記事にしたものを、日本語(若しくはスウェーデン語)に瞬時で機械訳して読めるという、ロッテンベリー(スタトレの生みの親です、念のため)も想像できなかったとてつもない未来が到来してしまった![]()
・・てのはさて置いて
これは読まねばなるまいな、と思いつつ、その量の多さに尻込みしてちょっと足踏みしていた。BEBEさんが記事にされているのを拝見して漸く覚悟を決めた次第。
The Land of All さんブログより。
二つのエントリに分かれている。更にこれで終わりではなく続編があるとのこと。ほんと凄い力作だ。やっぱり熱いね、ロシア!!![]()
読了して暫し言葉なしだ。
ネイサンが才能豊かで頑張り屋なのは知っていた、知っていたつもりだったが・・・う~ん、実は全然分かってなかったなあ。
そもそも、たった22歳の若者の経歴を書くのにこれだけの文字数が必要ってのが異常な事だと思う。ナニですね、ネイサンはかのハーマイオニーが魔法のペンダント使って時間を逆行して複数の講義を受けていた、あれと似たような手を使っていたんじゃないか、とマジで疑いたくなった。(ネイサンがハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンのファンなのも分かる気がするね。似た者同士
)
5歳ごろから十代の初頭辺りまで、彼が一体どれだけの事を同時並行で学んでいたと思う?フィギュアスケート、アイスホッケー、体操、バレエ、ピアノ、ヴァイオリン、ギター。しかも、ヴァイオリンを除く全ての種目で、ネイサンは平均をはるかに上回るレベルに到達している(ヴァイオリンだけはイマイチだったらしい
)。それぞれの具体的な業績を目の当たりにすれば、当時各界のコーチがネイサンを取り合いしていたというのが、決して誇張ではなかったのが分かる。体操とバレエが相当の腕前だったってのは聞いてたけど、アイスホッケーでもそこまで嘱望されていたってのは今回初めて知った。しかも、その間ネイサンは学業も怠ることなく・・どころか、どさくさに紛れて(?)なんと飛び級してる![]()
ほんと~、何なのこの坊や?!![]()
小っちゃくてシャイで目立たない子供なのに、一度実技に入るとその卓越した身体能力は隠しようもない。一目でフォーリンラブ
ってのがジャンルを越えて共通な指導陣の反応。
しかも、チビネイサンは身体能力だけではなく、集中力、理解力等も年にそぐわない成熟度を見せた。クラスの他の子供たちが、こけては母親に抱きかかえられるのを待っているその傍で、彼は一人熱心に技の習得に打ち込んでいた・・ってのはフィギュアに於ける最初のコーチグロスクップさんの証言だが、他の種目でも同様だったに違いない。
またこういう逸話がある。ネイサンが5歳の時、フィギュアのショーでソロを演じている最中に転倒してブレードで右膝を負傷した(3針縫う重傷)。が、彼は痛みも出血も無視してすぐに立ち上がり、演技を最後までやり通したという。たった5歳の子供の何処にこのようなプロフェショナリズムがあり得たのだろうか。
こういう姿勢は躾やコーチングで引き出せるものではないだろう、余りにも幼過ぎる頃の話だ。ネイサンが持って生まれた性格と言うしかない。
対して、このような卓越した能力があり、無数の成功と賞賛に囲まれながらも、舞い上がることなくいつも地に足を付け謙遜さを失わない、この性格は間違いなくご両親、特にお母様の育て方の賜物だと思う。
ちょっと見には典型的な教育ママ?という印象を受けるが、実はどうもそうではないらしい。強制するのではなく、子供のやりたい事をよく聞き、それを全力でサポートするという方針だったようだ。まあ、子供の質がめっちゃ良いので、お尻引っ張たく必要などそもそもなかったのかも知れないが(笑)。何も言われなくとも、チェン家の子供達は自発的に己が可能性を追求し、それぞれの得意分野で頭角を現していった。知れば知るほど優良遺伝子の凝縮プールとしか思えないチェン家ではある。
ネイサンに対しては過干渉な部分も正直あったとは思うが、きっとお母様も平昌を学びとされたのだろう。大学入学を機に、ネイサンの背を押して独り立ちを促された。なんという賢母であろうか。同じ母親として自分の不徳さが浮き彫りにされて、ちょっと(いや、かなり
)へこむ。
成功したスポーツ選手の過去を振り返り、かつての指導者や同僚の話を聞くというのはよくある企画だ。「当時から彼は違っていた」なんてエピソードも当然出てくる。しかしながら、その『過去の指導者や同僚』がこれだけ多岐に渡る選手が他にいるだろうか。
ネイサンの『今』を語るにおいて一言申し上げたい人々が、フィギュア界は言うに及ばずバレエ界、体操界、アイスホッケー界・・果てはピアニスト界隈にまで存在する。皆ネイサンとの邂逅に強い印象を受けており、彼のその後に注目していた。彼らの話を聞くと、フィギュアスケーター、ネイサン・チェンの今を形成したのはフィギュアの修練だけではないのだと実感する。バレエ、体操は言うに及ばず、アイスホッケーだって大きな糧となっている。アイスホッケーで仲間との協調性を学び、それが今とても役に立っているとか。またフィギュアの為にバレエを練習する選手は結構いると思うが、ネイサンのバレエへの関わりはそんなレベルではない、バレエ自体で将来を嘱望されていたのだ。彼はひと頃陸上と氷上で並行してジャンプを練習していたそうだ。それが相乗効果を生み、バレエとフィギュア両方で卓越したジャンパーとなった。
「みんなで羽生結弦を創ってきた」とかいうキャッチが以前あったけれど、ネイサン・チェンの創造に加担した人々の裾野の広さは他に比類なしである。
そういった事実を見てみると、ネイサンがこれ程の選手になったのは決して偶然ではなかったんだと分かる。
先ず持って生まれた才能が違う。彼は言ってみればスポーツ界のレオナルド・ダヴィンチだ。ダヴィンチにとって絵画は数ある関心事の一つに過ぎない、が、生涯絵一筋に打ち込んできた大方の画家達を遥かに凌ぐ数々の名画を残した。ネイサンのフィギュアもそういうものかも知れない。(不公平といえば不公平この上ない話だが、世の中そういう意味では元々万事が不公平なものなのだ。)
加えて、その才能を存分に活用し、様々な学びをする機会を与えられた。彼が今日見せている類まれなる技術、感性、メンタル、それらが形成されてきた過程は極めて複雑にして多岐にわたっており、真似ようとしても出来るものではない。コピー不可能の唯一無二な存在である。体幹が良いのは体操やったから、ポージングが美しいのはバレエやったから・・・なんていう局部的なことではなく、全ての要素が複雑に絡まり合って一つの完成体として存在するのが現在のネイサン・チェン。
だから
無敵だ。
誰にも勝てない。
・・ということを、この記事を読むことで腹の底から実感してしまった。
こういう破格の天才は歴史の折々に出現する。
彼らの存在意義ってなんだろうとちょっと考えてみた。もちろん結論は出ない。出ないが、我々凡人にとっても人間の無限の可能性に思いをはせる好機になるかなとは思う。
フィギュアファンとしては、ネイサンがフィギュアを選んでくれたことに心より感謝したい。フィギュア界の内側で生まれた天才なら彼以外にも多数存在する。が、彼は外宇宙から飛来した異星人で、必然的にフィギュア界のこれまでの常識は通じない。かなりゴタゴタするだろう。でも、多分そういうひっかきまわしが必要な時期だったんだろうと思う。ネイサンが今登場したのは歴史の必然 (Thanks Heaven)。
ファンであるなしに関わらず、この力作ドキュメンタリー一読お勧めします。常識と思っていたものが実は極めて偏狭な思い込みだったとかいう気付きを得られるかもです。
最後に
男っぽい(フィギュアらしからぬ)ネイサンの原点
どぞ!!

